StudyMed医師国家試験

大きくなったら、取りすぎずに取り切る―胃GISTに局所切除を選ぶ理由

第108回医師国家試験 A問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第43問

64歳の男性。定期的な経過観察のため来院した。自覚症状はないが,1年前の健康診断でGIST〈gastrointestinal stromal tumor〉を疑われ,経過観察のため受診した。上部消化管内視鏡像(A)と腹部造影CT(B)とを別に示す。1年前と比較して約1.5倍の直径であった。腹部造影CTでは胃病変を認めるが,胃以外に異常はない。  治療として適切なのはどれか。

第108回 A問題 第43問の問題画像
  1. a.抗癌化学療法
  2. b.放射線療法
  3. c.胃局所切除術
  4. d.噴門側胃切除術
  5. e.胃全摘術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、経過観察中の胃の粘膜下腫瘍が大きくなってきたときに、どんな治療を選ぶかという問題だ。ポイントは「なぜ今治療するのか」と「どこまで切るべきか」の2つ。まずは内視鏡像から見ていこう。正常な粘膜に覆われたなだらかな隆起があり、周囲のひだが腫瘤に向かって橋をかけるように立ち上がっている。これは何を意味するかな。
医学生医学生
bridging foldですね。粘膜そのものではなく、その下に病変がある粘膜下腫瘍の所見だと思います。
ドクタードクター
その通り。表面が正常粘膜で覆われているから、普通の生検では腫瘍に届かないことも多い。胃の粘膜下腫瘍にはGIST、平滑筋腫、神経鞘腫、迷入膵、脂肪腫などがあるけれど、胃の間葉系腫瘍として最も多いのがGISTだ。
医学生医学生
病理の講義で、GISTはカハール介在細胞由来と習いました。消化管運動のペースメーカー細胞でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。約8〜9割にKIT遺伝子、一部にPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異があって、免疫染色ではKIT、つまりCD117やDOG1が陽性になる。平滑筋腫はdesmin陽性でKIT陰性、神経鞘腫はS-100陽性だから、免疫染色で区別できるんだ。
医学生医学生
GISTは良性なんでしょうか、悪性なんでしょうか。そこがいつも曖昧で。
ドクタードクター
大事な疑問だ。GISTは悪性の潜在性をもつ腫瘍と考えるのがいい。小さくて悪性を疑う所見がなければ経過観察することもあるけれど、潰瘍形成や辺縁の不整、そして増大傾向があれば手術を考える。今回は1年で直径が約1.5倍になっているから、まさに手術を検討すべきタイミングだね。
医学生医学生
しかも造影CTで胃以外に異常がないので、肝転移や腹膜播種はなさそうです。切除できる段階ですね。
ドクタードクター
そう。転移のない限局性GISTの治療の基本は外科的切除だ。では、どこまで切るか。胃癌の手術と同じように考えると、噴門側胃切除や胃全摘も候補に見えてしまうかもしれない。
医学生医学生
胃の腫瘍だから、リンパ節郭清をつけた定型的な胃切除が必要なのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが最大のポイントだよ。GISTはリンパ節転移がまれで、転移するときは主に肝臓や腹膜なんだ。だから系統的なリンパ節郭清は原則不要で、腫瘍の被膜を破らずに、断端陰性を確保して取り切る局所切除で根治が見込める。したがって胃局所切除術が適切な治療になる。
医学生医学生
被膜を破らないことが強調されるのはなぜですか。
ドクタードクター
被膜が破れて腫瘍細胞がこぼれると、腹膜播種の原因になるからだ。腫瘍破裂は再発リスクを大きく上げる因子でもある。だから愛護的に扱う。腫瘍が小さめなら腹腔鏡下手術や、内視鏡と腹腔鏡を組み合わせた腹腔鏡内視鏡合同手術、いわゆるLECSも選ばれるよ。
医学生医学生
消化器外科の実習でLECSを見学しました。内視鏡で内側から切離ラインを決めて、最小限の範囲で切っていたのが印象的でした。
ドクタードクター
いい経験をしたね。逆に噴門側胃切除や胃全摘は、郭清を伴う胃癌向けの術式で、この症例には過大な手術になる。逆流性食道炎やダンピング症候群、体重減少、ビタミンB12欠乏による貧血といった術後障害を増やすだけだ。ただし噴門に近接していて、局所切除では狭窄をきたしてしまう位置なら、噴門側胃切除を選ぶこともある。部位によって術式が変わりうる点は頭に入れておこう。
医学生医学生
抗癌化学療法はどうでしょう。GISTにはイマチニブが効くと聞いたことがあります。
ドクタードクター
そこは区別が必要だ。イマチニブはKITなどのチロシンキナーゼを阻害する分子標的薬で、従来の殺細胞性抗癌薬はGISTにほとんど効かない。分子標的薬が使われるのは、切除不能・転移性・再発のGIST、再発リスクの高い症例の術後補助療法、大きな腫瘍を術前に縮小させたい場合などだ。今回のように転移がなく切除できる病変では、まず手術になる。
医学生医学生
放射線療法も効きにくいんでしたよね。
ドクタードクター
そう、GISTは放射線感受性が低く、胃は動く臓器で周りに放射線に弱い腸管も多い。骨転移の疼痛緩和など限られた場面でしか使われない。最後に発展知識をまとめよう。切除後は腫瘍径、核分裂像数、発生部位、腫瘍破裂の有無で再発リスクを評価し、高リスクならイマチニブを3年間投与する。イマチニブが効かなくなったら、スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブへと切り替えていく。
医学生医学生
増大したら切る、でもリンパ節は取らずに局所で取り切る。薬は転移・再発や高リスクのとき、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。胃癌とGISTは同じ胃の腫瘍でも、広がり方が違うから手術の考え方も違う。この対比を意識しておくと、術式選択の問題で迷わなくなるよ。

まとめ

胃の粘膜下腫瘍は、内視鏡で正常粘膜に覆われた表面平滑な隆起やbridging foldとして現れ、その代表がカハール介在細胞由来でKIT(CD117)・DOG1陽性のGISTです。GISTは悪性の潜在性をもち、増大傾向や潰瘍形成などの悪性所見があれば手術適応となります。リンパ節転移がまれなため郭清は原則不要で、被膜を破らず断端陰性で切除する局所切除が標準であり、噴門側胃切除や胃全摘は通常は過大侵襲です。殺細胞性抗癌薬や放射線療法は効果が乏しく、イマチニブなどの分子標的薬は切除不能・転移・再発例や高リスク例の術後補助療法に用います。腫瘍の広がり方の違いから術式を選ぶという視点は、胃癌との対比を通じて消化器外科の理解を深める鍵になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・64歳男性。無症状だが、1年前の健康診断で胃のGIST(gastrointestinal stromal tumor:消化管間質腫瘍)を疑われ、経過観察中である。 ・上部消化管内視鏡像(A)では、正常粘膜に覆われた表面平滑な隆起があり、周囲のひだが腫瘤に向かって橋渡しのように立ち上がる所見(bridging fold)がみられる。これは病変が粘膜の下にある粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の典型像である。 ・腫瘍径は1年間で約1.5倍に増大している。 ・腹部造影CT(B)では胃病変のみで、肝転移・腹膜播種など胃以外の異常はない。

診断へのプロセス

胃の粘膜下腫瘍にはGIST、平滑筋腫、神経鞘腫、迷入膵、脂肪腫などがあるが、胃の間葉系腫瘍として最も頻度が高いのはGISTであり、本例もその臨床経過からGISTとして扱う。確定診断は、超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)や切除標本の病理検査で、KIT(CD117)やDOG1の免疫染色陽性を確認して行う。

設問の考え方

GISTは悪性の潜在性をもつ腫瘍であり、経過観察中に増大した場合は手術適応となる。遠隔転移がない限局性GISTの治療の基本は外科的完全切除である。GISTはリンパ節転移がまれであるため、胃癌のような系統的リンパ節郭清を伴う定型的胃切除は不要で、腫瘍を被膜を破らずに、肉眼的に正常な切離縁(断端陰性)を確保して切除する局所切除(部分切除)で根治が得られる。したがって、転移のない本例に最も適切なのは胃局所切除術である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗癌化学療法

    GISTに対する薬物療法の中心は、KITなどのチロシンキナーゼを阻害する分子標的薬(一次治療はイマチニブ、以後スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブ)である。これらは切除不能・転移性・再発GISTに用いられるほか、再発リスクの高い症例の術後補助療法(イマチニブを3年間)や、大きな腫瘍を縮小させて臓器温存を図る術前療法として使われる。一方、従来型の殺細胞性抗癌薬はGISTにほとんど効かない。本例は転移のない切除可能な病変であり、第一選択は手術である。

  2. ×b.  放射線療法

    GISTは放射線感受性が低く、根治目的の放射線療法の有効性は示されていない。また胃は可動性がある臓器で周囲に放射線に弱い腸管が多く、照射自体も難しい。骨転移の疼痛緩和など限られた状況で用いられるにとどまり、限局性の胃GISTの治療にはならない。

  3. ○c.  胃局所切除術

    増大傾向を示す転移のない胃GISTであり、手術適応がある。GISTはリンパ節転移がまれなので、リンパ節郭清は原則不要で、腫瘍を被膜損傷なく断端陰性で切除する局所切除(楔状切除・部分切除)が標準術式となる。腫瘍被膜が破れると腹膜播種の原因となるため、愛護的な操作が求められる。腫瘍径が小さい(おおむね5cm以下)症例では腹腔鏡下手術や、内視鏡と腹腔鏡を併用する腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)も選択される。

  4. ×d.  噴門側胃切除術

    噴門側胃切除術は、胃上部の癌に対してリンパ節郭清を伴って行う定型的な術式である。GISTはリンパ節郭清が不要であり、本例の病変は食道胃接合部(噴門)に接していないため、局所切除で断端陰性を確保できる。噴門側胃切除は切除範囲が過大(オーバーサージェリー)で、逆流性食道炎などの術後障害を増やすだけである。なお、噴門に近接し局所切除では狭窄をきたすような位置のGISTでは、噴門側胃切除が選ばれることもある。

  5. ×e.  胃全摘術

    胃全摘術は、胃癌で広い範囲の切除と郭清が必要な場合などに行う術式であり、術後にダンピング症候群、体重減少、ビタミンB12欠乏性貧血などを生じうる。リンパ節転移がまれで局所切除で根治が見込めるGISTに対しては明らかに過大な手術であり、不適切である。

GISTの概要

・消化管の筋層に存在するカハール介在細胞(消化管運動のペースメーカー細胞)またはその前駆細胞に由来する間葉系腫瘍である。 ・約80〜90%にKIT遺伝子(c-kit)、約5〜10%にPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異がみられる。免疫染色ではKIT(CD117)、DOG1、CD34が陽性となる。平滑筋腫(desmin陽性、KIT陰性)や神経鞘腫(S-100陽性)との鑑別に有用である。 ・発生部位は胃が約60〜70%と最多で、次いで小腸に多い。 ・症状は乏しく、健診の内視鏡で偶然発見されることが多い。大きくなると消化管出血(腫瘍表面の潰瘍:delle)や腹部腫瘤を呈する。

胃粘膜下腫瘍(GIST疑い)の治療方針の目安

・2cm未満:悪性所見(潰瘍形成、辺縁不整、増大傾向など)がなければ、年1〜2回の内視鏡などで経過観察する。 ・2〜5cm:手術が勧められる。 ・5cmを超える、または有症状・悪性所見・増大傾向がある場合:手術適応となる。

再発リスク分類

腫瘍径、核分裂像数、発生部位、腫瘍破裂の有無により再発リスクを評価する(Miettinen分類、modified Fletcher分類など)。高リスク群では術後にイマチニブによる補助療法を3年間行う。

転移・再発GISTの治療

肝転移と腹膜播種が主な転移形式で、リンパ節転移はまれである。切除不能・転移性GISTではイマチニブが第一選択で、耐性化すればスニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブへと切り替える。

POINT

・胃の粘膜下腫瘍の内視鏡所見:正常粘膜に覆われた表面平滑な隆起、bridging fold。 ・GISTはKIT(CD117)・DOG1陽性、カハール介在細胞由来。 ・増大傾向や5cm超、悪性所見のあるGISTは手術適応。 ・GISTはリンパ節転移がまれ → 郭清不要の局所切除(被膜を破らず断端陰性)が基本。 ・分子標的薬(イマチニブなど)は転移・再発・切除不能例、高リスク例の術後補助療法に用いる。殺細胞性抗癌薬と放射線療法は無効。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。