「2.5」は重さじゃない―大きさで定義される微小粒子状物質PM2.5の正体
第107回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
環境基準に規定されている微小粒子状物質(PM2.5)について正しいのはどれか。
- a.大気中に浮遊している。
- b.消化管から血管内へ入る。
- c.粒子の規定は2.5 mg以下である。
- d.工場からの排出が規制されている。
- e.主成分はディーゼル排気微粒子〈DEP〉である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
微小粒子状物質(PM2.5)は、大気中に浮遊する粒子状物質のうち粒径おおむね2.5μm以下のものと定義され、「2.5」は重さではなく大きさを表します。主に経気道的に吸入されて肺胞まで到達し、呼吸器疾患だけでなく循環器疾患や肺癌のリスクを高めることが知られています。大きさで定義されるため成分は多様で、ディーゼル排気微粒子などの一次粒子に加え、ガス状物質から大気中で生成する二次粒子も多くを占めます。環境基本法の環境基準(年平均15μg/m³以下かつ1日平均35μg/m³以下)は行政上の目標値であり、排出規制は大気汚染防止法によるばいじんや前駆物質の規制などを通じて間接的に行われます。定義・侵入経路・法的位置づけを整理しておくことは、公衆衛生の試験対策にも、影響を受けやすい患者への生活指導にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
テーマ
微小粒子状物質(PM2.5:particulate matter 2.5)は、大気中に浮遊する粒子のうち、粒径(粒子の直径)がおおむね2.5μm以下の非常に小さなものを指す。日本では2009年(平成21年)に、環境基本法に基づく大気の環境基準(人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい基準)に追加された。中国などからの越境大気汚染が報道で大きく扱われ、注目度の高い話題となった。
押さえるべき要素
・何か:大気中に浮遊する微小な粒子(定義は「大きさ」による) ・大きさ:2.5μm以下(重さではない。単位はμm) ・どこから入るか:呼吸によって気道から吸入され、肺の奥(肺胞)まで達する ・発生源:自動車・工場・家庭などから直接出る一次粒子と、ガス状物質から大気中で生成される二次粒子が混ざったもので、単一の成分ではない ・法的位置づけ:環境基本法の「環境基準」(行政上の目標値)。PM2.5そのものを直接の対象とした工場の排出規制はない これらを踏まえて各選択肢を検討すると、PM2.5の定義そのものである「大気中に浮遊している」が正しい。
選択肢考察
- ○a. 大気中に浮遊している。
PM2.5は、大気中に浮遊する粒子状物質のうち粒径2.5μm以下のものと定義されている。粒子が非常に小さく軽いため、重力で落下しにくく、長時間大気中にとどまり、風に乗って数百~数千km離れた地域まで運ばれることもある(越境汚染)。より大きな粒子を含む浮遊粒子状物質(SPM)の一部分に当たる。
- ×b. 消化管から血管内へ入る。
PM2.5の主な侵入経路は消化管ではなく気道である。粒径が小さいため鼻腔や気管支で捕捉されにくく、細気管支から肺胞まで到達して沈着する。そこで炎症や酸化ストレスを引き起こすほか、一部は肺胞から血中へ移行すると考えられている。その結果、ぜん息・気管支炎などの呼吸器疾患に加え、心筋梗塞などの循環器疾患や肺癌のリスクを高めることが疫学研究で示されている。
- ×c. 粒子の規定は2.5 mg以下である。
「2.5」は粒子の重さではなく大きさ(粒径)を表し、単位はmgではなくμm(マイクロメートル:1μmは1mmの1,000分の1)である。厳密には、粒径2.5μmの粒子を50%の割合で分離できる装置を用いて、より大きい粒子を除いたあとに採取される粒子と定義される。なお、環境基準値は大気1m³当たりの質量濃度で示され、年平均値15μg/m³以下かつ1日平均値35μg/m³以下である。
- ×d. 工場からの排出が規制されている。
PM2.5の環境基準は、環境基本法に基づく行政上の目標値であり、それ自体が工場に排出の制限を課す規制ではない。PM2.5そのものを直接の対象とした排出基準も設けられていない。実際には、大気汚染防止法による工場・事業場のばいじん、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)などの排出規制や、自動車排出ガス規制によって、PM2.5の一次粒子や前駆物質(二次粒子の原料となる物質)が間接的に抑えられている。なお、環境基準は工業専用地域や車道など、一般の人が通常生活していない場所には適用されない。
- ×e. 主成分はディーゼル排気微粒子〈DEP〉である。
PM2.5は発生源や成分ではなく粒子の大きさで定義された概念であり、2.5μm以下であれば由来を問わずPM2.5に含まれる。ディーゼル排気微粒子(DEP:diesel exhaust particles)は重要な発生源の一つだが、ほかに工場のばい煙、ガソリン車の排気、野焼き、土壌粒子、海塩粒子、火山由来の粒子などの一次粒子がある。さらに、SOx、NOx、VOCなどのガスが大気中で光化学反応などを受けて生じる二次粒子(硫酸塩、硝酸塩、有機物など)も大きな割合を占める。DEPだけを主成分とするのは誤りである。
粒子状物質の分類
・浮遊粒子状物質(SPM:suspended particulate matter):大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径10μm以下のもの。日本では1973年に環境基準が設定された(1時間値の1日平均値0.10mg/m³以下、かつ1時間値0.20mg/m³以下)。 ・微小粒子状物質(PM2.5):粒径2.5μm以下。SPMよりさらに小さく、肺の奥まで入りやすいため、健康影響がより強いと考えられ、2009年に環境基準が設定された(年平均値15μg/m³以下、かつ1日平均値35μg/m³以下)。 ・一般に粒子が小さいほど気道の深部に沈着しやすく、10μm前後の粒子は主に鼻腔・咽頭や太い気道で、数μm以下の粒子は細気管支・肺胞まで到達する。
PM2.5の発生と成分
・一次粒子:発生源から直接粒子として排出される(ボイラーや焼却炉のばい煙、自動車排気、粉じん、土壌、海塩など)。 ・二次粒子:ガス状物質(SOx、NOx、VOC、アンモニアなど)が大気中で化学反応を起こして粒子化したもの。 ・国内の発生源に加え、大陸からの越境汚染も寄与する。
健康影響
呼吸器系(ぜん息の悪化、気管支炎、肺機能低下)、循環器系(心筋梗塞、不整脈など)への影響、肺癌リスクの上昇が報告されている。国際がん研究機関(IARC)は、屋外大気汚染および大気中の粒子状物質をヒトに対する発がん性がある物質(グループ1)に分類している。
注意喚起
環境省は、日平均値が70μg/m³を超えると予想される日には、不要不急の外出や屋外での激しい運動をできるだけ減らすよう、都道府県などが住民に注意喚起を行う暫定指針を示している。
関連法規の整理
・環境基本法:環境基準(大気・水質・土壌・騒音)を定める。望ましい目標値であり、違反に対する罰則はない。 ・大気汚染防止法:工場・事業場のばい煙(ばいじん、SOx、NOxなど)や粉じん、VOCの排出規制、自動車排出ガスの許容限度などを定める。
POINT
・PM2.5は大気中に浮遊する粒径2.5μm以下(mgではない)の微小粒子。 ・経気道的に吸入され肺胞まで到達し、呼吸器・循環器疾患や肺癌のリスクとなる。 ・環境基準(環境基本法):年平均15μg/m³以下かつ1日平均35μg/m³以下。 ・大きさで定義されるため成分・発生源は多様(一次粒子+二次粒子)で、DEPだけが主成分ではない。 ・環境基準は目標値であり、PM2.5自体を直接対象とする工場の排出規制はない。
