カルシウムとリンはシーソーか、二人三脚か―PTHとビタミンDで読み解くミネラル代謝
第109回医師国家試験 D問題 第19問
国試問題にチャレンジ
血清Ca値と血清P値とが反対方向に変化(一方が上昇し他方が低下)する疾患はどれか。2つ選べ。
- a.慢性腎不全
- b.甲状腺髄様癌
- c.ビタミンD欠乏症
- d.特発性副甲状腺機能低下症
- e.腫瘍性低リン血症性骨軟化症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血清CaとPの動きは、Caを上げてPを下げるPTH、腸管からCaとPをともに吸収させる活性型ビタミンD、Pの排泄を促し活性型ビタミンDを抑えるFGF23の作用から予測できます。PTHが不足する特発性副甲状腺機能低下症では低Ca・高P、慢性腎不全ではPの排泄障害と活性型ビタミンDの産生低下により高P・低Caとなり、いずれも反対方向に変化します。ビタミンD欠乏症ではCaとPがともに低下し、FGF23過剰による腫瘍性低リン血症性骨軟化症では低Pに対しCaは正常〜低値、甲状腺髄様癌ではカルシトニン高値でもCa・Pはほとんど変わりません。ほかにも原発性副甲状腺機能亢進症(Ca上昇・P低下)、ビタミンD中毒やサルコイドーシス(ともに上昇)などを同じ枠組みで整理できます。ホルモンの作用から検査値の動きを導く考え方は、電解質異常の鑑別や腎不全患者の管理に直結する基礎力となります。
解答・解説
正解はa, dです
血清カルシウム(Ca)とリン(P)の濃度は、主に副甲状腺ホルモン(PTH:parathyroid hormone)、活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD、1,25(OH)2D)、線維芽細胞増殖因子23(FGF23:骨細胞から分泌されるリン利尿ホルモン)の3つのホルモンと、腸管・骨・腎臓の3つの臓器によって調節されている。各ホルモンの作用を整理すると、CaとPが同じ方向に動くか、反対方向に動くかを予測できる。
各ホルモンの主な作用
・PTH:骨吸収促進(Ca・Pを血中へ放出)、腎遠位尿細管でのCa再吸収促進、腎近位尿細管でのP再吸収抑制(P排泄増加)、腎での活性型ビタミンD産生促進。結果として血清Caを上げ、血清Pを下げる。つまりCaとPを反対方向に動かす。 ・活性型ビタミンD:腸管からのCaとPの吸収をともに促進する。血清CaとPを同じ方向(上昇)に動かす。 ・FGF23:腎近位尿細管でのP再吸収を抑制し、さらに活性型ビタミンDの産生を抑える。主に血清Pを下げる。
考え方
PTHの作用が低下する病態(副甲状腺機能低下症)では、Caが下がりPが上がる。腎臓からのP排泄が障害される病態(腎不全)でも、Pが上がり、活性型ビタミンD不足によりCaが下がる。一方、ビタミンDの作用が不足する病態では、腸管からのCaとPの吸収がともに低下するため、両者とも低下する方向に動く。 以上から、CaとPが反対方向に変化するのは慢性腎不全と特発性副甲状腺機能低下症である。
選択肢考察
- ○a. 慢性腎不全
正しい。慢性腎不全では糸球体濾過量(GFR)の低下により腎臓からのP排泄が減り、高P血症となる。同時に、腎臓でのビタミンDの活性化(1α水酸化)が障害されるため活性型ビタミンDが不足し、腸管からのCa吸収が減る。さらに高P血症やFGF23の上昇も活性型ビタミンDの産生を抑える。これらにより血清Caは低下傾向となり、Caは低下・Pは上昇と反対方向に変化する。この状態が持続するとPTH分泌が過剰になり、二次性副甲状腺機能亢進症をきたす。これを含めた骨・ミネラル代謝の異常は、CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)と呼ばれる。
- ×b. 甲状腺髄様癌
誤り。甲状腺髄様癌は、甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生する癌で、カルシトニンを過剰に産生する。カルシトニンには骨吸収を抑えて血清Caを下げる作用があるが、ヒトでは生理的な作用が弱く、慢性的にカルシトニンが高値となる髄様癌でも、血清CaやPは通常ほとんど変化しない。カルシトニンやCEA(癌胎児性抗原)は、診断や治療後の経過観察に用いる腫瘍マーカーとして重要である。なお、髄様癌は多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の一部として発生することがあり、MEN2Aでは原発性副甲状腺機能亢進症を合併しうるが、これは髄様癌そのものによるCa・Pの変化ではない。
- ×c. ビタミンD欠乏症
誤り。ビタミンDが不足すると、腸管からのCaとPの吸収がともに低下する。血清Caが下がると二次的にPTH分泌が増え(二次性副甲状腺機能亢進症)、PTHの作用で腎臓からのP排泄がさらに増える。このため血清Caは低値〜正常下限、血清Pは低値となり、CaとPは同じ方向(低下)に変化する。小児ではくる病、成人では骨軟化症の原因となる。
- ○d. 特発性副甲状腺機能低下症
正しい。PTHの分泌が低下するため、骨からのCa動員、腎臓でのCa再吸収、活性型ビタミンDの産生がいずれも低下し、低Ca血症となる。一方でPTHによる腎臓でのP排泄促進作用がなくなるため、P再吸収が増えて高P血症となる。したがって血清Caは低下、血清Pは上昇と反対方向に変化する。低Ca血症による症状として、テタニー、しびれ、Chvostek徴候やTrousseau徴候、心電図でのQT延長などがみられ、長期例では大脳基底核の石灰化や白内障を伴うことがある。
- ×e. 腫瘍性低リン血症性骨軟化症
誤り。腫瘍性骨軟化症(TIO:tumor-induced osteomalacia)とも呼ばれ、主に骨や軟部組織に生じる小さな間葉系腫瘍(多くは良性)がFGF23を過剰に分泌することで起こる。FGF23は腎近位尿細管でのP再吸収を抑えて尿中へのP排泄を増やし、さらに活性型ビタミンDの産生も抑える。その結果、低P血症が持続して骨軟化症をきたす。本来、低P血症は活性型ビタミンDの産生を促すはずだが、FGF23の作用によりこの代償が起こらず、活性型ビタミンDは低値〜不適切な正常値にとどまる。そのため腸管からのCa吸収は増えず、血清Caは正常またはやや低値である。Caが上昇することはないので、反対方向の変化には当たらない。
CaとPの変化で整理する主な疾患
・Ca↑、P↓:原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍に伴う高Ca血症のうちPTH関連蛋白(PTHrP)産生によるもの ・Ca↓、P↑:副甲状腺機能低下症(特発性、術後など)、偽性副甲状腺機能低下症(PTHは高値だが標的臓器が反応しない)、慢性腎不全 ・Ca↑、P↑:ビタミンD中毒、サルコイドーシス(肉芽腫での活性型ビタミンD産生) ・Ca↓(または正常)、P↓:ビタミンD欠乏症、腫瘍性骨軟化症、X連鎖性低リン血症性くる病(FGF23過剰)
覚え方の要点
PTHが主役の病態ではCaとPが反対方向に、ビタミンDが主役の病態ではCaとPが同じ方向に動く、と整理すると理解しやすい。腎不全はPの排泄障害が主体であり、PTHは上昇していてもそれを上回ってPが蓄積するため、反対方向の変化となる。
腫瘍性骨軟化症の臨床
成人になってから骨痛、筋力低下、多発する偽骨折(骨軟化症に特徴的な帯状の透亮像)などで発症する。原因となる腫瘍は小さく見つけにくいため、診断が遅れやすい。血清Pを測定して低P血症に気づき、FGF23の高値を確認することが診断の第一歩となる。腫瘍を摘出すれば治癒が期待できる。
POINT
・PTHは血清Caを上げPを下げる(反対方向)。活性型ビタミンDはCaもPも上げる(同じ方向)。 ・副甲状腺機能低下症:低Ca・高P。 ・慢性腎不全:P排泄低下で高P、活性型ビタミンD低下で低Ca。二次性副甲状腺機能亢進症を伴う。 ・ビタミンD欠乏症:Ca・Pともに低下。 ・腫瘍性骨軟化症:FGF23過剰で低P、活性型ビタミンDの代償的上昇がなく、Caは正常〜低値。 ・甲状腺髄様癌:カルシトニン高値だが血清Ca・Pはほぼ変化しない。
