風邪のあとに残ったゼーゼー―夜と明け方に悪化する咳が示す気管支喘息
第108回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
43歳の男性。乾性咳嗽と喘鳴とを主訴に来院した。6週前に感冒に罹患し,発熱,鼻汁および咽頭痛は改善したが,4週前から夜間と早朝とに悪化する乾性咳嗽が出現し,喘鳴も伴うため心配になり受診した。労作時呼吸困難はない。半年前から胃潰瘍と高血圧とを指摘され,ヒスタミンH2受容体拮抗薬とカルシウム拮抗薬とを内服している。心音に異常を認めないが,両側の胸部にwheezesを聴取する。 対応として適切なのはどれか。
- a.利尿薬内服
- b.降圧薬中止
- c.抗菌薬内服
- d.副腎皮質ステロイド吸入
- e.プロトンポンプ阻害薬内服
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
感冒を契機に、夜間から早朝に悪化する乾性咳嗽と喘鳴が続き、両側にwheezesを聴取する場合は気管支喘息を考えます。喘息の本態は好酸球を中心とした気道の慢性炎症であり、長期管理の基本は吸入ステロイドです。心不全を示す所見がなければ利尿薬は不要で、咳の副作用を起こす降圧薬はカルシウム拮抗薬ではなくACE阻害薬、感冒症状が治まり膿性痰もなければ抗菌薬は不要、胸やけなどがなければGERDとしてのPPI追加も優先されません。なお、咳喘息はwheezesを伴わない点で区別されますが、治療は同じく吸入ステロイドが基本です。咳の持続期間・増悪する時間帯・聴診所見・内服薬を順に確認する考え方は、外来で多い長引く咳の診療に直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・43歳男性。6週前の感冒(発熱・鼻汁・咽頭痛)は改善した。 ・4週前から、夜間と早朝に悪化する乾性咳嗽(痰を伴わない咳)と喘鳴が続いている。 ・労作時呼吸困難はない。心音は正常で、両側胸部にwheezes(笛様音:細くなった気道を空気が通るときの高調性の連続性ラ音)を聴取する。 ・胃潰瘍に対しH2受容体拮抗薬、高血圧に対しカルシウム拮抗薬を内服中である。
診断へのプロセス
咳が3週以上8週未満続いており、遷延性咳嗽に当たる。鑑別として、気管支喘息、咳喘息、感染後咳嗽、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症(GERD)、薬剤性咳嗽(ACE阻害薬)、心不全などが挙がる。 本例の特徴は、①夜間から早朝にかけての症状悪化(気道の炎症と迷走神経の緊張、副腎皮質ホルモン分泌の日内変動などが関与し、喘息に典型的)、②喘鳴の自覚と両側wheezesという可逆的な気道狭窄を示す所見、③気道感染(感冒)を契機とした発症、である。これらから気管支喘息が最も考えやすい。 一方、心音異常や労作時呼吸困難がなく心不全(心臓喘息)は否定的である。喀痰や発熱がなく細菌感染も考えにくい。内服中の降圧薬はACE阻害薬ではなくカルシウム拮抗薬であり、薬剤性咳嗽の可能性は低い。胸やけや呑酸の記載はなく、GERDが主因とも考えにくい。なお、感染後咳嗽は通常wheezesを伴わず、咳喘息もwheezesを伴わない点で本例とは異なる。
設問の考え方
気管支喘息の本態は気道の慢性炎症であり、長期管理の基本は抗炎症薬である吸入ステロイド(ICS:inhaled corticosteroid)である。したがって、副腎皮質ステロイドの吸入を開始するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 利尿薬内服
利尿薬は、うっ血性心不全で肺うっ血が起こり気道がむくんで喘鳴をきたす心臓喘息などに用いる。本例は心音異常(Ⅲ音など)や労作時呼吸困難がなく、心不全を示唆する所見に乏しい。喘息に利尿薬は無効である。
- ×b. 降圧薬中止
降圧薬で乾性咳嗽の副作用が問題になるのはACE阻害薬(ブラジキニンなどの分解が抑えられることによる)である。本例の内服はカルシウム拮抗薬であり、咳の原因とはなりにくい。また、β遮断薬は気管支収縮を起こし喘息を悪化させるが、本例では使用していない。降圧薬を中止する根拠はない。
- ×c. 抗菌薬内服
発熱・鼻汁・咽頭痛といった感冒症状はすでに改善しており、膿性痰や発熱もないことから、現在細菌感染が持続しているとは考えにくい。そもそも感冒の多くはウイルス性であり抗菌薬は無効である。喘息による気道炎症は抗菌薬では改善しない。
- ○d. 副腎皮質ステロイド吸入
夜間・早朝に増悪する咳嗽と喘鳴、両側wheezesから気管支喘息と考えられる。喘息の病態は好酸球などによる気道の慢性炎症であり、吸入ステロイドはその炎症を抑えて気道過敏性を改善させ、発作を予防する長期管理薬の中心である。吸入で気道に直接届くため、全身性の副作用が少ない。症状に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)などを併用する。
- ×e. プロトンポンプ阻害薬内服
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸の逆流が咳を誘発する胃食道逆流症(GERD)による咳嗽の治療に用いる。本例には胸やけ・呑酸などGERDを示す症状がなく、wheezesを伴う点も喘息を示唆する。胃潰瘍にはすでにH2受容体拮抗薬を内服しており、咳の治療としてPPIを追加する必要性は低い。
咳嗽の持続期間による分類
・急性咳嗽:3週未満。多くは感冒などの気道感染。 ・遷延性咳嗽:3週以上8週未満。感染後咳嗽が多いが、喘息なども含まれる。 ・慢性咳嗽:8週以上。咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、GERD、ACE阻害薬による咳などが原因となる。
気管支喘息の特徴
・病態:気道の慢性炎症(主に好酸球性)、気道過敏性の亢進、可逆性の気道狭窄。 ・症状:発作性の喘鳴、咳嗽、呼吸困難。夜間から早朝に悪化しやすい。気道感染、アレルゲン、運動、冷気、喫煙、NSAIDs(アスピリン喘息)などで誘発される。 ・所見:呼気時に強いwheezes、呼気延長。 ・検査:スパイロメトリーで1秒量(FEV1)・1秒率の低下(閉塞性障害)とβ2刺激薬吸入後の改善(可逆性)、ピークフローの日内変動、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)の上昇、喀痰・末梢血の好酸球増加など。
咳喘息との違い
咳喘息は喘鳴やwheezesを伴わず、咳だけが続く喘息の亜型である。気管支拡張薬が有効で、放置すると一部が典型的な喘息に移行するため、治療は喘息と同様に吸入ステロイドが基本となる。
喘息の治療
・長期管理薬(コントローラー):吸入ステロイドが基本。重症度に応じてLABA、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体など)を追加する。 ・発作治療薬(リリーバー):短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入。中等度以上の発作では全身性ステロイドも用いる。
喘息患者で注意すべき薬剤
・β遮断薬(点眼薬を含む):気管支収縮を誘発するため原則禁忌。 ・NSAIDs:アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の患者で重篤な発作を誘発する。 ・ACE阻害薬:乾性咳嗽の副作用がある。
POINT
・夜間・早朝に悪化する咳嗽+喘鳴+wheezes、感冒を契機に発症 → 気管支喘息 ・喘息の長期管理の基本は吸入ステロイド(気道の慢性炎症を抑える) ・乾性咳嗽の副作用がある降圧薬はACE阻害薬(カルシウム拮抗薬ではない) ・咳喘息はwheezesを伴わない。感染後咳嗽も通常wheezesを伴わない ・心不全(心臓喘息)、GERD、細菌感染を示唆する所見がないことを確認する
