菌そのものより「体の反応」が臓器を壊す―エンドトキシンとTNFで読み解く敗血症
第106回医師国家試験 G問題 第38問
国試問題にチャレンジ
敗血症による多臓器機能障害の発生に関与するのはどれか。2つ選べ。
- a.腫瘍壊死因子〈TNF〉
- b.エンドトキシン
- c.ハプトグロビン
- d.クリオグロブリン
- e.von Willebrand因子
対話形式の解説
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ドクターまとめ
敗血症は感染に対する宿主反応の調節不全によって生命を脅かす臓器障害が生じた状態であり、臓器障害の主因は病原体成分に対する過剰な炎症反応です。グラム陰性菌のエンドトキシン(リポ多糖、本体はリピドA)がマクロファージのTLR4に認識され、TNF-αをはじめIL-1、IL-6などのサイトカインが大量に産生されると、内皮障害、血管透過性亢進、NOによる血圧低下、DICが生じ、ARDSや急性腎障害などの多臓器機能障害に至ります。ハプトグロビンは溶血の指標、クリオグロブリンは寒冷で沈殿する免疫グロブリン、von Willebrand因子は一次止血に関わる因子であり、多臓器障害の主たる原因物質ではありません。「引き金」と「伝達物質」の流れを理解しておくと、早期の抗菌薬投与や循環管理といった敗血症診療の意味も自然に結びつきます。
解答・解説
正解はa, bです
敗血症(sepsis)は、現在の国際定義(Sepsis-3、2016年)では「感染に対する宿主の反応が制御不能となり、生命を脅かす臓器障害が生じた状態」とされる。つまり、臓器障害の主因は病原体そのものよりも、病原体の成分に反応して宿主が過剰に起こす炎症反応にある。 典型的な流れは次のとおりである。 1. 病原体由来の分子(病原体関連分子パターン:PAMPs)が血中に入る。代表はグラム陰性桿菌の外膜成分であるエンドトキシン(リポ多糖:LPS)である。 2. マクロファージや単球が、Toll様受容体4(TLR4)などのパターン認識受容体でこれを感知する。 3. 転写因子NF-κBが活性化され、TNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが大量に産生される(サイトカインストーム)。 4. サイトカインが血管内皮細胞を活性化・傷害し、血管透過性の亢進、一酸化窒素(NO)過剰による血管拡張と血圧低下、凝固系の活性化による播種性血管内凝固(DIC)と微小血栓形成、細胞のアポトーシスやミトコンドリア機能障害を引き起こす。 5. 組織の低灌流と細胞障害が重なり、肺(ARDS)、腎(急性腎障害)、肝、循環、中枢神経、凝固系などが同時に障害される。これが多臓器機能障害症候群(MODS)である。 本問では、この連鎖の「引き金」となる物質と「中心的な伝達物質」を選べばよい。前者がエンドトキシン、後者が腫瘍壊死因子(TNF)である。
選択肢考察
- ○a. 腫瘍壊死因子〈TNF〉
TNF-αは主に活性化マクロファージ・単球が産生する代表的な炎症性サイトカインで、エンドトキシンの刺激後、最も早い段階で血中に増加する。発熱、血管内皮の活性化(接着分子発現による好中球の接着・浸潤)、血管透過性の亢進、NO産生を介した血管拡張と血圧低下、組織因子発現による凝固亢進(DICの誘因)をもたらす。さらにIL-1やIL-6など他のサイトカインの産生を誘導して炎症を増幅する。TNF受容体はFasと同じデスレセプターファミリーに属し、標的細胞にアポトーシスを誘導する。動物にTNFを投与するとエンドトキシンショックに似た病態が再現されることから、敗血症性ショックと多臓器機能障害の中心的メディエーターとされる。したがって正しい。
- ○b. エンドトキシン
エンドトキシン(内毒素)はグラム陰性菌の外膜を構成するリポ多糖(LPS)で、毒性の本体は脂質部分のリピドAである。菌が増殖・破壊されると(抗菌薬による溶菌でも)血中に遊離する。血中ではLPS結合蛋白(LBP)に運ばれ、マクロファージ表面のCD14とTLR4に認識されて、TNF-αをはじめとする炎症性サイトカインの大量産生を引き起こす。また補体系や凝固系を直接活性化する作用もある。その結果、発熱、血圧低下(エンドトキシンショック)、DIC、多臓器機能障害が生じる。敗血症の病態の引き金となる物質であり、正しい。
- ×c. ハプトグロビン
ハプトグロビンは肝臓で合成される血漿蛋白で、溶血により血中に遊離したヘモグロビンと強く結合する。結合体は肝臓などの網内系で速やかに処理されるため、遊離ヘモグロビンによる腎障害や酸化障害を防ぎ、ヘモグロビン(鉄)が尿中へ失われるのを防ぐ。溶血があると消費されて血中濃度が低下するので、溶血性貧血の診断指標として用いられる。一方で急性期蛋白でもあり、炎症では増加しうる。いずれにしても多臓器機能障害を起こす側の物質ではなく、誤りである。
- ×d. クリオグロブリン
クリオグロブリンは、低温(おおむね4℃前後)で沈殿・ゲル化し、37℃に温めると再び溶ける免疫グロブリンである。多発性骨髄腫やマクログロブリン血症などの単クローン性免疫グロブリンによるもの(I型)と、C型肝炎ウイルス感染や膠原病に伴う混合型(II型・III型)に分類される。寒冷時の血流障害によるRaynaud現象や皮膚潰瘍、免疫複合体の沈着による血管炎(紫斑、関節痛、膜性増殖性糸球体腎炎、末梢神経障害)を起こす。敗血症による多臓器機能障害の発生機序とは関係せず、誤りである。
- ×e. von Willebrand因子
von Willebrand因子(VWF)は血管内皮細胞と巨核球で産生される巨大な糖蛋白である。血管が傷ついたとき、露出した内皮下のコラーゲンと血小板表面の糖蛋白Ib(GPIb)を橋渡しして血小板を粘着させる(一次止血)。また血中で凝固第VIII因子と結合し、その分解を防いで安定化させる。先天的に量や機能が低下するとvon Willebrand病となり、鼻出血や過多月経など粘膜出血を主体とする出血傾向を示す。敗血症では内皮障害を反映して血中濃度が上昇することはあるが、多臓器機能障害を引き起こす主要な因子として位置づけられるものではない。したがって誤りである。
敗血症の定義と診断(Sepsis-3)
・敗血症:感染に対する宿主反応の調節不全により、生命を脅かす臓器障害が生じた状態。臓器障害はSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアが感染前から2点以上上昇したことで判断する。 ・敗血症性ショック:十分な輸液を行っても平均動脈圧65mmHg以上を保つために血管収縮薬を必要とし、かつ血中乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超える状態。 ・ICU外でのスクリーニングにはquick SOFA(qSOFA)が用いられてきた。呼吸数22回/分以上、意識変容、収縮期血圧100mmHg以下のうち2項目以上を満たすものを陽性とする。 ・かつては全身性炎症反応症候群(SIRS)の基準を満たす感染症を敗血症としていたが、臓器障害を重視する現在の定義に改められた。
エンドトキシンとエキソトキシン
・エンドトキシン:グラム陰性菌の外膜のLPS。熱に比較的強い。菌体の破壊で遊離し、サイトカインを介して非特異的な全身反応(発熱、ショック、DIC)を起こす。 ・エキソトキシン(外毒素):菌が分泌する蛋白毒素。ジフテリア毒素、破傷風毒素、コレラ毒素など、作用は毒素ごとに特異的である。黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌のスーパー抗原は、多数のT細胞を非特異的に活性化してサイトカインストームとショック(毒素性ショック症候群)を起こす。
敗血症で臓器障害が起こる主な機序
・血管内皮障害と血管透過性亢進による浮腫・循環血漿量の減少 ・NO過剰産生による末梢血管拡張(温かいショック:warm shock) ・凝固亢進と線溶抑制によるDIC、微小血栓による臓器虚血 ・細胞のアポトーシス、ミトコンドリアの酸素利用障害 ・主な臓器障害:ARDS、急性腎障害、肝障害・黄疸、意識障害(敗血症性脳症)、血小板減少
敗血症の初期治療
迅速な血液培養の採取と、1時間以内を目標とした広域抗菌薬の開始、感染巣のコントロール(ドレナージなど)、初期の輸液(晶質液)、平均動脈圧65mmHg以上を目標とした血管収縮薬(第一選択はノルアドレナリン)を柱とする。
POINT
・敗血症の臓器障害は、病原体成分に対する宿主の過剰な炎症反応によって生じる。 ・エンドトキシン(LPS、本体はリピドA)→ マクロファージのTLR4 → TNF-α・IL-1・IL-6 → 内皮障害・DIC・ショック → 多臓器機能障害、という流れを押さえる。 ・TNF-αは敗血症性ショックの中心的メディエーターである。 ・ハプトグロビンは溶血の指標(溶血で低下)、クリオグロブリンは寒冷で沈殿する免疫グロブリン、VWFは一次止血と第VIII因子の安定化に関わる。 ・現在の敗血症の定義はSepsis-3(感染+SOFA 2点以上の上昇)である。
