広がった血管を締め直せ―敗血症性ショックの昇圧薬はなぜノルアドレナリンなのか
第111回医師国家試験 H問題 第10問
国試問題にチャレンジ
敗血症性ショックに対する循環器作用薬の第一選択となるのはどれか。
- a.アトロピン
- b.アドレナリン
- c.イソプロテレノール
- d.ドパミン
- e.ノルアドレナリン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
敗血症性ショックは血液分布異常性ショックの代表で、サイトカインや一酸化窒素による血管拡張で末梢血管抵抗が低下することが血圧低下の主因です。そのため、十分な初期輸液に加えて、強いα1作用で血管を収縮させるノルアドレナリンが第一選択の血管収縮薬となり、平均動脈圧65mmHg以上を目標に調節します。アドレナリンは心停止やアナフィラキシーの第一選択で敗血症では追加薬、ドパミンは不整脈が多く第一選択ではなく、β刺激薬のイソプロテレノールや抗コリン薬のアトロピンは病態に合いません。ノルアドレナリンで不十分ならバソプレシンやアドレナリンを追加し、心機能低下にはドブタミンを用いますが、何より血液培養採取後の早期抗菌薬投与と感染源のコントロールが根本治療です。受容体の作用とショックの病態を対応させて考えることは、救急・集中治療のあらゆる場面で役立つ基本的な思考法です。
解答・解説
正解はeです
敗血症は、感染症に対する生体の反応がうまく調節されず、命に関わる臓器障害が起こった状態である(Sepsis-3の定義)。敗血症性ショックはその一部で、十分に輸液しても平均動脈圧65mmHg以上を保つのに血管収縮薬が必要であり、かつ血清乳酸値が2mmol/L(約18mg/dL)を超える状態と定義される。
病態
敗血症性ショックは、血液分布異常性ショック(distributive shock)の代表である。病原体の成分(エンドトキシンなど)に反応して炎症性サイトカインが大量に放出される(高サイトカイン血症)。さらに一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が増え、末梢の血管が広がって末梢血管抵抗が大きく低下する。血管透過性も高まり、血管内の水分が血管外へ漏れ出すため、有効な循環血液量も減る。初期には心拍出量が保たれるか増えており、四肢が温かいことが多い(warm shock)。進行すると心機能も低下し、四肢が冷たくなる(cold shock)。
治療の考え方
治療の柱は、(1) 細胞外液(晶質液)による初期輸液で前負荷を補う、(2) 血管収縮薬で末梢血管抵抗を回復させる、(3) 血液培養を採取したうえで速やかに広域抗菌薬を投与し、必要に応じて感染源のドレナージや除去を行う、の三つである。 血圧低下の主な原因は血管拡張による末梢血管抵抗の低下である。したがって循環作動薬は、α1受容体を刺激して強い血管収縮作用をもつ薬が合理的である。Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2021や日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)では、第一選択の血管収縮薬としてノルアドレナリンを推奨している。目標は平均動脈圧65mmHg以上である。
選択肢考察
- ×a. アトロピン
誤り。アトロピンはムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬である。迷走神経の作用を抑えて心拍数を上げるため、症候性の洞性徐脈や房室ブロックなどの徐脈性不整脈、有機リン中毒、麻酔前投薬に用いる。血管を収縮させる作用はないので、末梢血管抵抗の低下が本態である敗血症性ショックの昇圧には役立たない。しかも敗血症ではもともと頻脈になっていることが多く、さらに心拍数を上げる意味はない。
- ×b. アドレナリン
誤り。アドレナリンはα1、β1、β2受容体のすべてを強く刺激する。心停止(心肺蘇生)やアナフィラキシーショックでは第一選択の薬である。アナフィラキシーでは、β2作用による気管支拡張と、マスト細胞からのメディエーター放出の抑制も役立つ。敗血症性ショックでは第一選択ではない。ノルアドレナリンだけで血圧が保てない場合に、追加・併用する選択肢として位置づけられている。β作用によって頻脈・不整脈が起こりやすく、乳酸値の上昇や内臓血流の低下をきたしうる点も、第一選択とならない理由である。
- ×c. イソプロテレノール
誤り。イソプロテレノールはα作用をほとんどもたない、純粋なβ(β1・β2)刺激薬である。β1作用で心拍数と心収縮力を高め、β2作用で血管を拡張させる。主な用途は、アトロピンが効かない徐脈性不整脈やAdams-Stokes発作などである。血管拡張作用があるため、末梢血管抵抗がすでに低下している敗血症性ショックでは、かえって血圧を下げるおそれがあり不適切である。
- ×d. ドパミン
誤り。ドパミンは用量によって作用が変わる。低用量ではドパミン受容体を刺激して腎血管・腸間膜血管を拡張させ、中等量ではβ1作用で心収縮力と心拍数を高め、高用量ではα1作用で血管を収縮させる。かつては敗血症性ショックにも広く使われたが、ノルアドレナリンと比べた臨床試験で、頻脈性不整脈(心房細動など)の有害事象が有意に多いことが示された。死亡率もノルアドレナリンを上回る傾向がみられた。このため現在のガイドラインでは第一選択とされず、使用は頻脈性不整脈のリスクが低い症例や徐脈を伴う症例などに限られる。腎保護を目的とした低用量ドパミン(いわゆるrenal dose)も、有効性が否定されている。
- ○e. ノルアドレナリン
正しい。ノルアドレナリンは強いα1作用をもち、血管を収縮させて末梢血管抵抗を高め、血圧を上げる。β1作用も持つため、心収縮力を保つことにもある程度役立つ。一方、β2作用はほとんどない。少ない心拍数の増加で効率よく昇圧できるので、血管拡張が主体の敗血症性ショックの病態に合っている。ドパミンより不整脈が少なく、SSCG 2021やJ-SSCGで第一選択の血管収縮薬として推奨されている。原則として、十分な初期輸液と並行して持続静注し、平均動脈圧65mmHg以上を目標に用量を調節する。
敗血症性ショックの初期治療の流れ(SSCG 2021を中心に)
・初期輸液:低灌流があれば、最初の3時間で少なくとも30mL/kgの晶質液(細胞外液)を目安に投与する。輸液反応性を評価しながら追加する。 ・血管収縮薬:第一選択はノルアドレナリンで、目標は平均動脈圧65mmHg以上とする。中心静脈路の確保を待たずに、末梢静脈から投与を開始してよいとされる。 ・ノルアドレナリンで不十分な場合:バソプレシンを追加する(ノルアドレナリンが0.25〜0.5μg/kg/分程度に達したときが目安)。それでも不十分ならアドレナリンを追加する。 ・心機能が低下している場合:ドブタミンを追加するか、アドレナリンに切り替える。 ・ステロイド:血管収縮薬を継続して必要とする場合は、ヒドロコルチゾン(200mg/日)の投与を考慮する。 ・抗菌薬:敗血症性ショックでは、認識から1時間以内の投与が推奨される。投与前に血液培養を2セット以上採取する。 ・感染源のコントロール:膿瘍のドレナージ、感染したカテーテルの抜去などを行う。
主な循環作動薬と受容体
・ノルアドレナリン:α1が強い、β1が中等度、β2はほぼなし → 敗血症性ショックの第一選択 ・アドレナリン:α1・β1・β2 → 心停止、アナフィラキシー ・ドパミン:用量依存性(ドパミン受容体 → β1 → α1) ・ドブタミン:主にβ1 → 心収縮力の増強(心原性ショック、心機能低下例) ・イソプロテレノール:β1・β2 → 徐脈性不整脈 ・バソプレシン:V1受容体による血管収縮(カテコラミン以外の薬) ・アトロピン:抗コリン作用 → 徐脈
ショックの分類と特徴
・循環血液量減少性(出血、脱水):前負荷が低下し、四肢は冷たい ・心原性(心筋梗塞など):心拍出量が低下し、四肢は冷たい ・心外閉塞・拘束性(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓):心臓への流入や拍出が物理的に妨げられる ・血液分布異常性(敗血症、アナフィラキシー、神経原性):末梢血管抵抗が低下し、初期には四肢が温かい
POINT
・敗血症性ショックは血液分布異常性ショックで、末梢血管抵抗の低下が血圧低下の主因である。 ・治療の基本は、初期輸液、血管収縮薬、早期の抗菌薬投与と感染源のコントロールである。 ・第一選択の血管収縮薬はノルアドレナリン(α1作用が強い)で、目標は平均動脈圧65mmHg以上である。 ・ドパミンはノルアドレナリンより不整脈が多く、第一選択ではない。 ・不十分な場合はバソプレシンやアドレナリンを追加し、心機能が低下していればドブタミンを用いる。 ・アドレナリンは心停止とアナフィラキシーで第一選択となる。
