StudyMed医師国家試験

「陽性」はまだ確定じゃない―HTLV-1スクリーニング陽性の妊婦に最初に伝えるべきこと

第109回医師国家試験 A問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第1問

HTLV-1抗体スクリーニング検査で陽性と判定された初妊婦に対する正しい説明はどれか。

  1. a.「ワクチンを接種しましょう」
  2. b.「診断には精密検査が必要です」
  3. c.「出産後,母乳を与えてはいけません」
  4. d.「スクリーニング検査を再度行いましょう」
  5. e.「お産のやり方は帝王切開がいいでしょう」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊婦健診で行うHTLV-1抗体検査がテーマだ。着眼点は「スクリーニング検査で陽性」という言葉の重み。陽性と出た初妊婦さんに、今この段階で何を伝えるべきかを考えてみよう。
医学生医学生
HTLV-1はATLの原因ウイルスで、母乳で感染するんでしたよね。だったら母乳をやめるように伝えるのが大事な気がします。
ドクタードクター
母乳が主な感染経路というのは正しい知識だね。でも、ちょっと待ってほしい。スクリーニング検査というのは、どんな性質を持った検査だったかな。
医学生医学生
疫学の講義で習いました。見逃しを減らすために感度を高くしてある検査、ですよね。
ドクタードクター
その通り。感度を優先すると、そのぶん感染していない人も陽性に引っかかる、つまり偽陽性が一定の割合で混ざる。特に感染者が少ない地域や集団では、陽性的中率が下がって、陽性者のうち偽陽性が占める割合が大きくなるんだ。
医学生医学生
ということは、スクリーニングで陽性と出ただけでは、まだキャリアとは言えないんですね。
ドクタードクター
そう。だから次は特異度の高い確認検査、現在はラインブロット法、以前はウエスタンブロット法で確かめる。それで陽性ならキャリアと診断し、判定保留ならPCR法で末梢血のプロウイルスDNAを調べる。だから正しい説明は「診断には精密検査が必要です」となるわけだ。
医学生医学生
同じスクリーニング検査をもう一度やり直す、というのではダメなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。同じ原理の検査を繰り返しても、偽陽性は同じように陽性に出てしまう可能性があって、本物か偽物かの区別はつかない。原理の異なる、より特異度の高い検査に進むことが大事なんだ。
医学生医学生
では、最初に考えた母乳をやめるという説明はどうでしょう。
ドクタードクター
確定前に「母乳はダメ」と断定するのは早すぎる。偽陽性だったら、本来必要のない母乳育児の断念や大きな不安を招いてしまうからね。それに、キャリアと確定した後でも、一律に禁止するのではなく、リスクと母乳の利点を説明したうえで、お母さん自身が栄養法を選べるよう支援するのが基本なんだ。
医学生医学生
帝王切開にすれば感染を防げる、というのはどうですか。HIVでは帝王切開をすることがあると聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。HIVは産道感染も起こるから、帝王切開や抗HIV薬で予防する。でもHTLV-1は感染したT細胞を介して広がるウイルスで、母子感染の大部分は母乳中の感染リンパ球によるもの。胎内感染や産道感染はわずかで、帝王切開で減らせるという根拠はない。だから分娩方法は通常の産科的適応で決めればいいんだ。
医学生医学生
ワクチンもありませんよね。それに、もし感染しているなら今さら予防接種しても意味がないですし。
ドクタードクター
その通り。HTLV-1には実用化されたワクチンはない。母子感染予防は、栄養法の工夫で行うしかないんだ。
医学生医学生
臨床実習の産婦人科で、妊婦健診の検査項目にHTLV-1が入っているのを見ました。妊娠30週頃までに調べるんでしたっけ。
ドクタードクター
そうだね。そしてキャリアと確定した場合の栄養法も押さえておこう。最も確実に母子感染を減らすのは完全人工栄養で、これが推奨される。ただし胎内感染などで、人工栄養でも数%程度の感染は起こりうる。母乳を強く希望する場合は、生後90日未満で終える短期母乳栄養も選択肢になる。長期の母乳栄養では感染率がおおむね15〜20%程度と高くなるとされている。凍結解凍母乳は有効性の根拠が十分ではない。
医学生医学生
キャリアの多くは無症状のまま一生を過ごすんですよね。告知を受ける側の気持ちを考えると、伝え方が本当に大事だと感じます。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の要点だ。ATLの生涯発症率はキャリアの約5%とされ、ほかにHAMやぶどう膜炎を起こすこともある。九州・沖縄に多いけれど、人の移動で大都市圏にも広がっている。確定の告知や栄養法の相談には、プライバシーへの配慮と継続的なカウンセリングが欠かせない。「検査結果が出た段階」と「診断が確定した段階」を区別して説明する姿勢を、ぜひ身につけてほしい。

まとめ

HTLV-1抗体のスクリーニング検査は感度を重視した検査であり、偽陽性を一定の割合で含むため、陽性の時点ではキャリアと確定せず、ラインブロット法による確認検査(判定保留ならPCR法)が必要です。同じスクリーニングを繰り返しても偽陽性は除外できず、HTLV-1にはワクチンも存在しません。母子感染の主な経路は母乳であり、帝王切開に予防効果はなく、キャリアと確定した場合は完全人工栄養が推奨され、強い希望があれば90日未満の短期母乳栄養も選択肢となります。母乳の中止などの判断は確定診断後に十分な説明とカウンセリングを行ったうえで母親が選ぶものです。スクリーニングと確定診断を区別して説明する考え方は、妊婦健診に限らずあらゆる検査結果の伝え方に通じる基本姿勢です。

解答・解説

正解はbです

問われていること

妊婦健診で行うHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)抗体のスクリーニング検査が陽性となった初妊婦に、次にどう説明するかを問う問題である。

考え方

スクリーニング検査は、感染者を見逃さないことを重視して感度を高く設定した検査であり、陽性の中には実際には感染していない偽陽性が一定の割合で含まれる。特にHTLV-1の感染者が少ない地域や集団では、スクリーニング陽性者に占める偽陽性の割合が高くなる。したがって、スクリーニングで陽性となった段階ではまだキャリア(ウイルス保有者)と確定しておらず、特異度の高い確認検査(ラインブロット法、以前はウエスタンブロット法)を行って初めて診断が確定する。確認検査で判定保留となった場合は、末梢血のプロウイルスDNAを調べるPCR法を追加する。 「母乳を中止する」「帝王切開にする」といった栄養法や分娩方法に関わる判断は、キャリアと確定した後に、十分な情報提供とカウンセリングのうえで行うものである。確定前に断定的な指示をすると、偽陽性だった場合に不要な不安や母乳育児の断念を招く。まずは精密検査(確認検査)の必要性を説明することが適切な対応である。

選択肢考察

  1. ×a.  「ワクチンを接種しましょう」

    HTLV-1に対して実用化された予防ワクチンや治療ワクチンは存在しない。また、仮に予防ワクチンがあったとしても、すでに抗体陽性(感染が疑われる)の妊婦に接種する意味はない。HTLV-1の母子感染予防は、ワクチンではなく、主な感染経路である母乳を介した感染を栄養法の工夫によって減らすことで行う。

  2. ○b.  「診断には精密検査が必要です」

    HTLV-1抗体のスクリーニング検査(CLEIA法、PA法〈ゼラチン粒子凝集法〉など)は感度が高い反面、偽陽性が少なくない。そのため陽性の場合は、特異度の高い確認検査であるラインブロット法(従来はウエスタンブロット法)を行い、陽性であればHTLV-1キャリアと診断する。確認検査で判定保留となった場合は、PCR法でプロウイルスDNAの有無を調べる。スクリーニング陽性の時点では「感染が確定したわけではなく、診断には精密検査が必要である」と説明するのが正しい。

  3. ×c.  「出産後,母乳を与えてはいけません」

    HTLV-1の母子感染は主に母乳を介して起こるため、キャリアと確定した場合には栄養法の選択が重要になる。しかし本問の段階ではまだ確定診断がついておらず、偽陽性の可能性もあるため、母乳を禁止すると伝えるのは早すぎる。さらに確定した場合でも、一律に母乳を禁止するのではなく、母子感染のリスクと母乳の利点を説明したうえで、母親の意思を尊重して栄養法を選択する。母子感染を最も確実に減らすのは完全人工栄養であり、推奨される方法であるが、母乳を強く希望する場合には生後90日未満までの短期母乳栄養も選択肢となる。

  4. ×d.  「スクリーニング検査を再度行いましょう」

    スクリーニング検査を同じ方法で繰り返しても、偽陽性か真の陽性かは区別できない。偽陽性を除外するためには、検査原理の異なる、より特異度の高い確認検査(ラインブロット法など)を行う必要がある。再度のスクリーニング検査は診断確定に役立たない。

  5. ×e.  「お産のやり方は帝王切開がいいでしょう」

    HTLV-1は感染したリンパ球(T細胞)を介して伝播するウイルスで、母子感染の大部分は母乳中の感染リンパ球によって生じる。胎内感染や産道感染による母子感染はわずかであり、帝王切開で母子感染が減らせるという根拠はない。したがって、キャリアと確定した場合でも分娩方法は通常の産科的適応に従って決めればよく、経腟分娩が可能である。そもそも本問は確定診断前の段階であり、分娩方法を提案する時期でもない。

HTLV-1とは

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)はCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスである。感染者(キャリア)の多くは生涯無症状だが、一部が成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM:痙性対麻痺や排尿障害をきたす)、HTLV-1ぶどう膜炎などを発症する。ATLの生涯発症率はキャリアの約5%とされ、ATLの発症者の多くは乳児期の母子感染によるものと考えられている。日本では九州・沖縄地方にキャリアが多いが、人の移動に伴い大都市圏にも広がっている。

感染経路

・母子感染:主に母乳を介する。 ・性行為感染:主に男性から女性への感染。 ・輸血:献血者のスクリーニング導入により、現在はほぼ防がれている。 いずれも感染リンパ球を介した細胞同士の接触による感染であり、細胞を含まない体液ではほとんど感染しない。

妊婦健診での検査の流れ

1. 妊娠30週頃までにスクリーニング検査(CLEIA法、PA法など)で抗体を調べる。 2. 陽性ならば確認検査(ラインブロット法)を行う。 3. ラインブロット法で陽性ならキャリアと診断。陰性なら非感染。判定保留ならPCR法でプロウイルスDNAを調べる。

キャリアと確定した場合の栄養法

・完全人工栄養:母子感染を最も確実に減らす方法として推奨される(ただし胎内感染などにより、人工栄養でも数%程度の感染は起こりうる)。 ・短期母乳栄養:母乳を強く希望する場合の選択肢で、生後90日未満で母乳を終了する。長期間の母乳栄養では感染率が高くなる(おおむね15〜20%程度とされる)。 ・凍結解凍母乳栄養:母乳を冷凍して感染リンパ球を不活化させる方法だが、有効性の根拠は十分ではない。 栄養法は、それぞれの利点と感染リスクを説明したうえで、母親の自己決定を支援して選択する。確定診断の告知や栄養法の相談には、プライバシーへの配慮と継続的なカウンセリング・支援が必要である。

母乳を介して母子感染するウイルス

HTLV-1とHIVは母乳で感染しうるため、キャリアでは原則として授乳を避ける(または制限する)。HIVでは産道感染も起こるため、帝王切開や抗HIV薬による予防が行われる点がHTLV-1と異なる。

POINT

・スクリーニング検査陽性は確定診断ではない。偽陽性を除くため確認検査(ラインブロット法、判定保留ならPCR法)を行う ・HTLV-1の母子感染の主な経路は母乳。帝王切開で予防する意義はない ・キャリアと確定したら完全人工栄養を推奨し、母乳を強く希望する場合は90日未満の短期母乳栄養も選択肢となる ・HTLV-1にワクチンはない ・栄養法は確定診断後に、十分な説明とカウンセリングのうえで母親が選択する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。