HIVの薬を選ぶ鍵は肝臓にあり―B型肝炎合併が抗HIV療法を左右する理由
第112回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。1年前から口唇ヘルペスで3回の治療を受けた。歩行時の息苦しさを主訴に受診し,ニューモシスチス肺炎と診断された。ニューモシスチス肺炎の治療と同時に基礎疾患が検索され,HIV感染症と診断された。性交渉のパートナーは男性のみで特定の3人である。喫煙は22歳から10本/日。飲酒はビール350mL/日。血液所見:赤血球468万,Hb 14.7g/dL,白血球7,600(好中球60%,好酸球3%,好塩基球1%,単球8%,リンパ球28%),CD4陽性細胞数180/mm3(基準800~1,200),血小板15万。血液生化学所見:総ビリルビン 0.7mg/dL,AST 68U/L,ALT 128U/L,LD 305U/L(基準176~353),尿素窒素15mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL。免疫血清学所見:HBs抗原陽性,HBs抗体陰性,HBV-DNA陽性,HCV抗体陰性。 この患者の抗HIV治療薬の選択において最も重要なのはどれか。
- a.飲酒歴
- b.喫煙歴
- c.B型肝炎の合併
- d.口唇ヘルペスの既往
- e.性交渉のパートナーの人数
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
HIV感染症の治療では、核酸系逆転写酵素阻害薬2剤のバックボーンにキードラッグを加えた多剤併用療法を組みますが、テノホビル、エムトリシタビン、ラミブジンは抗HBV作用も併せもつため、B型肝炎の合併が薬剤選択を最も大きく左右します。HIV/HBV重複感染では抗HBV活性をもつ2剤を含むバックボーンを選び、これらの薬剤の中止・変更による肝炎の急性増悪や、ART開始後の免疫再構築症候群にも注意が必要です。一方、飲酒や喫煙、口唇ヘルペスの既往、パートナーの人数は生活指導や診断・感染対策には重要でも、薬の種類を決める因子ではありません。ニューモシスチス肺炎はCD4数200/mm3未満で起こりやすいAIDS指標疾患であり、ARTは日和見感染症の治療開始からおおむね2週間以内を目安に始めます。ART開始前にHBVや腎機能などを確認する習慣は、安全で確実なHIV診療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・28歳女性。ニューモシスチス肺炎(PCP)を発症し、その基礎疾患としてHIV感染症が判明した。 ・1年間に口唇ヘルペスを3回繰り返している。再燃を繰り返す単純ヘルペスは細胞性免疫の低下を背景にしたものと考えられ、HIV感染がかなり前から進行していたことをうかがわせる。 ・CD4陽性T細胞数は180/mm3と200/mm3を下回っている。CD4数が200/mm3未満になると、ニューモシスチス肺炎をはじめとする日和見感染症のリスクが急に高まる。 ・AST 68U/L、ALT 128U/Lと、ALT優位のトランスアミナーゼ上昇がある。 ・HBs抗原陽性、HBs抗体陰性、HBV-DNA陽性であり、B型肝炎ウイルス(HBV)が現在も体内で増殖している。肝酵素上昇と合わせると、活動性のB型肝炎(慢性B型肝炎が考えやすい)を合併している。HCV抗体陰性からC型肝炎は否定的である。
診断
ニューモシスチス肺炎はAIDS指標疾患(後天性免疫不全症候群を定義する23疾患)の一つであるため、本例はHIV感染症からAIDSを発症した状態と診断できる。さらにHIV/HBV重複感染であり、B型肝炎が活動性である。
設問の考え方
問われているのは「抗HIV薬をどう選ぶか」に影響する因子である。抗HIV療法(ART:antiretroviral therapy、多剤併用療法)は、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤をバックボーンとし、インテグラーゼ阻害薬などのキードラッグ1剤を加えて組むのが基本である。NRTIのうちテノホビル(TDF:テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩、TAF:テノホビル アラフェナミド)、エムトリシタビン(FTC)、ラミブジン(3TC)はHBVの逆転写(ポリメラーゼ)も阻害する。したがってHBVを合併しているかどうかで、バックボーンの選び方が直接変わる。また、抗HBV作用をもつ薬を使う・やめるといった判断はB型肝炎の経過そのものを左右するため、ART開始前にHBV感染の有無を必ず確認する必要がある。選択肢のうち、薬剤選択にこれほど直結する因子はB型肝炎の合併以外にない。 なお、PCPのように日和見感染症を発症している場合、ARTはその治療を始めてからおおむね2週間以内を目安に開始することが推奨されている。開始後には免疫再構築症候群(IRIS:回復した免疫が潜在病原体に反応して炎症が増悪する現象)に注意する。
選択肢考察
- ×a. 飲酒歴
ビール350mL/日は純アルコール約14gで、多量飲酒には当たらない。飲酒は肝障害の増悪因子や服薬アドヒアランス(指示どおりに服薬を続けること)低下の要因として生活指導上は意味をもつが、どの抗HIV薬を選ぶかを決める主要な因子にはならない。
- ×b. 喫煙歴
喫煙はHIV感染者の心血管疾患や肺疾患のリスクを高めるため禁煙指導の対象となる。しかし抗HIV薬の効果や薬剤の組み合わせを左右する因子ではなく、薬剤選択における重要度は低い。
- ○c. B型肝炎の合併
テノホビル(TDF/TAF)、エムトリシタビン(FTC)、ラミブジン(3TC)は抗HIV作用とともに抗HBV作用をもつ。HIV/HBV重複感染例では、HBVの薬剤耐性化を防ぐため、抗HBV活性をもつ薬を2剤含むバックボーン(TAF/FTCまたはTDF/FTCが代表)にキードラッグを加えたARTを選ぶ。逆に、抗HBV作用のない組み合わせを選んだり、3TC単独でHBVを抑えようとしたりすると、HBVが十分に抑制されない、あるいは耐性HBVが出現する。さらに、HBV合併例でこれらの薬剤を中止・変更すると肝炎が急性増悪(再燃)することがあり、ART開始後の免疫再構築症候群として肝炎が悪化することもある。このようにB型肝炎の合併は薬剤選択とその後の管理を大きく左右するため、最も重要な因子である。
- ×d. 口唇ヘルペスの既往
口唇ヘルペスの反復は細胞性免疫低下の手がかりとして診断上は意味があるが、抗HIV薬の選択には影響しない。単純ヘルペスウイルスにはアシクロビルやバラシクロビルなど別系統の抗ウイルス薬で対応する。
- ×e. 性交渉のパートナーの人数
パートナーの人数は感染経路の推定や、パートナーへの検査勧奨・感染予防指導に関わる情報である。治療によりウイルス量を検出限界未満に保てば性交渉による感染はほぼ起こらない(U=U:Undetectable = Untransmittable)ことも説明すべき事項だが、抗HIV薬の種類を決める因子ではない。
抗HIV薬の主な分類
・核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI):TDF、TAF、FTC、3TC、アバカビル(ABC)など。通常2剤をバックボーンとして用いる。このうちTDF、TAF、FTC、3TCは抗HBV作用ももつ。 ・インテグラーゼ阻害薬(INSTI):ドルテグラビル、ビクテグラビル、ラルテグラビルなど。現在の初回治療でキードラッグの中心となっている。 ・プロテアーゼ阻害薬(PI):ダルナビル(リトナビルやコビシスタットで血中濃度を高めて使う)など。 ・非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI):リルピビリン、ドラビリンなど。
ART開始前に確認する主な項目
・HBV感染(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体)とHCV感染:薬剤選択や肝障害の評価に関わる。 ・腎機能:TDFは腎障害(近位尿細管障害)や骨密度低下を起こしうるため、腎機能低下例ではTAFや別の組み合わせを考える。 ・HLA-B*57:01:アバカビルの過敏症と関連する(日本人ではまれ)。 ・薬剤耐性検査、併用薬との相互作用(PIやコビシスタットはCYP3Aを強く阻害する)、妊娠の希望なども選択に影響する。
HIV/HBV重複感染の管理
・HIVとHBVは性的接触や血液を介して感染するという共通の経路をもつため、重複感染は少なくない。 ・抗HBV作用のある薬を含むARTを中止・変更すると、HBVが再増殖して重い肝炎を起こすことがある。 ・HIVを治療せずにエンテカビルなどでB型肝炎だけを治療すると、HIVに薬剤耐性が生じうるため避ける。
AIDSとニューモシスチス肺炎
・HIV感染者がAIDS指標疾患を発症した時点でAIDSと診断される。 ・CD4数が200/mm3未満ではニューモシスチス肺炎の予防投与(ST合剤など)を行う。
POINT
・抗HIV薬の選択では、B型肝炎の合併の有無が極めて重要である。 ・TDF、TAF、FTC、3TCは抗HIV作用と抗HBV作用を併せもつ。 ・HIV/HBV重複感染では、抗HBV活性のある2剤(TAF/FTCまたはTDF/FTC)を含むARTを選ぶ。 ・抗HBV作用のある薬の中止・変更はB型肝炎の急性増悪を招きうる。 ・ニューモシスチス肺炎はAIDS指標疾患であり、CD4数200/mm3未満で起こりやすい。
