むくむ胎児の正体は「貧血」―パルボウイルスB19が胎児水腫を起こすしくみ
第106回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
胎児水腫の原因となるのはどれか。
- a.クラミジア
- b.風疹ウイルス
- c.パルボウイルスB19
- d.単純ヘルペスウイルス
- e.水痘・帯状疱疹ウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児水腫は胎児の皮下や体腔のうち2か所以上に液体が貯留した状態で、血液型不適合による免疫性と、それ以外の非免疫性に分けられ、現在は非免疫性が大半です。感染症による非免疫性胎児水腫の代表はパルボウイルスB19で、P抗原を介して赤芽球系前駆細胞を破壊し、胎児に重症貧血、高拍出性心不全を引き起こします。胎児貧血は中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)で評価し、重症例では胎児輸血が検討されます。風疹は先天性風疹症候群、単純ヘルペスやクラミジアは主に産道感染による新生児疾患、水痘は先天性水痘症候群や重症新生児水痘と、病原体ごとの特徴的な障害を区別しておくことが大切です。「胎児水腫=胎児の重症貧血」という機序で理解すれば、小児の伝染性紅斑や溶血性貧血患者の無形成発作まで一貫して説明できます。
解答・解説
正解はcです
本問は、母子感染(垂直感染)を起こす病原体ごとに、胎児・新生児にどのような障害をもたらすかを整理できているかを問う問題である。 胎児水腫とは、胎児の体腔や皮下に液体が異常に貯留した状態で、一般に皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液のうち2か所以上に貯留を認めるものをいう。原因により、母児間の血液型不適合(Rh不適合など)によって母体の抗体が胎児赤血球を破壊する「免疫性胎児水腫」と、それ以外の原因による「非免疫性胎児水腫」に分けられる。現在は抗D免疫グロブリンの普及により免疫性は減少し、非免疫性が大半を占める。 非免疫性胎児水腫の原因は多彩で、心奇形や不整脈などの心血管異常、染色体異常(Turner症候群、21トリソミーなど)、α-サラセミアなどの血液疾患、双胎間輸血症候群、胸郭内の腫瘤、そして感染症がある。感染症の中で最も代表的なのがパルボウイルスB19である。 パルボウイルスB19は赤血球系の前駆細胞に感染してこれを破壊し、赤血球の産生を一時的に停止させる。胎児は赤血球の寿命が短く、造血も急速に行われているため、産生停止の影響を強く受けて重度の貧血に陥る。貧血を代償するために心拍出量が増え(高拍出性心不全)、さらにウイルスによる心筋炎や肝機能障害による低アルブミン血症も加わって、体液が貯留し胎児水腫となる。 したがって、「胎児水腫=胎児の重症貧血」を結びつけ、赤血球前駆細胞を標的とする病原体を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. クラミジア
Chlamydia trachomatisは性感染症として子宮頸管炎や卵管炎を起こし、卵管性不妊や異所性妊娠の原因となる。妊娠中の感染は絨毛膜羊膜炎、前期破水、早産に関与するほか、分娩時に産道で感染した新生児に封入体結膜炎や肺炎(生後数週で発症する無熱性の肺炎)を起こす。Chlamydia psittaciはオウム病の原因である。いずれも胎児の貧血を起こす病原体ではなく、胎児水腫の原因としては知られていない。
- ×b. 風疹ウイルス
妊娠初期(特に妊娠12週まで)に母体が風疹に初感染すると、胎児に先天性風疹症候群を生じうる。三主徴は先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、白内障(緑内障を伴うこともある)、感音難聴である。そのほか胎児発育不全、血小板減少、肝脾腫、網膜症などがみられるが、胎児水腫の原因としては典型的ではない。小児・成人の風疹では、まれに急性脳炎や血小板減少性紫斑病を合併する。予防には麻疹風疹混合(MR)ワクチンを用いる。生ワクチンのため妊娠中は接種できず、接種後2か月間は避妊が勧められる。
- ○c. パルボウイルスB19
パルボウイルスB19は赤血球表面のP抗原を受容体として赤芽球系前駆細胞に感染し、これを破壊して赤血球の産生を一時的に止める。胎児では赤血球の寿命が短いため重症貧血となり、高拍出性心不全、ウイルス性心筋炎、低蛋白血症などを介して非免疫性胎児水腫をきたす。胎児への影響は妊娠20週未満での母体感染で特に問題となり、胎児死亡の原因にもなる。管理では、超音波で胎児中大脳動脈の最高血流速度(MCA-PSV)を測定して胎児貧血を評価し、重症貧血では胎児輸血を行う。小児では伝染性紅斑(両頬の蝶形紅斑から「リンゴ病」と呼ばれる)を起こし、成人では免疫複合体による関節炎・関節痛が目立つ。遺伝性球状赤血球症など溶血性貧血の患者では赤芽球癆による無形成発作(aplastic crisis)を起こす。
- ×d. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)の母子感染は主に分娩時の産道感染で起こり、新生児ヘルペス(皮膚・眼・口の限局型、中枢神経型、全身型)を生じる。全身型は致死率が高い。性器ヘルペスの病変が分娩時にある場合は帝王切開が選択される。小児・成人ではヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、Kaposi水痘様発疹症、単純ヘルペス脳炎(側頭葉・前頭葉に病変)などを起こす。胎児の貧血を起こすウイルスではなく、胎児水腫の原因としては典型的ではない。
- ×e. 水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、初感染で水痘を起こし、その後知覚神経節に潜伏したウイルスが再活性化すると帯状疱疹を起こす。空気感染するのが特徴である。妊娠20週頃までの母体水痘では、まれに先天性水痘症候群(瘢痕性皮膚病変、四肢低形成、眼病変、小頭症など)を生じる。また分娩直前(分娩5日前〜分娩2日後)に母体が発症すると、胎盤経由の移行抗体が不十分なまま新生児がウイルスにさらされ、重症の新生児水痘となる。胎児水腫の原因としては典型的ではない。予防として水痘には生ワクチン、帯状疱疹には生ワクチンと組換え(不活化)ワクチンがある。
胎児水腫の分類と主な原因
免疫性胎児水腫: 母児間血液型不適合(Rh(D)不適合が代表)。母体のIgG抗体が胎盤を通過し胎児赤血球を溶血させ、重症貧血となる。抗D免疫グロブリンによる予防で減少した。 非免疫性胎児水腫: 心血管異常(先天性心疾患、頻脈性・徐脈性不整脈)、染色体異常(Turner症候群、21トリソミー、18トリソミーなど)、血液疾患(α-サラセミア〈Hb Bart's〉、胎児母体間輸血)、双胎間輸血症候群、胸郭内病変(先天性嚢胞性腺腫様奇形、横隔膜ヘルニア)、リンパ管の異常、感染症(パルボウイルスB19が代表、ほかにサイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒など)。原因不明のものも少なくない。
主な母子感染と胎児・新生児への影響
パルボウイルスB19: 胎児貧血、胎児水腫、胎児死亡。 風疹ウイルス: 先天性風疹症候群(心疾患、白内障、感音難聴)。 サイトメガロウイルス: 先天性CMV感染症(小頭症、脳室周囲石灰化、感音難聴、肝脾腫、胎児発育不全など)。胎児水腫の原因ともなる。 トキソプラズマ: 水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎。 梅毒: 先天梅毒(肝脾腫、骨軟骨炎、皮疹、胎児水腫)。 単純ヘルペスウイルス: 新生児ヘルペス(主に産道感染)。 水痘・帯状疱疹ウイルス: 先天性水痘症候群、周産期の重症新生児水痘。 クラミジア: 新生児結膜炎・肺炎(産道感染)、早産。 B群溶血性レンサ球菌(GBS): 新生児の敗血症・髄膜炎(産道感染)。
パルボウイルスB19感染の特徴
伝染性紅斑では、発疹が出る頃にはすでに感染力がほぼなくなっているため、流行の把握や予防が難しい。ワクチンや特異的治療薬はない。妊婦が感染した場合は、胎児への感染を想定して超音波で胎児水腫や胎児貧血の出現を経過観察する。
POINT
・胎児水腫は免疫性(血液型不適合)と非免疫性に分けられ、現在は非免疫性が多い。 ・感染症による非免疫性胎児水腫の代表はパルボウイルスB19である。 ・パルボウイルスB19は赤芽球系前駆細胞(P抗原)を標的とし、胎児では重症貧血→高拍出性心不全→胎児水腫をきたす。 ・胎児貧血の評価は胎児中大脳動脈の最高血流速度(MCA-PSV)、治療は胎児輸血。 ・同じウイルスが小児では伝染性紅斑、成人では関節炎、溶血性貧血患者では無形成発作を起こす。
