若年女性の高血圧と「数珠」の腎動脈―線維筋性異形成はカテーテルで治せる
第106回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
高血圧症の若年女性の右腎動脈造影写真を別に示す。左腎動脈造影写真には異常を認めない。 この疾患に関する説明で正しいのはどれか。

- a.高カリウム血症を認める。
- b.粥状硬化症を原因として発症する。
- c.治療として経皮経管血管形成術を行う。
- d.成人の二次性高血圧症の原因疾患として最も多い。
- e.アンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与は禁忌である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
若年女性の高血圧では二次性高血圧を疑い、腎動脈の中部〜遠位部に狭窄と拡張が交互に並ぶ数珠状(string of beads)変化があれば、線維筋性異形成(FMD)による腎血管性高血圧と考えます。病態はRAA系の亢進で、レニン高値の二次性アルドステロン症から低カリウム血症をきたしうる点が、原発性アルドステロン症との違いです。FMDは非動脈硬化性・非炎症性の疾患で、バルーンによる経皮経管腎動脈形成術(PTRA)がよい適応となり、高血圧の治癒も期待できます。ACE阻害薬・ARBが禁忌となるのは両側性腎動脈狭窄と単腎の腎動脈狭窄であり、片側性なら慎重に使用可能です。腎動脈狭窄の原因(粥状硬化・FMD・高安動脈炎)を年齢・性別・狭窄部位で見分ける視点は、治療方針の判断にも直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
高血圧を示す若年女性で、右腎動脈造影にのみ異常がある。造影像では腎動脈の中部から遠位部にかけて、狭窄と瘤状の拡張が交互に連なる「数珠状(string of beads)」の変化がみられる。左腎動脈は正常であり、片側性の腎動脈病変である。
診断へのプロセス
若年者、特に若年女性の高血圧では、本態性高血圧よりも二次性高血圧を積極的に疑う。若年女性で腎動脈狭窄をきたす代表的疾患は、線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia:FMD)と高安動脈炎(大動脈炎症候群)である。高安動脈炎では大動脈やその主要分枝の起始部に狭窄が生じやすく、炎症反応の上昇を伴うことが多い。一方、腎動脈の中部〜遠位部に数珠状変化を示すのはFMDの典型像である。したがって本例は、線維筋性異形成による右腎動脈狭窄が原因の腎血管性高血圧と診断できる。
病態の考え方
腎動脈が狭窄すると、その腎の灌流圧が低下し、傍糸球体装置からレニンが過剰に分泌される。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が亢進し、アンジオテンシンIIによる血管収縮とアルドステロンによるナトリウム貯留で血圧が上昇する(二次性アルドステロン症)。この病態理解が、カリウム値や降圧薬の選択、治療法の選択肢を判断する基盤になる。
選択肢考察
- ×a. 高カリウム血症を認める。
腎血管性高血圧ではRAA系が亢進し、アルドステロン分泌が増える(二次性アルドステロン症)。アルドステロンは集合管でナトリウム再吸収とカリウム排泄を促すため、みられるのは高カリウム血症ではなく低カリウム血症である。血漿レニン活性(PRA)が高値となる点で、レニンが抑制される原発性アルドステロン症と区別できる。
- ×b. 粥状硬化症を原因として発症する。
線維筋性異形成は、動脈壁(主に中膜)の線維性肥厚と平滑筋の異常増生による非動脈硬化性・非炎症性の血管疾患であり、粥状硬化とは関係しない。粥状硬化による腎動脈狭窄は腎血管性高血圧の原因として最も多いが、中高年から高齢の男性、喫煙・糖尿病・脂質異常症などの危険因子をもつ人に多く、狭窄は腎動脈の起始部(入口部)に生じやすい。若年女性で遠位部に数珠状変化を示す本例とは病態が異なる。
- ○c. 治療として経皮経管血管形成術を行う。
線維筋性異形成による腎動脈狭窄は、経皮経管腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA、バルーンで狭窄部を拡張するカテーテル治療)のよい適応である。FMDではバルーン拡張のみで良好な開存が得られることが多く、ステント留置は通常必要としない。若年で罹病期間が短い例では、狭窄の解除により高血圧が治癒または大きく改善することが期待できる。これに対し、粥状硬化性腎動脈狭窄では、血行再建が薬物療法を上回る効果を示さなかった大規模試験があり、適応はより慎重に判断される。
- ×d. 成人の二次性高血圧症の原因疾患として最も多い。
腎血管性高血圧は高血圧患者の約1%程度であり、さらにその原因の多くは粥状硬化性で、FMDはその一部にすぎない。二次性高血圧の原因として頻度が高いのは原発性アルドステロン症(高血圧患者の5〜10%程度と推定される)と腎実質性高血圧(慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症など)である。かつては腎実質性高血圧が最多とされることが多かったが、スクリーニングの普及により原発性アルドステロン症の頻度が高いことが明らかになった。いずれにしても線維筋性異形成は最多ではない。
- ×e. アンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与は禁忌である。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が禁忌となるのは、両側性腎動脈狭窄と、単腎(片腎)での腎動脈狭窄である。これらでは糸球体濾過量(GFR)の維持がアンジオテンシンIIによる輸出細動脈収縮に依存しており、その作用を遮断すると急激な腎機能悪化をきたすためである。本例は左腎動脈が正常な片側性狭窄であり禁忌ではない。RAA系亢進が病態の中心であるため、腎機能とカリウム値を監視しながら用いれば降圧効果が期待できる。
線維筋性異形成(FMD)
中小の筋型動脈に生じる、非動脈硬化性・非炎症性の血管疾患である。若年〜中年の女性に多く、腎動脈に最も多く発生し、次いで頸動脈・椎骨動脈に多い。両側性のこともある。組織学的には中膜型が大部分を占め、血管造影で狭窄と拡張が交互に並ぶ数珠状(string of beads)所見を示す。狭窄は腎動脈の中部〜遠位部に生じやすい。頸動脈病変では脳梗塞や動脈解離の原因となりうる。
腎血管性高血圧の手がかり
・若年発症(特に30歳未満)、または55歳以降の急な発症や増悪 ・治療抵抗性高血圧、急速に進行する高血圧 ・腹部の血管雑音(bruit) ・ACE阻害薬やARB開始後の急激な腎機能悪化 ・左右の腎サイズの差、低カリウム血症、血漿レニン活性の高値 ・原因不明の反復する肺水腫(flash pulmonary edema) 検査は腎動脈ドプラ超音波、CT血管造影、MR血管造影でスクリーニングし、確定診断・治療には血管造影を行う。分腎静脈レニン比(患側のレニン分泌亢進)やカプトプリル負荷試験も参考となる。
腎動脈狭窄の原因の比較
・粥状硬化性:高齢男性、動脈硬化の危険因子、腎動脈起始部の狭窄。 ・線維筋性異形成:若年女性、腎動脈中部〜遠位部の数珠状変化。PTRAの効果が高い。 ・高安動脈炎:若年女性、大動脈とその分枝起始部の狭窄、炎症反応上昇、脈拍の左右差。
POINT
・若年女性の高血圧で、腎動脈中部〜遠位部に数珠状の狭窄と拡張があれば線維筋性異形成(FMD)による腎血管性高血圧。 ・病態はRAA系の亢進であり、二次性アルドステロン症から低カリウム血症をきたす(レニン高値)。 ・FMDの治療はバルーンによる経皮経管腎動脈形成術(PTRA)が第一選択で、高血圧の治癒も期待できる。 ・ACE阻害薬・ARBが禁忌となるのは両側性腎動脈狭窄と単腎の腎動脈狭窄。片側性なら使用可能。 ・腎動脈狭窄の原因として最も多いのは粥状硬化(高齢男性、起始部)。
