病原体ごとに腎は違う顔を見せる―O157とHUSから整理する感染症と腎病変
第107回医師国家試験 I問題 第15問
国試問題にチャレンジ
感染症と腎病変の組合せで正しいのはどれか。
- a.HIV感染症 ―― 紫斑病性腎炎
- b.C型慢性肝炎 ―― 慢性間質性腎炎
- c.緑膿菌感染症 ―― IgA腎症
- d.溶連菌感染症 ―― 巣状分節性糸球体硬化症
- e.腸管出血性大腸菌感染症 ―― 溶血性尿毒症症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
感染症は、免疫複合体の沈着、毒素による血管内皮障害、足細胞障害などさまざまな機序で腎病変を起こし、病原体ごとに典型的な組合せがあります。腸管出血性大腸菌の志賀毒素は糸球体内皮を傷害して血栓性微小血管症を起こし、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を三徴とする溶血性尿毒症症候群を生じます。このほか、溶連菌は急性糸球体腎炎(ASO上昇・C3低値)、HCVはクリオグロブリン血症性の膜性増殖性糸球体腎炎、HBVは膜性腎症、HIVは虚脱型の巣状分節性糸球体硬化症が代表的です。溶血性尿毒症症候群の治療は支持療法が中心で止痢薬は避けるべきであり、非典型溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病との鑑別も重要です。「感染症と腎病変」を機序とともに対応づけて理解しておくことは、尿異常の原因検索や感染症診療での合併症の早期発見に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
感染症は、病原体そのものによる腎障害だけでなく、免疫複合体の沈着、毒素による血管内皮障害、サイトカインを介した足細胞(ポドサイト)障害など、さまざまな機序で腎病変を引き起こす。本問は代表的な「感染症―腎病変」の対応を知っているかを問うている。 整理の要点は次のとおりである。 ・溶連菌(A群β溶血性レンサ球菌)感染 → 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN) ・B型肝炎ウイルス(HBV) → 膜性腎症(小児に多い)、膜性増殖性糸球体腎炎 ・C型肝炎ウイルス(HCV) → クリオグロブリン血症を伴う膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN) ・HIV → HIV関連腎症(HIVAN:虚脱型の巣状分節性糸球体硬化症) ・腸管出血性大腸菌(EHEC) → 溶血性尿毒症症候群(HUS) ・感染性心内膜炎、シャント感染 → 免疫複合体性糸球体腎炎(シャント腎炎は MPGN 様) この対応に照らすと、腸管出血性大腸菌感染症と溶血性尿毒症症候群の組合せだけが正しい。
選択肢考察
- ×a. HIV感染症 ―― 紫斑病性腎炎
誤り。HIV感染症に特徴的な腎病変は HIV関連腎症(HIV-associated nephropathy:HIVAN)で、病理学的には糸球体係蹄が虚脱(collapse)する型の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を呈し、尿細管の拡張(微小嚢胞化)も伴う。臨床的にはネフローゼ域に及ぶ高度の蛋白尿と、急速に進行する腎機能低下が特徴で、アフリカ系の人に多い。一方、紫斑病性腎炎は IgA血管炎(旧称 Henoch-Schönlein紫斑病)に伴う腎炎で、メサンギウムへの IgA沈着を特徴とし、HIV感染とは直接の関係はない。
- ×b. C型慢性肝炎 ―― 慢性間質性腎炎
誤り。HCV感染に関連する代表的な腎病変は糸球体病変であり、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)である。HCV に対する免疫反応で IgM型リウマトイド因子活性をもつ混合型(Ⅱ型)クリオグロブリンが生じ、これが免疫複合体として糸球体に沈着して腎炎を起こす。このため低補体血症(特に C4 低値)、紫斑、関節痛などを伴うことがある。慢性間質性腎炎は薬剤(鎮痛薬など)、Sjögren症候群、IgG4関連疾患、高尿酸血症などが代表的な原因であり、C型慢性肝炎との組合せとしては不適切である。
- ×c. 緑膿菌感染症 ―― IgA腎症
誤り。緑膿菌は免疫不全者や入院患者に日和見感染・院内感染を起こす代表的なグラム陰性桿菌であり、IgA腎症の原因菌としての関連は知られていない。IgA腎症は上気道感染(扁桃炎など)の直後に肉眼的血尿が出現することが特徴で、粘膜免疫の異常が病態に関与すると考えられている。病因との関連が報告されている細菌としてはパラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)が挙げられるが、原因は確定していない。
- ×d. 溶連菌感染症 ―― 巣状分節性糸球体硬化症
誤り。溶連菌(主に A群β溶血性レンサ球菌)感染に続発する腎病変は、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(post-streptococcal acute glomerulonephritis:PSAGN)である。咽頭炎後約 1〜2週、皮膚感染(膿痂疹)後約 3〜6週の潜伏期を経て、血尿・浮腫・高血圧で発症する。血清 ASO(抗ストレプトリジンO抗体)上昇、低補体血症(C3 低値)が特徴で、組織学的には管内増殖性糸球体腎炎を呈し、電子顕微鏡で上皮下の hump(こぶ状沈着物)がみられる。巣状分節性糸球体硬化症はネフローゼ症候群を呈する疾患であり、溶連菌感染との組合せは誤りである。
- ○e. 腸管出血性大腸菌感染症 ―― 溶血性尿毒症症候群
正しい。O157:H7 に代表される腸管出血性大腸菌(EHEC)は志賀毒素(ベロ毒素)を産生する。毒素は腸管から吸収されて血管内皮細胞、特に腎の糸球体内皮細胞を障害し、微小血管内に血小板血栓が形成される(血栓性微小血管症:TMA)。その結果、①破砕赤血球を伴う微小血管症性溶血性貧血、②血小板減少、③急性腎障害の三徴からなる溶血性尿毒症症候群(HUS)が生じる。典型的には血性下痢の出現から数日〜約 1週間後に発症し、小児に多い。脳の微小血管も障害されると、痙攣や意識障害などの脳症を合併し、予後を左右する。
感染症に関連する主な腎病変
・A群β溶血性レンサ球菌:溶連菌感染後急性糸球体腎炎(ASO上昇、C3低値、上皮下 hump) ・ブドウ球菌:ブドウ球菌感染関連糸球体腎炎(IgA優位の沈着を示すことがあり、高齢者・糖尿病患者に多い) ・感染性心内膜炎:免疫複合体性糸球体腎炎、腎梗塞 ・脳室心房シャント感染:シャント腎炎(MPGN 様、低補体血症) ・HBV:膜性腎症、MPGN、結節性多発動脈炎 ・HCV:クリオグロブリン血症性 MPGN ・HIV:HIV関連腎症(虚脱型 FSGS) ・腸管出血性大腸菌:溶血性尿毒症症候群(HUS) ・マラリア(四日熱マラリア):ネフローゼ症候群 ・梅毒:膜性腎症
溶血性尿毒症症候群(HUS)
志賀毒素産生性大腸菌による典型的 HUS のほか、補体制御因子の異常による非典型 HUS(aHUS)がある。類縁の血栓性微小血管症に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)があり、こちらは ADAMTS13(von Willebrand因子切断酵素)活性の著明な低下が原因で、発熱・精神神経症状を含む五徴が古典的に知られる。典型的 HUS の治療は輸液・電解質管理や透析などの支持療法が中心で、止痢薬(腸管運動抑制薬)は毒素の排出を遅らせるため避ける。
POINT
・溶連菌 → 急性糸球体腎炎(PSAGN) ・HCV → クリオグロブリン血症性 MPGN ・HBV → 膜性腎症 ・HIV → HIV関連腎症(虚脱型 FSGS) ・腸管出血性大腸菌(志賀毒素) → 溶血性尿毒症症候群(溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害)
