肝臓の影がすべてを決める―胃癌ステージ判定は「M」から見よ
第108回医師国家試験 E問題 第45問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。心窩部痛を主訴に来院した。3か月前から心窩部に持続する鈍痛を自覚し,徐々に増悪してきた。食欲低下も伴うようになったため受診した。腹部は平坦,軟。臍周囲に可動性のない腫瘤を触知する。頸部,腋窩および鼠径部にリンパ節を触知しない。上部消化管内視鏡像(A)と腹部造影CT(B)とを別に示す。 TNM分類による進行度(ステージ)はどれか。

- a.ⅠA
- b.ⅠB
- c.Ⅱ
- d.Ⅲ
- e.Ⅳ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
胃癌の進行度はT(深達度)、N(領域リンパ節転移の個数)、M(遠隔転移)の組み合わせで決まり、M1が一つでもあればTやNにかかわらずステージⅣとなります。本例は内視鏡で潰瘍を伴う進行胃癌を認め、造影CTで辺縁がリング状に造影される肝腫瘤、すなわち肝転移を認めるため、ステージⅣと判定できます。肝転移のほか、腹膜転移、腹腔洗浄細胞診陽性、大動脈周囲や左鎖骨上窩などの領域外リンパ節転移もM1として扱われ、N分類は現在リンパ節転移の個数(1〜2個、3〜6個、7個以上)で決める点も重要です。ステージⅣでは化学療法を中心とした全身治療が基本となるため、ステージ判定ではまず遠隔転移の有無を確認する習慣が、正確な診断と適切な治療選択につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・75歳の男性で、3か月前から続く心窩部の鈍痛が徐々に増悪し、食欲低下を伴っている。急性疾患ではなく、進行性の病態、特に高齢者の悪性腫瘍を考えるべき経過である。 ・臍周囲に可動性のない腫瘤を触知する:周囲組織へ固着した腫瘤であり、進行した悪性腫瘍(原発巣の直接浸潤や腫大したリンパ節の塊)を示唆する。 ・頸部(Virchow転移の好発部位である左鎖骨上窩を含む)、腋窩、鼠径部にはリンパ節を触れない。 ・上部消化管内視鏡像(A):胃内に、周囲が堤防状に盛り上がり、中心部に汚い白苔を伴う潰瘍を形成した不整な腫瘍を認める。潰瘍を伴う進行胃癌(Borrmann分類の2型あるいは3型に相当する潰瘍限局型〜潰瘍浸潤型)の所見である。 ・腹部造影CT(B):肝右葉に、辺縁がリング状に造影され中心が低吸収の腫瘤(いわゆる標的様の像)を認め、肝転移と考えられる。また、大動脈周囲から膵周囲にかけて軟部組織濃度の腫瘤があり、腫大したリンパ節の集塊(大動脈周囲リンパ節転移)を疑う。
診断
進行胃癌(遠隔転移を伴う)である。
設問の考え方
胃癌の進行度(ステージ)は、T(原発巣の深達度)、N(領域リンパ節転移の個数)、M(遠隔転移の有無)の組み合わせで決まる。このうちM1(遠隔転移あり)が一つでもあれば、TやNがどうであってもステージⅣとなる。胃癌では肝転移、腹膜転移、腹腔洗浄細胞診陽性、領域外リンパ節(大動脈周囲リンパ節など)への転移はいずれもM1として扱われる。本例はCTで肝転移を認めるため、それだけでM1となり、深達度やリンパ節転移の詳細を評価するまでもなくステージⅣと判定できる。本問は、画像から遠隔転移を読み取れるかを問う問題である。
選択肢考察
- ×a. ⅠA
ステージⅠAは、癌が粘膜または粘膜下層までにとどまり(T1)、リンパ節転移がなく(N0)、遠隔転移もない(M0)早期胃癌に相当する。本例は内視鏡で潰瘍を伴う大きな進行癌の像を示し、さらにCTで肝転移を認めるため該当しない。
- ×b. ⅠB
ステージⅠBは、T1でリンパ節転移が1〜2個(N1)の場合、または癌が固有筋層までにとどまり(T2)リンパ節転移のない(N0)場合など、遠隔転移のない比較的早い段階である。本例は肝転移(M1)があるため該当しない。
- ×c. Ⅱ
ステージⅡは、深達度とリンパ節転移の程度の組み合わせで決まる中間的な進行度で、例えば癌が漿膜下層まで達している(T3)がリンパ節転移はない、あるいは固有筋層まで(T2)でリンパ節転移が1〜2個ある、といった場合が含まれる。いずれも遠隔転移がない(M0)ことが前提であり、肝転移を伴う本例は該当しない。
- ×d. Ⅲ
ステージⅢは、癌が漿膜を越える(T4)など深く浸潤している、あるいは領域リンパ節転移が多数あるなど、局所的には高度に進行しているが、遠隔転移はない(M0)状態である。本例は局所進行にとどまらず肝転移を認めるため、Ⅲではなく一段階進んだⅣとなる。
- ○e. Ⅳ
腹部造影CTで肝右葉にリング状に造影される腫瘤を認め、胃癌の肝転移と判断できる。肝転移は遠隔転移(M1)であり、胃癌ではM1があれば深達度(T)やリンパ節転移(N)にかかわらずステージⅣとなる。さらにCTでは大動脈周囲のリンパ節腫大も疑われ、領域外リンパ節転移としてこれもM1に相当する。治療は手術による根治ではなく、化学療法を中心とした全身治療が基本となる。
胃癌のTNM分類(胃癌取扱い規約・UICC分類の概要)
・T(深達度) T1a:粘膜(M)にとどまる T1b:粘膜下層(SM)にとどまる T2:固有筋層(MP)に達する T3:漿膜下層(SS)に達する T4a:漿膜表面に接するか、これを破って腹腔に露出する(SE) T4b:他臓器へ直接浸潤する(SI) T1(粘膜下層まで)の癌を早期胃癌、T2以深を進行胃癌と呼ぶ。 ・N(領域リンパ節転移):かつては解剖学的なリンパ節群(第1群〜第3群)で分類していたが、現在は転移個数で分類する。 N0:転移なし N1:1〜2個 N2:3〜6個 N3:7個以上(N3a:7〜15個、N3b:16個以上) ・M(遠隔転移) M0:なし M1:あり。肝転移、肺・骨などの血行性転移、腹膜転移、腹腔洗浄細胞診陽性(CY1)、領域リンパ節以外のリンパ節転移(大動脈周囲リンパ節、左鎖骨上窩リンパ節など)が含まれる。
進行度(ステージ)の大まかな考え方
・ⅠA:T1N0 ・ⅠB:T1N1、T2N0 ・Ⅱ:T・Nがやや進んだ組み合わせ(例:T3N0、T2N1など) ・Ⅲ:T4や多数のリンパ節転移を伴う局所進行 ・Ⅳ:M1(T・Nを問わない) 病理学的分類ではⅡ・Ⅲがさらに細分され、臨床分類(cStage)と病理分類(pStage)で区分が一部異なる。
胃癌の遠隔転移を示唆する身体所見
・Virchow転移:左鎖骨上窩リンパ節への転移 ・Schnitzler転移:ダグラス窩への腹膜播種で、直腸指診で硬結として触れる ・Krukenberg腫瘍:卵巣への転移 ・Sister Mary Joseph結節:臍への転移
肝転移のCT像
消化器癌の肝転移は、造影CTで中心が低吸収、辺縁がリング状に造影される像(標的様、bull's eye様)を示すことが多い。
Borrmann分類(進行胃癌の肉眼型)
1型:腫瘤型、2型:潰瘍限局型、3型:潰瘍浸潤型、4型:びまん浸潤型(スキルス胃癌を含む)、5型:分類不能。
POINT
・胃癌のステージはT(深達度)・N(領域リンパ節転移個数)・M(遠隔転移)で決まる。 ・M1があれば、TやNにかかわらずステージⅣである。 ・肝転移、腹膜転移、腹腔洗浄細胞診陽性、大動脈周囲などの領域外リンパ節転移はM1である。 ・N分類は現在、リンパ節群ではなく転移個数(N1:1〜2個、N2:3〜6個、N3:7個以上)で決める。 ・造影CTで肝内のリング状造影腫瘤は転移性肝腫瘍を考える。
