咳が続く子どもを前に、まず守るべきは「空気」―結核の感染経路から考える院内感染対策
第111回医師国家試験 E問題 第51問
国試問題にチャレンジ
12歳の男児。肺結核の接触者検診のため来院した。同居している祖父が肺結核と診断されており,患児は2週間前から37.5℃前後の微熱と咳嗽が続いているという。 対応として正しいのはどれか。
- a.診察時は手袋を着用する。
- b.聴診器を患児専用にする。
- c.トイレでの採痰を指示する。
- d.医療従事者はN95マスクを着用する。
- e.診察室内で患児が接触した場所の消毒を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクターまとめ
結核は飛沫核による空気感染で広がるため、排菌が疑われる患者を診るときは、医療従事者や未感染の家族がN95マスクを着用し、患者本人にはサージカルマスクを着けてもらい、陰圧室や十分な換気のもとで診察します。手袋・器具の専用化・環境の特別な消毒は接触感染への対策であり、結核に対しては標準予防策を超えて行う必要はありません。採痰は大量の飛沫核を生むため、トイレではなく陰圧の採痰ブースなど換気された場所で行います。接触者検診ではIGRAで感染の有無を、胸部エックス線や喀痰(小児では胃液)検査で発病の有無を調べ、潜在性結核感染症にはイソニアジドによる発病予防を行います。感染経路ごとに予防策を使い分ける考え方は、結核に限らず麻疹・水痘やMRSAなど、あらゆる院内感染対策の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・12歳男児。同居する祖父が肺結核と診断されたため、接触者検診(結核患者の周囲で感染者・発病者を見つけるための健診)を受けに来た。 ・同居家族は最も感染リスクの高い濃厚接触者である。 ・2週間前から37.5℃前後の微熱と咳嗽が続いている。2週間以上続く咳は、結核を疑う代表的な目安である。
評価
現時点では、結核を発病しているのか、一般的な気道感染症にすぎないのかは確定していない。しかし濃厚接触歴があり、結核を疑わせる症状が続いているため、肺結核を発病して結核菌を排菌している可能性を前提に対応しなければならない。
設問の考え方
結核菌は、患者の咳やくしゃみで出た飛沫の水分が蒸発して残る微細な粒子(飛沫核、直径5μm以下)に含まれ、空気中を長時間漂い、吸い込まれて肺胞に達することで感染する。これが空気感染(飛沫核感染)である。したがって対策の中心は、空気を介した伝播を防ぐことにある。 ・患者側:可能なら陰圧室など空気が外へ漏れない部屋で診察し、咳エチケットとしてサージカルマスクを着用させ、飛沫の放出自体を抑える。 ・医療従事者・家族など周囲の人側:飛沫核を吸い込まないよう、微粒子を高率に捕集するN95マスクを着用する。 一方、いったん床や机に落ちた菌や、物品の表面に付いた菌は再び空中に舞い上がって感染源となることはほとんどないため、接触感染を主眼とした対策(手袋、器具の専用化、環境の特別な消毒)は、標準予防策を超えては必要ない。採痰は咳を誘発して大量の飛沫核を生むため、換気の不十分な場所で行わせてはならない。
選択肢考察
- ×a. 診察時は手袋を着用する。
結核は空気感染(飛沫核感染)で広がり、皮膚や物品を介した接触感染は問題とならないため、通常の診察で結核対策として手袋を着ける必要はない。ただし採血や採痰など、血液・体液に触れる可能性のある手技では、標準予防策として手袋を着用する。
- ×b. 聴診器を患児専用にする。
聴診器に付着した結核菌が他の患者への感染源となることはほとんどない。接触感染対策として器具を専用化する必要はなく、通常どおりアルコールなどで清拭する一般的な管理を行ったうえで共用してよい。器具の専用化が必要になるのは、MRSAやClostridioides difficileなど接触感染する病原体の場合である。
- ×c. トイレでの採痰を指示する。
採痰の際には強い咳をするため、結核菌を含む飛沫核が大量に発生する。換気が不十分で他の人も出入りするトイレで行わせると、次に利用した人が感染する危険がある。採痰は陰圧の採痰ブースや採痰室、あるいは屋外など十分に換気された場所で行わせる。なお肺結核の診断には喀痰検査を3回(3日間連続が基本)行うのが原則であり、小児で痰がうまく出せない場合には早朝の胃液を採取して検査することもある。
- ○d. 医療従事者はN95マスクを着用する。
結核菌は空気感染するため、医療従事者が吸い込まないようにする呼吸器防護が最も重要である。N95マスクは0.3μm程度の微粒子を95%以上捕集できる高性能のマスクで、顔に密着させて使う(装着時にフィットチェックを行う)。サージカルマスクは顔との隙間から空気が漏れるため、着用者が飛沫核を吸い込むのを防ぐ目的には不十分である。患者本人にはN95マスクではなくサージカルマスクを着用させ、面会する未感染の家族などにもN95マスクを着けてもらう。
- ×e. 診察室内で患児が接触した場所の消毒を行う。
床や机などの表面に付いた結核菌は再び空気中に漂って感染源になることはほとんどなく、通常の清掃で十分であり、特別な消毒は必要ない。診察室で重視すべきは、空気中の飛沫核を除くための十分な換気(陰圧室の使用など)である。
感染経路別予防策の整理
・空気感染予防策:結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)。陰圧個室、医療従事者・面会者はN95マスク、患者はサージカルマスク。 ・飛沫感染予防策:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマなど。個室または1m以上の間隔、サージカルマスク。 ・接触感染予防策:MRSA、Clostridioides difficile、多剤耐性菌、ノロウイルスなど。手袋・ガウン、器具の専用化、環境消毒。 いずれも、すべての患者に適用する標準予防策(手指衛生、体液に触れる際の手袋など)の上に追加して行う。
接触者検診の進め方
・感染の有無:インターフェロンγ遊離試験〈IGRA:interferon-gamma release assay〉が中心である。結核菌に特異的な抗原を用いるため、BCG接種の影響を受けにくい。ツベルクリン反応はBCG接種者で陽性になりやすく、不要な治療につながるおそれがあるため、乳幼児など一部を除き補助的な位置づけとなっている。感染してからIGRAが陽性化するまで時間がかかるため、最終接触から約8週間後に検査するのが基本である。 ・発病の有無:胸部エックス線検査、症状があれば喀痰(小児では胃液)の抗酸菌塗抹・培養・核酸増幅検査を行う。 ・発病はしていないが感染している場合は、潜在性結核感染症〈LTBI〉として、イソニアジドの内服(通常6〜9か月)などで発病を予防する。
法的事項
結核は感染症法の二類感染症であり、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る。喀痰塗抹陽性など感染性のある肺結核では入院勧告の対象となる。
POINT
・結核は空気感染(飛沫核感染)する。 ・医療従事者や未感染の家族はN95マスク、排菌が疑われる患者本人はサージカルマスクを着用する。 ・陰圧室での診察と十分な換気が重要。手袋・器具の専用化・環境の特別な消毒は結核対策としては不要(標準予防策で十分)。 ・採痰は陰圧の採痰ブースなど換気された場所で行い、トイレでは行わない。 ・接触者検診ではIGRAで感染の有無を調べる。
