大きさでも形でもない―早期胃癌を決めるのは「どこまで潜ったか」
第108回医師国家試験 I問題 第9問
国試問題にチャレンジ
早期胃癌の定義はどれか。
- a.陥凹がない。
- b.リンパ節転移がない。
- c.長径が1 cm未満である。
- d.隆起の高さが5 mm未満である。
- e.深達度が粘膜下層までにとどまる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
早期胃癌は、癌の浸潤が粘膜または粘膜下層までにとどまるもの(T1)と定義され、大きさ、隆起や陥凹などの肉眼形態、リンパ節転移の有無は問いません。固有筋層以深に達すれば進行胃癌です。早期胃癌の肉眼型では表面陥凹型(0-IIc)が最も多く、リンパ節転移は粘膜内癌で数%、粘膜下層浸潤癌で20%前後にみられます。大きさや形態はESDの適応や肉眼分類に、リンパ節転移は病期や郭清の要否の判断に用いられるため、定義の要素と治療判断の要素を区別して理解することが大切です。早期大腸癌も同様の定義ですが、食道では表在癌と早期癌が区別される点も合わせて押さえておきましょう。
解答・解説
正解はeです
胃の壁は内腔側から、粘膜(M)、粘膜下層(SM)、固有筋層(MP)、漿膜下層(SS)、漿膜(S)の順に層をなしている。胃癌は粘膜上皮から発生し、時間とともにより深い層へ浸潤していく。
早期胃癌の定義
早期胃癌とは、癌の浸潤(深達度)が粘膜または粘膜下層までにとどまるもの(胃癌取扱い規約のT1に相当)をいう。この定義は深達度だけで決まり、腫瘍の大きさ、肉眼形態(隆起・陥凹の有無や程度)、リンパ節転移の有無は問わない。固有筋層以深に達したものは進行胃癌と呼ぶ。
なぜ深達度で定義するのか
深達度は予後と治療方針に最も強く関わる因子だからである。粘膜内にとどまる癌はリンパ節転移の頻度が低く(数%程度)、条件を満たせば内視鏡的切除で治癒が期待できる。粘膜下層に浸潤すると粘膜下層のリンパ管・血管に癌が入りやすくなり、リンパ節転移の頻度は20%前後に高まる。それでも早期胃癌全体の5年生存率は90%を超え、固有筋層以深に浸潤した進行胃癌に比べて予後は明らかに良好である。 したがって本問では、「深達度」に言及している選択肢を選べばよく、形態・大きさ・リンパ節転移を条件とする選択肢はすべて誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. 陥凹がない。
誤り。早期胃癌の定義に肉眼形態は含まれない。早期胃癌は、隆起型(0-I型)、表面隆起型(0-IIa型)、表面平坦型(0-IIb型)、表面陥凹型(0-IIc型)、陥凹型(0-III型)に分類され、実際には陥凹を示す0-IIc型が最も多い。陥凹があっても深達度が粘膜下層までなら早期胃癌である。
- ×b. リンパ節転移がない。
誤り。早期胃癌の定義はリンパ節転移の有無を問わない。粘膜内癌でも数%、粘膜下層浸潤癌では20%前後にリンパ節転移がみられるが、深達度が粘膜下層までであれば早期胃癌に含まれる。なお、リンパ節転移の有無は病期(Stage)の決定や、内視鏡治療で済むか外科手術(リンパ節郭清)が必要かの判断には重要である。
- ×c. 長径が1 cm未満である。
誤り。腫瘍の大きさは早期胃癌の定義に含まれない。粘膜内を横方向に広く進展し、長径が数cm以上に及ぶ早期胃癌もある。一方で、小さくても固有筋層まで達していれば進行胃癌である。大きさは、内視鏡的切除(内視鏡的粘膜下層剝離術:ESDなど)の適応を判断する際の条件として用いられる。
- ×d. 隆起の高さが5 mm未満である。
誤り。隆起の高さは早期胃癌の定義に関係しない。隆起の高さは、肉眼型を0-I型(隆起型)と0-IIa型(表面隆起型)に分ける目安として用いられるもので(おおむね2〜3mmを境とする)、早期か進行かの区別には用いない。高く隆起した病変でも深達度が粘膜下層までなら早期胃癌である。
- ○e. 深達度が粘膜下層までにとどまる。
正しい。早期胃癌は、癌の浸潤が粘膜(T1a)または粘膜下層(T1b)までにとどまるものと定義される。これが唯一の条件であり、大きさ・肉眼形態・リンパ節転移の有無は問わない。癌が固有筋層(T2)以深に及ぶと進行胃癌となる。深達度が浅いほどリンパ節転移の頻度は低く、予後は良好である。
胃癌の壁深達度(T分類、胃癌取扱い規約)
・T1:粘膜または粘膜下層にとどまる(=早期胃癌) T1a(M):粘膜内にとどまる T1b(SM):粘膜下層に浸潤する(粘膜筋板から0.5mm未満をSM1、0.5mm以上をSM2と細分する) ・T2(MP):固有筋層に浸潤する ・T3(SS):漿膜下層に浸潤する ・T4a(SE):漿膜表面に露出する ・T4b(SI):他臓器に直接浸潤する T2以深が進行胃癌である。
胃癌の肉眼型分類
深達度にかかわらず、肉眼所見で0〜5型に分類する。 ・0型(表在型):病変が表在性で、早期胃癌の肉眼分類を準用する。0-I(隆起型)、0-IIa(表面隆起型)、0-IIb(表面平坦型)、0-IIc(表面陥凹型)、0-III(陥凹型) ・1型(腫瘤型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型):進行癌の肉眼型で、Borrmann分類に準じる ・5型:分類不能 注意点として、肉眼型の「0型」と「早期胃癌」は同義ではない。0型の外観でも組織学的に固有筋層以深に浸潤していれば進行胃癌であり、早期・進行の区別は最終的に組織学的な深達度で判定される。
治療との関係
リンパ節転移の可能性が極めて低いと考えられる粘膜内癌(組織型、大きさ、潰瘍所見の有無などの条件を満たすもの)は、ESDなどの内視鏡的切除の適応となる。条件を外れる早期胃癌や粘膜下層浸潤癌は、リンパ節郭清を伴う外科切除が基本となる。
他臓器との比較
早期大腸癌も「深達度が粘膜下層までにとどまるもの」と定義され、リンパ節転移の有無を問わない点は胃と同じである。一方、食道の表在癌は深達度が粘膜下層までのもの、早期食道癌は粘膜内にとどまるもの(いずれもリンパ節転移の有無を問わない)と区別されている。
POINT
・早期胃癌の定義:癌の浸潤が粘膜または粘膜下層までにとどまるもの(T1)。 ・大きさ、肉眼形態(隆起・陥凹)、リンパ節転移の有無は問わない。 ・固有筋層以深に浸潤したものは進行胃癌。 ・早期胃癌の肉眼型では0-IIc型(表面陥凹型)が最も多い。 ・リンパ節転移の頻度は粘膜内癌で数%、粘膜下層浸潤癌で約20%。
