走れる、話せる、でも軽い―1歳6か月健診で見逃してはいけない体重増加不良
第106回医師国家試験 E問題 第46問
国試問題にチャレンジ
1歳6か月の男児。健康診査のために来院した。在胎39週,身長47.8 cm,体重2,700 gで出生した。現在は身長80.0 cm,体重7.9 kg。「ごみポイして」などの言語理解は可能だが,発語は「ワンワン」,「ママ」,「ブーブー」の3語のみである。走ることや手を引かれて階段を昇ることは可能だが,スキップはできない。食事は1日3回で,食事内容は両親とほぼ同じであり,牛乳を1日250 mL飲んでいる。 この児の成長・発達の評価として正しいのはどれか。
- a.低身長である。
- b.離乳が完成していない。
- c.運動発達が遅れている。
- d.言語発達が遅れている。
- e.体重増加が不良である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
1歳6か月児の評価では、身長・体重・栄養・運動・言語を月齢の目安と一つずつ照らし合わせることが基本です。体重は1歳で出生時の約3倍、身長は1歳で約1.5倍が目安で、身長が年齢相当なのに体重が1歳時の目安にも届かず、カウプ指数がやせの範囲にあれば体重増加不良と評価します。一方、走る・手を引かれて階段を昇る、有意語を数語話し簡単な指示を理解する、大人とほぼ同じ食事をとるといった状態は月齢相当であり、スキップ(5歳ごろ)ができないことは遅れではありません。体重増加不良を見つけたら成長曲線の推移を確認し、摂取不足、吸収障害、消費亢進、内分泌・腎疾患などの器質的原因に加え、ネグレクトを含む養育環境にも目を向ける必要があります。発達のマイルストーンと発育の目安を正確に押さえることは、健診で子どもの異変に気づき、適切な支援につなげるための土台となります。
解答・解説
正解はeです
問題の構造
1歳6か月児健康診査(1歳6か月健診)で得られた情報を、身体発育(身長・体重)、栄養(離乳)、運動発達、言語発達の各側面から月齢相当と比べ、異常を拾い上げる問題である。一つひとつ標準と照らし合わせていく。
身体発育
・出生時:在胎39週の正期産、身長47.8 cm・体重2,700 gで、ほぼ標準的な出生体格である(低出生体重児の基準は2,500 g未満)。 ・身長:現在80.0 cm。身長の目安は1歳で出生時の約1.5倍(約75 cm)、4歳で約2倍(約100 cm)であり、1歳6か月男児の平均は約80 cm強である。本児の身長は出生時の約1.7倍で、年齢相当の範囲内である。 ・体重:現在7.9 kg。体重の目安は生後3〜4か月で出生時の約2倍、1歳で約3倍(約9 kg)、1歳6か月男児の平均は約11 kg前後である。本児は出生時の約2.9倍にとどまり、1歳時点の目安すら下回っている。乳幼児身体発育曲線上でも3パーセンタイルを下回る水準である。 ・体格指数:乳幼児の栄養評価に用いるカウプ指数〔体重(g)÷身長(cm)² ×10〕を計算すると、7,900÷6,400×10 ≒ 12.3となる。幼児期のおおよその正常範囲は15〜18前後で、13未満はやせと評価されるため、身長に比して体重が明らかに少ない。
栄養・発達
・食事は1日3回で大人とほぼ同じ内容、牛乳も飲んでおり、離乳は完了している。摂取量や内容の偏り、吸収障害、慢性疾患、養育環境(ネグレクト)など、体重増加不良の原因を今後検索する必要がある。 ・運動:走る、手を引かれて階段を昇ることが可能で、1歳6か月として十分である。スキップは5歳ごろ獲得する動作で、できなくて当然である。 ・言語:簡単な指示(「ごみポイして」)を理解し、意味のある単語を3語話せる。1歳6か月健診では「意味のある単語をいくつか話す」ことが確認項目であり、正常範囲である。 以上から、異常と評価されるのは体重増加不良のみである。
選択肢考察
- ×a. 低身長である。
身長80.0 cmは出生時47.8 cmの約1.7倍であり、1歳6か月男児の平均(約80 cm強)とほぼ同等で、正常範囲にある。低身長は一般に同性・同年齢の平均から−2 SD(標準偏差)以下と定義されるが、本児はそれに当たらない。身長が保たれて体重だけが少ないのは、慢性的な栄養不足の初期に体重がまず減り、長期化すると身長の伸びも鈍る、という経過に合致する。
- ×b. 離乳が完成していない。
離乳の完了とは、形のある食物をかみつぶせるようになり、エネルギーや栄養素の大部分を母乳・育児用ミルク以外の食物から摂取できる状態をいい、目安は生後12〜18か月ごろである。本児は1日3回、両親とほぼ同じ内容の食事をとり、牛乳も飲んでいるので離乳は完了している。
- ×c. 運動発達が遅れている。
粗大運動の目安は、ひとり歩きが1歳前後(1歳6か月までにほぼ全員)、走る・手を引かれて階段を昇るが1歳6か月〜2歳ごろ、両足跳びが2歳、片足立ちが3歳ごろ、スキップが5歳ごろである。本児は走ることも手を引かれての階段昇りもでき、月齢相当である。スキップができないのは5歳前の児としては当然で、遅れを意味しない。
- ×d. 言語発達が遅れている。
言語発達の目安は、1歳前後で意味のある単語(初語)が出始め、1歳6か月で数語の有意語、2歳で2語文(「ママ きた」など)である。本児は「ワンワン」「ママ」「ブーブー」の有意語3語を話し、簡単な指示も理解しているので、正常範囲である。1歳6か月健診で有意語が全くない場合や、言葉の理解が乏しい場合には経過観察や精査を考える。
- ○e. 体重増加が不良である。
体重は1歳で出生時の約3倍(約9 kg)になるのが目安で、1歳6か月男児の平均は約11 kg前後である。本児は7.9 kgで出生時(2,700 g)の約2.9倍にとどまり、1歳時の目安にも届かず、発育曲線の3パーセンタイル未満に相当する。カウプ指数も約12.3でやせの範囲にある。身長が正常なのに体重だけが大きく下回っていることから、体重増加不良と評価する。今後は食事量・内容の詳細な聴取、成長曲線の推移の確認、消化吸収障害・内分泌疾患・心疾患・腎疾患などの器質的疾患や、養育環境の問題(ネグレクトなど)の評価が必要である。
乳幼児の身体発育の目安
・体重:出生時約3 kg → 3〜4か月で約2倍(約6 kg)→ 1歳で約3倍(約9 kg)→ 2歳半で約4倍 → 4歳で約5倍。 ・身長:出生時約50 cm → 1歳で約1.5倍(約75 cm)→ 4歳で約2倍(約100 cm)→ 12歳ごろで約3倍。 ・頭囲:出生時約33 cm → 1歳で約45 cm。胸囲は1歳ごろに頭囲とほぼ等しくなる。
カウプ指数
体重(g)÷身長(cm)²×10(=体重kg÷身長m²と同じ値)。乳幼児期の栄養評価に用い、おおむね15〜18前後を普通、13未満をやせ、20以上を太りすぎの目安とする(年齢により基準はやや異なる)。学童期にはローレル指数、成人ではBMIを用いる。
運動発達の目安(粗大運動)
首すわり3〜4か月、寝返り5〜6か月、おすわり7か月、はいはい8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、ひとり歩き1歳〜1歳3か月、走る1歳6か月〜2歳、両足跳び2歳、片足立ち3歳、ケンケン4歳、スキップ5歳。
微細運動の目安
4か月で物を握って遊ぶ、6か月で手を伸ばしてつかみ持ち替える、9〜10か月で母指と示指でつまむ、1歳6か月で積み木を2〜3個積む・なぐり書き、3歳で丸を描く、4歳で十字、5歳で四角、6歳で三角を描く。
言語発達の目安
喃語6か月ごろ、初語1歳ごろ、有意語数語1歳6か月、2語文2歳、3語文・自分の名前を言う3歳。
1歳6か月児健康診査
母子保健法に基づき市町村が実施する。身体発育・栄養状態、歩行、有意語、指差し、積み木などの確認に加え、う歯、予防接種状況、自閉スペクトラム症を含む発達の問題、養育環境(虐待)のスクリーニングも重要な目的である。
体重増加不良(failure to thrive)
原因は、摂取不足(食事量不足、養育上の問題)、吸収障害(セリアック病、嚢胞性線維症など)、消費亢進(先天性心疾患、慢性感染症、甲状腺機能亢進症など)、代謝・内分泌・腎疾患など多岐にわたる。成長曲線の推移を追い、まず体重から、次に身長が低下するパターンは栄養性を示唆する。
POINT
・体重は1歳で出生時の約3倍、身長は1歳で約1.5倍が目安。 ・1歳6か月で7.9 kgは明らかな体重増加不良(カウプ指数約12でやせ)。 ・1歳6か月の発達目安:ひとり歩きは完成、走る・手を引かれて階段を昇る、有意語数語、積み木2〜3個。 ・スキップは5歳、片足立ちは3歳、2語文は2歳。 ・大人と同じ食事がとれていれば離乳は完了(目安12〜18か月)。
