StudyMed医師国家試験

達成率はほぼゼロ―光化学オキシダントだけが「環境基準の優等生」になれない理由

第107回医師国家試験 G問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第10問

我が国において大気汚染物質のうち環境基準の達成率が最も低いのはどれか。

  1. a.一酸化炭素
  2. b.光化学オキシダント
  3. c.二酸化硫黄
  4. d.二酸化窒素
  5. e.浮遊粒子状物質

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、大気汚染物質ごとの環境基準の達成状況を問う問題だ。ポイントは「どの物質が対策で減ってきたか」と「なぜ減りにくい物質があるのか」の2つ。まず、環境基準とは何か、説明できるかな。
医学生医学生
環境基本法に基づいて国が定める基準ですよね。超えたら罰則がある規制値だと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。環境基準は「維持されることが望ましい基準」として定められた行政上の目標値で、それ自体に罰則はない。工場などを直接取り締まるのは、大気汚染防止法の排出基準のほうなんだ。目標値だからこそ、毎年どれだけ達成できたかが全国で監視・公表されている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、測定局に一般局と自排局の2種類があると習いました。
ドクタードクター
そう。一般環境大気測定局は住宅地などのふだんの空気を、自動車排出ガス測定局は交通量の多い道路沿いの空気を測る。全国に約1,800局あって、その結果で達成率が出される。では、どの物質の達成率が一番低いと思う?
医学生医学生
四日市ぜんそくのイメージから二酸化硫黄かと思ったんですが、昔の話ですよね…。今なら車の排ガスに関係する二酸化窒素でしょうか。
ドクタードクター
いい推論の流れだけど、どちらも違うんだ。二酸化硫黄は燃料の低硫黄化や排煙脱硫装置の普及で大きく減り、達成率はほぼ100%。二酸化窒素もかつては道路沿いで達成率が低かったけれど、自動車NOx・PM法などの対策で改善して、今は一般局・自排局ともにほぼ100%になっている。
医学生医学生
一酸化炭素も、不完全燃焼で出るものなので、触媒の普及で減ったということですか。
ドクタードクター
その通り。排出ガス規制と触媒の普及で濃度が大きく下がり、全測定局で基準を達成している。正解は光化学オキシダントだ。達成率は一般局で0%台、自排局ではほぼ0%という状態が長年続いていて、ほかの物質とは桁違いに低い。
医学生医学生
浮遊粒子状物質はどうですか。黄砂の時期はかなり影響がありそうですが。
ドクタードクター
鋭いね。粒径10μm以下の浮遊粒子状物質は、黄砂の飛来が多い年には達成率が一時的に下がることがあり、この問題が出された頃には約70%まで落ちた年もある。それでも通常の年は90%台後半から100%で、光化学オキシダントとは比べものにならない。
医学生医学生
なぜ光化学オキシダントだけ、ここまで改善しないんでしょう。
ドクタードクター
理由は大きく3つある。1つ目は、二次汚染物質だということ。工場や自動車から出る窒素酸化物と揮発性有機化合物が、太陽の紫外線を受けて光化学反応を起こし、大気中で新たにできる。だから原因物質を減らしても、濃度がすぐ下がるとは限らない。2つ目は大陸からの越境汚染。3つ目は基準の厳しさで、1時間値0.06ppm以下という基準を一度でも超えると、その局は非達成と判定されるんだ。
医学生医学生
なるほど、二酸化硫黄や一酸化炭素は発生源から直接出る一次汚染物質だから、排出規制がそのまま効いたんですね。
ドクタードクター
まさにそこが本質だよ。一次汚染物質は「出口を絞れば減る」、二次汚染物質は「大気中で化学反応によってできるから減らしにくい」。PM2.5の一部も同じ二次生成粒子で、対策が難しい理由は共通している。
医学生医学生
光化学オキシダントの中身はオゾンでしたっけ。
ドクタードクター
大部分はオゾンで、ほかにパーオキシアセチルナイトレートなどを含む酸化性物質の総称だ。日差しが強く風の弱い、春から夏の日中に濃度が上がりやすい。高濃度になると光化学スモッグとして、眼がちかちかする、のどの痛み、咳といった粘膜の刺激症状を起こす。1時間値0.12ppm以上が続くと見込まれる場合は、都道府県知事が注意報を出すんだ。
医学生医学生
小学生のころ、注意報が出て体育が中止になったことがあります。あれのことだったんですね。
ドクタードクター
そう、身近な話なんだよ。臨床でも、夏の昼間に屋外活動をした子どもが眼や喉の症状を訴えたら、光化学スモッグを鑑別に挙げられるといい。喘息など呼吸器疾患のある人には、注意報の日は屋外での激しい運動を控えるよう助言することも大切だ。

まとめ

大気汚染に係る環境基準は、環境基本法に基づく「維持されることが望ましい」行政上の目標値で、全国の一般局と自排局で常時監視されています。二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化窒素は排出規制や技術の進歩でほぼ100%達成され、浮遊粒子状物質も黄砂の年を除けば高い達成率です。一方、光化学オキシダントは窒素酸化物と揮発性有機化合物が紫外線で反応して生じる二次汚染物質であり、越境汚染や1時間値0.06ppm以下という厳しい基準も重なって、達成率は0%台にとどまっています。「一次汚染物質は排出規制で減るが、二次汚染物質は減りにくい」という視点を持つと、PM2.5を含む大気汚染対策の難しさも整理して理解でき、光化学スモッグによる健康被害への助言にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

環境基準とは、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい基準」として、環境基本法に基づいて国が定める行政上の目標値である。大気汚染については、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)、光化学オキシダント(Ox)、微小粒子状物質(PM2.5)などに環境基準が設けられている。全国の測定局で常時監視が行われ、その結果が毎年公表されている。測定局には、住宅地などの一般的な大気の状態を測る一般環境大気測定局(一般局)と、交通量の多い道路沿いで測る自動車排出ガス測定局(自排局)の2種類がある。 各物質の達成率をみると、SO2、CO、NO2は長年にわたりほぼ100%である。SPMとPM2.5も対策が進み、近年は高い達成率となっている。これに対して光化学オキシダントの達成率は、一般局で0%台、自排局でほぼ0%という状態が長く続いている。ほとんどの測定局で基準を達成できておらず、主な大気汚染物質のなかで際立って低い。 光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC)が、太陽の紫外線を受けて光化学反応を起こすことで大気中に生じる二次汚染物質である。そのため、原因物質を減らしてもすぐには濃度が下がりにくい。さらに、大陸から運ばれてくる越境汚染の影響もあり、改善が難しい。

選択肢考察

  1. ×a.  一酸化炭素

    一酸化炭素は、主に燃料の不完全燃焼で生じ、自動車排出ガスが主な発生源である。排出ガス規制と触媒の普及によって濃度は大きく下がった。現在は一般局・自排局ともに、すべての測定局で環境基準を達成している(達成率100%)。環境基準は、1時間値の1日平均値が10ppm以下、かつ1時間値の8時間平均値が20ppm以下である。

  2. ○b.  光化学オキシダント

    光化学オキシダントの環境基準は「1時間値が0.06ppm以下」である。1時間値のうち一度でも基準を超えると、その測定局は非達成と判定されるため、非常に厳しい基準となっている。達成率は一般局で0%台(0.2〜0.5%程度)、自排局で0%にとどまり、主な大気汚染物質のなかで最も低い。原因物質(NOx、VOC)が光化学反応を起こして二次的に生じることに加え、越境汚染の影響もあって改善が進んでいない。したがって、これが正解である。

  3. ×c.  二酸化硫黄

    二酸化硫黄は、硫黄分を含む石油や石炭の燃焼によって生じる。四日市ぜんそくの原因となった物質である。燃料の低硫黄化や排煙脱硫装置の普及によって大幅に減少した。現在の達成率は一般局で99%台後半〜100%、自排局で100%と、ほぼ完全に達成されている。環境基準は、1時間値の1日平均値が0.04ppm以下、かつ1時間値が0.1ppm以下である。

  4. ×d.  二酸化窒素

    二酸化窒素は、高温で燃焼したときに空気中の窒素が酸化されて生じる。自動車排出ガスが主な発生源で、かつては道路沿いの自排局で達成率が低かった。その後、自動車NOx・PM法などの対策によって改善し、現在は一般局・自排局ともにほぼ100%である。環境基準は、1時間値の1日平均値が0.04〜0.06ppmのゾーン内またはそれ以下である。

  5. ×e.  浮遊粒子状物質

    浮遊粒子状物質(SPM)は、大気中に浮遊する粒子のうち粒径が10μm以下のものをいう。環境基準は、1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下、かつ1時間値が0.20mg/m3以下である。黄砂の飛来が多い年には達成率が一時的に下がることがある(出題当時の平成23年度は黄砂の影響で約70%に低下した)。しかし、通常の年は90%台後半〜100%に達している。光化学オキシダントに比べれば、はるかに高い。

大気汚染に係る主な環境基準

・二酸化硫黄: 1時間値の1日平均値が0.04ppm以下、かつ1時間値が0.1ppm以下 ・一酸化炭素: 1時間値の1日平均値が10ppm以下、かつ1時間値の8時間平均値が20ppm以下 ・浮遊粒子状物質: 1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下、かつ1時間値が0.20mg/m3以下 ・二酸化窒素: 1時間値の1日平均値が0.04〜0.06ppmのゾーン内またはそれ以下 ・光化学オキシダント: 1時間値が0.06ppm以下 ・微小粒子状物質(PM2.5): 1年平均値が15μg/m3以下、かつ1日平均値が35μg/m3以下 このほか、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン(有害大気汚染物質)やダイオキシン類にも環境基準がある。

光化学オキシダントの特徴

光化学オキシダントは、NOxとVOCが紫外線を受けて反応してできる酸化性物質の総称である。大部分はオゾンで、ほかにパーオキシアセチルナイトレート(PAN)などが含まれる。日差しが強く風の弱い、春から夏の日中に濃度が高くなりやすい。濃度が上がると光化学スモッグとなり、眼がちかちかする、のどが痛む、咳が出るなどの粘膜刺激症状を起こす。濃度が1時間値0.12ppm以上になり、その状態が続くと見込まれる場合には、都道府県知事が光化学オキシダント注意報を発令する。

一次汚染物質と二次汚染物質

SO2、CO、NOxなどは発生源から直接排出される一次汚染物質であり、排出規制がそのまま濃度の低下につながりやすい。これに対し、光化学オキシダントや、PM2.5の一部(二次生成粒子)は大気中の化学反応で生じる二次汚染物質である。そのため排出量の削減が濃度の低下に直結しにくく、対策が難しい。

測定局

全国に約1,800の測定局があり、一般局が約1,400局、自排局が約400局である。

POINT

・大気汚染物質のうち、環境基準の達成率が最も低いのは光化学オキシダントである(一般局で0%台、自排局でほぼ0%)。 ・SO2、CO、NO2はほぼ100%達成している。SPMは黄砂の影響を受ける年もあるが、通常は高い達成率である。 ・光化学オキシダントの環境基準は1時間値0.06ppm以下で、NOxとVOCから光化学反応で生じる二次汚染物質である。 ・一般局(一般環境)と自排局(道路沿い)という2種類の測定局を区別して覚えておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。