StudyMed医師国家試験

「吐ききれない肺」で読み解くCOPD―間質性肺炎との対比で所見を整理する

第113回医師国家試験 F問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第38問

COPDでみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.残気量増加
  2. b.拡散能上昇
  3. c.A-aDO2開大
  4. d.血清KL-6上昇
  5. e.fine crackles聴取

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はCOPDの病態から、呼吸機能検査、血液ガス、血清マーカー、聴診所見を予測する問題だ。コツは、肺が「壊れて膨らみすぎる」COPDと、肺が「硬くなって縮む」間質性肺炎を対比させて考えること。まずはCOPDで肺に何が起きているか、説明できるかな。
医学生医学生
長年の喫煙で末梢気道に炎症が起きて、肺胞壁が壊れて気腫になる病気ですよね。病理実習で、肺胞が融合して大きな空洞になった標本を見ました。
ドクタードクター
その通り。肺胞壁が壊れると、肺が縮もうとする弾性収縮力が弱くなる。さらに、肺胞壁が末梢気道を外から引っ張って支える力も失われるから、息を吐くときに末梢気道がつぶれやすくなる。すると何が起こると思う?
医学生医学生
息を吐ききる前に気道が閉じてしまうので、空気が肺の中に残る……エアトラッピングですか。
ドクタードクター
正解。だから残気量や機能的残気量、残気率が増え、肺は過膨張する。胸部X線写真で肺野の透過性亢進、横隔膜の平低化、滴状心がみられ、身体所見では樽状胸郭になるのはこのためだ。残気量増加はCOPDの典型所見だね。
医学生医学生
肺が大きくなるなら、ガス交換の面積も増えて拡散能は上がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。肺の容積が増えても、ガス交換をする肺胞壁と毛細血管床そのものは壊れて減っている。だからDLCO、つまり一酸化炭素肺拡散能はむしろ低下する。DLCOの低下は気腫の程度をよく反映するんだ。
医学生医学生
喘息との鑑別にも使えるんでしょうか。どちらも閉塞性障害ですよね。
ドクタードクター
いい質問だ。気管支喘息では肺胞は壊れていないので、DLCOは正常であることが多い。だから閉塞性障害でDLCOが下がっていれば、COPDの気腫性病変を考える手がかりになる。ちなみに拡散能が上昇するのは、多血症、肺胞出血、左右シャントなどで肺血流量が増える場面だよ。
医学生医学生
A-aDO2の開大は、ガス交換が障害されていることを示す指標でしたよね。CBTの勉強で計算式を覚えました。
ドクタードクター
そう。A-aDO2は肺胞気と動脈血の酸素分圧の差で、健常者では10 Torr前後。COPDでは換気の悪い領域と血流の分布がずれる換気血流比不均等や、拡散障害のために、A-aDO2が開大した低酸素血症になる。だからこれもCOPDでみられる所見だ。
医学生医学生
逆に、A-aDO2が正常な低酸素血症というのもあるんですか。
ドクタードクター
ある。肺胞低換気だけが原因の場合、たとえば薬物による呼吸抑制では、肺そのもののガス交換は正常だからA-aDO2は開大しない。低酸素血症の原因を区別するのに便利な指標なんだ。なお、COPDも進行すると肺胞低換気が加わって高二酸化炭素血症、つまりII型呼吸不全を示すことがある。
医学生医学生
血清KL-6は、呼吸器内科の実習で間質性肺炎の患者さんの経過を追うのに使われていました。
ドクタードクター
よく見ているね。KL-6はII型肺胞上皮細胞が産生する糖蛋白で、肺胞上皮が傷害されて再生しているときに血中に増える。特発性間質性肺炎、膠原病に伴う間質性肺炎、過敏性肺炎、薬剤性肺炎などで上昇し、活動性の指標になる。SP-AやSP-Dも同じ目的で使われるけれど、COPDでは通常上がらない。
医学生医学生
fine cracklesも間質性肺炎ですよね。実習で「マジックテープをはがすような音」と教わりました。
ドクタードクター
まさにそれ。吸気の終わりに両側の肺底部で聴かれる細かい断続性副雑音で、硬くなった末梢気道や肺胞が吸気時に急に開くことで生じる。間質性肺炎や石綿肺の代表的な所見だ。COPDの聴診では呼吸音の減弱と呼気の延長が中心で、増悪時にはwheezesやrhonchiが聴かれることもある。
医学生医学生
整理すると、COPDでは残気量が増えてA-aDO2が開大し、拡散能は下がる。KL-6上昇とfine cracklesは間質性肺炎の所見、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に診断の基本も押さえておこう。COPDは、喫煙歴などの長期吸入曝露があり、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率が70%未満、かつほかの閉塞性疾患を除外して診断する。病期は予測値に対する1秒量の割合で分類する。フローボリューム曲線ではピークの後が下に凹む形になるのも特徴だ。
医学生医学生
身体所見では、口すぼめ呼吸や胸鎖乳突筋の肥大もありましたよね。
ドクタードクター
そう。口すぼめ呼吸は呼気時に気道内圧を高めて末梢気道の虚脱を防ぐ工夫で、エアトラッピングの病態そのものを反映している。臨床では、肺高血圧症や肺性心、骨粗鬆症、心血管疾患、肺癌といった合併症にも目を配ることが大切だ。病態から所見を予測できれば、暗記に頼らずに応用がきくよ。

まとめ

COPDは喫煙などにより末梢気道の炎症と肺胞壁の破壊が起こる疾患で、弾性収縮力の低下と呼気時の気道虚脱によりエアトラッピングが生じ、残気量・機能的残気量・残気率が増加して肺が過膨張します。肺胞壁と毛細血管床が失われるため拡散能(DLCO)は低下し、換気血流比不均等によりA-aDO2が開大した低酸素血症を示します。これに対し、血清KL-6上昇や吸気終末のfine cracklesは間質性肺炎に特徴的な所見であり、拘束性障害を示す点でもCOPDと対照的です。また、喘息ではDLCOが保たれることが多く、肺胞低換気のみによる低酸素血症ではA-aDO2が正常である点も鑑別に役立ちます。「壊れて膨らむ肺」と「硬く縮む肺」を対比して病態から所見を導く考え方は、呼吸器疾患全般の理解の基盤になります。

解答・解説

正解はa, cです

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の病態から、呼吸機能検査、血液ガス、血清マーカー、聴診所見を予測する問題である。間質性肺炎の所見と対比させて整理すると解きやすい。

COPDの病態

COPDは、主に長期の喫煙によって有害物質を吸い続けたことで、末梢気道の炎症・狭窄と肺胞壁の破壊(気腫化)が起こり、完全には元に戻らない気流閉塞をきたす疾患である。 ・肺胞壁が壊れると肺の弾性収縮力(縮もうとする力)が弱まる。そのうえ呼気時に末梢気道がつぶれやすくなるため、息を吐ききれず空気が肺内に残る(エアトラッピング)。その結果、残気量や機能的残気量が増え、肺は過膨張する。 ・肺胞壁と毛細血管床が失われるため、ガス交換に使える面積が減り、肺拡散能は低下する。 ・換気の悪い領域と血流の分布がずれる(換気血流比不均等)ため、肺胞気と動脈血の酸素分圧の差(A-aDO2)が開大する。

間質性肺炎との対比

これに対し、肺の間質が線維化して硬くなる間質性肺炎(肺線維症)では、肺が膨らみにくくなる拘束性障害(肺活量・全肺気量・残気量の低下)を示す。血清KL-6の上昇や、吸気終末のfine crackles(捻髪音)が特徴である。 したがって、COPDでみられるのは残気量増加とA-aDO2開大の二つである。

選択肢考察

  1. ○a.  残気量増加

    COPDでみられる。肺の弾性収縮力が低下し、呼気時に末梢気道が早くつぶれるため、吐ききれない空気が肺に残る(エアトラッピング)。その結果、残気量(RV)、機能的残気量(FRC)、残気率(RV/TLC)が増え、肺は過膨張する。胸部X線写真では肺野の透過性亢進、横隔膜の平低化、滴状心がみられ、身体所見では樽状胸郭がみられる。

  2. ×b.  拡散能上昇

    COPDではみられない。COPD、特に気腫が優位の病型では、肺胞壁とそこを走る毛細血管が壊れてガス交換面積が減るため、一酸化炭素肺拡散能(DLCO)は低下する。DLCOの低下は気腫の程度をよく反映する。気管支喘息ではDLCOは正常であることが多く、この点が両者の鑑別に役立つ。拡散能が上昇する場面としては、多血症(赤血球増多症)、肺胞出血、左右シャントなどによる肺血流量の増加などがある。

  3. ○c.  A-aDO2開大

    COPDでみられる。A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)は、肺胞気の酸素分圧と動脈血の酸素分圧の差であり、肺でのガス交換の障害を表す。健常者では10 Torr前後で、加齢とともにやや大きくなる。COPDでは換気血流比の不均等と拡散障害のため、A-aDO2が開大した低酸素血症となる。肺胞低換気だけが原因の低酸素血症(薬物による呼吸抑制など)ではA-aDO2は正常であり、これと区別する指標として使う。病期が進むと肺胞低換気も加わり、高二酸化炭素血症(II型呼吸不全)を示すこともある。

  4. ×d.  血清KL-6上昇

    COPDでは通常みられない。KL-6はII型肺胞上皮細胞が産生する糖蛋白(MUC1に属するムチン)で、肺胞上皮が傷害されて再生しているときに血中に増える。特発性間質性肺炎、膠原病に伴う間質性肺炎、過敏性肺炎、放射線肺炎、薬剤性肺炎などの間質性肺疾患で上昇し、活動性の指標になる。同じ目的で使われる血清マーカーにSP-A、SP-Dがある。肺腺癌や膵癌、乳癌などの悪性腫瘍で上昇することもある。

  5. ×e.  fine crackles聴取

    COPDに典型的な所見ではない。fine crackles(捻髪音)は、吸気終末に両側の肺底部で聴かれる細かい断続性副雑音であり、硬くなった末梢気道や肺胞が吸気時に急に開くことで生じる。間質性肺炎(肺線維症)や石綿肺の代表的な所見である。COPDの聴診所見は、呼吸音の減弱、呼気の延長が中心である。増悪時や気道分泌物が多いときには、wheezes(高音性の連続性副雑音)、rhonchi(低音性の連続性副雑音、いびき音)、coarse crackles(水泡音)が聴かれることがある。

COPDの診断

喫煙歴などの長期吸入曝露があり、慢性の咳・痰や労作時の息切れを示す患者で、気管支拡張薬を吸入した後のスパイロメトリーで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満であり、ほかの気流閉塞をきたす疾患(気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症など)を除外できれば診断する。病期は、予測値に対する1秒量の割合(%FEV1)で分類する(I期80%以上、II期50%以上80%未満、III期30%以上50%未満、IV期30%未満)。

COPDでみられる所見のまとめ

・呼吸機能:1秒率の低下、1秒量の低下、残気量・機能的残気量・残気率の増加、全肺気量の正常〜増加、DLCOの低下。フローボリューム曲線では、ピークの後に下向きに凹む形になる。 ・身体所見:樽状胸郭、口すぼめ呼吸、呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の肥大、Hoover徴候(吸気時に下部肋間が内側へ引き込まれる)、呼吸音の減弱と呼気延長。 ・画像:胸部X線写真で肺の過膨張、横隔膜の平低化、滴状心。胸部CTで低吸収領域(気腫)。 ・血液ガス:A-aDO2の開大を伴う低酸素血症。進行するとPaCO2も上昇する。 ・合併症:肺高血圧症や肺性心、骨粗鬆症、心血管疾患、肺癌など。

閉塞性障害と拘束性障害の対比

・閉塞性(COPD、喘息):1秒率の低下。COPDでは残気量の増加とDLCOの低下がみられる。 ・拘束性(間質性肺炎など):%肺活量の低下(80%未満)。全肺気量・残気量の低下、DLCOの低下、KL-6・SP-Dの上昇、fine cracklesがみられる。

A-aDO2の求め方(室内気吸入時)

A-aDO2 = PAO2 − PaO2 PAO2 = 0.21 ×(760 − 47)− PaCO2 / 0.8 ≒ 150 − 1.25 × PaCO2 低酸素血症の原因のうち、肺胞低換気だけによるものではA-aDO2が正常である。換気血流比不均等、拡散障害、シャントではA-aDO2が開大する。

POINT

・COPDでは肺の過膨張により、残気量・機能的残気量・残気率が増加する。 ・肺胞壁の破壊でDLCO(拡散能)は低下する。喘息ではDLCOは保たれることが多い。 ・換気血流比の不均等によりA-aDO2が開大する。 ・KL-6上昇とfine cracklesは間質性肺炎を示唆する所見である。 ・COPDの診断は、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であることによる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。