StudyMed医師国家試験

夜中に水をがぶ飲みする理由―多尿の陰に潜む低カリウム血症

第111回医師国家試験 B問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第41問

46歳の女性。多尿を主訴に来院した。半年くらい前からトイレが近いことを徐々に自覚するようになった。最近になり就寝後にも2回程度トイレに行くようになったため受診した。排尿後は夜間であっても大量の水を飲んでしまうという。他に腹痛などの自覚症状はない。2年前から肝疾患で内服治療中である。身長156cm,体重54kg。脈拍68/分,整。血圧144/92mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。四肢に異常を認めない。尿所見:比重1.004,蛋白(-),糖(-),ケトン体(-)。血液所見:赤血球421万,Hb 13.2g/dL,Ht 40%。血液生化学所見:アルブミン4.2g/dL,AST 38U/L,ALT 42U/L,血糖124mg/dL,HbA1c 6.2%(基準4.6~6.2),Na 143mEq/L,K 2.7mEq/L,Cl 102mEq/L,Ca 10.0mg/dL,P 3.2mg/dL。  多尿の原因として最も考えられるのはどれか。

  1. a.耐糖能異常
  2. b.間質性膀胱炎
  3. c.心因性多飲症
  4. d.中枢性尿崩症
  5. e.低カリウム血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は多尿の原因を絞り込む問題だ。着眼点は3つ。本当に尿量が増えているのか、尿は濃いのか薄いのか、そしてその背景に何があるのか。順に整理していこう。まず、「トイレが近い」という訴えをどう捉える?
医学生医学生
トイレが近いなら頻尿ですよね。中年女性なので膀胱の病気かと最初は思いました。
ドクタードクター
そこで立ち止まるのが大事だ。「トイレが近い」には、1日の尿量そのものが増える多尿と、1回量が少なく回数だけ増える頻尿がある。この人は夜中に起きるたびに大量に水を飲んでいて、口渇が強い。尿比重もかなり低い。これは水がどんどん出ていく真の多尿を示しているね。
医学生医学生
なるほど、だから間質性膀胱炎は違うんですね。泌尿器科の実習で、尿がたまると痛くなる病気と教わりました。
ドクタードクター
そう。間質性膀胱炎は膀胱痛を伴う頻尿で、1日尿量は増えないし、尿を薄くすることもない。痛みもない今回とは合わない。では多尿の分類を整理しよう。大きく、溶質と一緒に水が出る溶質利尿と、薄い尿が大量に出る水利尿に分けられる。
医学生医学生
糖尿病の多尿は浸透圧利尿なので溶質利尿ですね。HbA1cが基準上限なので、耐糖能異常も気になりました。
ドクタードクター
良い着眼だけど、高血糖で多尿になるのは血糖が腎の糖排泄閾値、おおむね160〜180mg/dLを超えて尿糖が出るときだ。この人は尿糖陰性で、そもそも浸透圧利尿なら尿比重がここまで下がらない。だから溶質利尿ではなく、水利尿と考える。
医学生医学生
水利尿なら、心因性多飲症、中枢性尿崩症、腎性尿崩症の3つですね。CBTの勉強でこの3つを表にまとめた覚えがあります。
ドクタードクター
その3つで正しい。鑑別に役立つのが血清Naだ。水を飲みすぎる心因性多飲症では体内の水が過剰になって血清Naは低めに、水を失う尿崩症では高めになりやすい。この人は基準範囲の上限寄りだね。
医学生医学生
水を失って、口渇で必死に補っている側ということですか。夜中にも飲んでいるのはそのせいですね。
ドクタードクター
その通り。心因性多飲症は夜間には飲水が減ることが多いから、その点でも合わない。では、尿崩症のうち中枢性と腎性、どちらを考える?検査値でひとつ目立つものがあるはずだ。
医学生医学生
Kがかなり低いです。でも低カリウム血症で多尿になるというのはぴんと来ません。
ドクタードクター
ここが核心だよ。慢性の低カリウム血症は二次性腎性尿崩症の代表的な原因なんだ。集合管で水の通り道になるアクアポリン2の発現が下がり、腎髄質の浸透圧勾配も保てなくなる。だからADHが出ていても尿を濃縮できない。さらに口渇中枢を刺激して飲水を増やすとも言われている。
医学生医学生
ADHはあるのに腎臓が反応しない状態ですね。腎生理学の講義で出てきたV2受容体とアクアポリン2の話がつながりました。
ドクタードクター
いいね。中枢性尿崩症も低張尿・高めのNaという点では似ているけれど、比較的急に発症することが多く、何より目の前に腎性尿崩症を起こすのに十分な低カリウム血症がある。だから多尿の原因としては低カリウム血症を最も考える。確定的に分けたいときは、水制限試験のあとにデスモプレシンを投与して、尿が濃縮されれば中枢性、されなければ腎性と判断する。
医学生医学生
では、そもそもなぜKが下がっているんでしょう。肝疾患で薬を飲んでいるのと、血圧が高めなのが気になります。
ドクタードクター
鋭いね。肝疾患の内服治療、高血圧、低カリウム血症の組み合わせから、グリチルリチン製剤による偽性アルドステロン症が強く疑われる。グリチルリチンは慢性肝疾患の肝機能改善に使われ、甘草として多くの漢方薬にも含まれている。腎臓の11β-HSD2を阻害するので、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を刺激して、アルドステロン過剰と同じ状態になるんだ。
医学生医学生
原発性アルドステロン症と見分けるにはどうすればいいですか。
ドクタードクター
偽性アルドステロン症ではアルドステロンは実際には増えていないから、レニンもアルドステロンもともに低値になる。原発性アルドステロン症はレニン低値でアルドステロン高値だ。臨床では、患者さんが漢方薬やサプリメントを「薬」と思っておらず申告しないこともある。お薬手帳を見て、甘草の入った漢方まで確認するのが大切だよ。原因薬を中止・減量してカリウムを補えば、尿の濃縮能は通常回復する。

まとめ

多尿をみたら、まず頻尿との区別をつけ、次に高血糖などによる溶質利尿か、低張尿を呈する水利尿かを分けて考えます。水利尿の鑑別は心因性多飲症・中枢性尿崩症・腎性尿崩症の3つで、血清Naが高めなら水を失う尿崩症、低めなら心因性多飲症を考えやすくなります。慢性の低カリウム血症はアクアポリン2の発現低下などを介して二次性腎性尿崩症を起こし、高カルシウム血症やリチウム製剤と並ぶ代表的な原因です。肝疾患の治療中に高血圧と低カリウム血症をみたら、グリチルリチン(甘草)による偽性アルドステロン症を疑い、レニン・アルドステロンがともに低値であることを確認します。電解質異常を症状の原因として捉え、さらにその背景の薬剤まで遡る姿勢は、日常診療で見落としを防ぐ大切な視点です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・46歳女性。半年前から徐々に進む頻尿で、最近は夜間にも2回ほど排尿に起き、そのたびに大量に水を飲む。腹痛などほかの症状はない。 ・2年前から肝疾患で内服治療中である。 ・血圧144/92mmHgと高めである。 ・尿比重1.004と低張尿(尿が十分に濃縮されていない)で、尿糖・尿蛋白は陰性である。 ・K 2.7mEq/Lと明らかな低カリウム血症がある。Naは143mEq/Lと基準範囲の上限寄り、Ca 10.0mg/dLは基準範囲内(上限付近)、血糖124mg/dL、HbA1c 6.2%は基準上限である。

多尿か頻尿かの見極め

「トイレが近い」という訴えには、尿量そのものが増える多尿(一般に1日尿量が3L程度を超えるもの)と、1回尿量が少なく回数だけ増える頻尿とがある。本例は夜間に起きて大量に飲水するほど口渇が強く、尿比重も低いことから、水分が大量に出ていく真の多尿と考えられる。

多尿の鑑別

多尿は大きく二つに分かれる。 ・溶質利尿(浸透圧利尿): 高血糖による尿糖、マンニトール投与などで溶質と一緒に水が出る。尿比重・尿浸透圧は低くならない。 ・水利尿: 尿が薄くなる多尿で、①飲み過ぎ(心因性多飲症)、②抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌不足(中枢性尿崩症)、③腎臓がADHに反応しない(腎性尿崩症)がある。腎性尿崩症は先天性のほか、低カリウム血症・高カルシウム血症・リチウム製剤などによる二次性が多い。 本例は尿糖陰性で低張尿のため、水利尿に当たる。そのうえで、著明な低カリウム血症という腎性尿崩症の原因が明らかに存在するので、これを多尿の原因と考えるのが最も自然である。血清Naが高めであることも、腎から水を失って口渇で補っている状態に合い、水を過剰に摂って血清Naが低めになりやすい心因性多飲症とは合わない。

低カリウム血症の原因の推定

肝疾患の内服治療と高血圧・低カリウム血症の組み合わせから、グリチルリチン(甘草の主成分)を含む薬剤による偽性アルドステロン症が強く疑われる。グリチルリチン製剤は慢性肝炎の肝機能改善に用いられ、甘草は小柴胡湯など多くの漢方薬にも含まれる。服薬内容の確認と、血漿レニン活性・アルドステロン濃度(偽性アルドステロン症ではいずれも低値)や血液ガス(代謝性アルカローシス)の評価が次の手順となる。

選択肢考察

  1. ×a.  耐糖能異常

    高血糖による多尿は、血糖が腎の再吸収能の限界(腎糖排泄閾値、おおむね160〜180mg/dL)を超えて尿糖が出ることで起こる浸透圧利尿である。本例は血糖124mg/dL、HbA1c 6.2%で、尿糖陰性である。耐糖能異常の境界付近にはあるとしても、浸透圧利尿を起こす程度の高血糖ではない。また浸透圧利尿では尿比重が1.004まで低下することはなく、本例の低張尿とも合わない。

  2. ×b.  間質性膀胱炎

    間質性膀胱炎は、膀胱の慢性炎症により、尿がたまると増強する膀胱痛・下腹部痛と頻尿・尿意切迫を示す疾患で、中年女性に多い。膀胱容量が減って1回の尿量が少なくなる「頻尿」であり、1日尿量は増えない。尿の濃縮能にも影響しないため低張尿にはならず、口渇・多飲も説明できない。本例には疼痛もない。

  3. ×c.  心因性多飲症

    心因性多飲症は、精神的な要因で水を過剰に摂取し、その結果として薄い尿が大量に出る病態で、低張尿をきたす点は本例と共通する。しかし、一次的に水が過剰となるため血清Naは基準範囲の下限寄りから低値になりやすく、夜間には飲水行動が減ることが多い。本例は血清Na 143mEq/Lと高めで、夜間も強い口渇で飲水しており、水を失う側の病態に合う。さらに多尿を説明できる明らかな低カリウム血症があるので、心因性多飲症を第一に考える根拠に乏しい。

  4. ×d.  中枢性尿崩症

    中枢性尿崩症は、視床下部・下垂体後葉の障害でADHの分泌が不足し、尿を濃縮できずに低張尿の多尿と口渇・多飲が生じる。低張尿、夜間の多尿と多飲、高めの血清Naという点では本例と似ている。しかし、特発性や腫瘍などによる中枢性尿崩症は比較的急に発症することが多いのに対し、本例は半年かけて徐々に進行している。何より、腎性尿崩症を起こすのに十分な低カリウム血症が存在するので、まずそちらを原因と考える。鑑別が必要な場合は、水制限試験と、その後のバソプレシン(デスモプレシン)投与に尿が反応して濃縮されるかで区別する(中枢性では反応し、腎性では反応しない)。

  5. ○e.  低カリウム血症

    慢性の低カリウム血症は、二次性の腎性尿崩症の代表的な原因である。集合管でADHの働きにより水の通り道となるアクアポリン2(AQP2)の発現が低下し、さらに腎髄質の浸透圧勾配が保てなくなるため、ADHがあっても尿を濃縮できなくなる。加えて、低カリウム血症は口渇中枢を刺激して飲水を増やすとされる。本例はK 2.7mEq/Lと明らかな低値で、低張尿・夜間の多尿と多飲・高めの血清Naをすべて説明できる。肝疾患の内服治療と高血圧を伴うことから、グリチルリチン製剤による偽性アルドステロン症が背景にあると推定される。原因薬の中止・減量とカリウム補充で、尿濃縮能は通常回復する。

多尿の分類と主な原因

・溶質利尿(尿浸透圧は低下しない): 糖尿病の高血糖、マンニトールなどの浸透圧利尿薬、高蛋白輸液、閉塞解除後利尿 ・水利尿(低張尿):  心因性多飲症(一次性多飲)  中枢性尿崩症: 特発性、脳腫瘍(頭蓋咽頭腫・胚細胞腫など)、外傷、術後、IgG4関連疾患による下垂体炎など  腎性尿崩症: 先天性(バソプレシンV2受容体遺伝子異常・AQP2遺伝子異常)、二次性(低カリウム血症、高カルシウム血症、リチウム製剤、シェーグレン症候群などの尿細管間質障害)

偽性アルドステロン症

・グリチルリチンとその代謝物は、腎臓で11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素はコルチゾールを不活性なコルチゾンに変えて、ミネラルコルチコイド受容体をコルチゾールから守っている。阻害されると、血中に大量にあるコルチゾールが受容体を刺激し、アルドステロン過剰と同じ状態になる。 ・所見: 高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、浮腫。低カリウム血症が強いと脱力・四肢麻痺(低カリウム性ミオパチー)や多尿をきたす。 ・アルドステロンは実際には増えておらず、血漿レニン活性・アルドステロン濃度はともに低値となる点で、原発性アルドステロン症(レニン低値・アルドステロン高値)と区別する。 ・原因薬: グリチルリチン製剤(慢性肝疾患の肝機能改善に用いる内服薬・注射薬)、甘草を含む漢方薬(芍薬甘草湯、小柴胡湯など多数)。治療は原因薬の中止とカリウム補充、必要に応じて抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)を用いる。

心因性多飲症と尿崩症の鑑別のコツ

・血清Na: 心因性多飲症は基準範囲の下限〜低値、尿崩症は基準範囲の上限〜高値になりやすい。 ・水制限試験: 心因性多飲症では尿が濃縮される。尿崩症では濃縮されず、その後のバソプレシン(デスモプレシン)投与で中枢性は濃縮され、腎性は濃縮されない。

POINT

・多尿は、溶質利尿(高血糖など。尿は薄くならない)と水利尿(低張尿)に分けて考える。 ・低張尿の多尿の鑑別は、心因性多飲症、中枢性尿崩症、腎性尿崩症の3つ。 ・二次性腎性尿崩症の原因として、低カリウム血症、高カルシウム血症、リチウム製剤を反射的に思い出せるようにする。 ・肝疾患の内服治療中の高血圧と低カリウム血症をみたら、グリチルリチン(甘草)による偽性アルドステロン症を疑う。レニン・アルドステロンはともに低値となる。 ・血清Naが高めなら水を失う病態(尿崩症)、低めなら水の過剰摂取(心因性多飲症)を考えやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。