毎年春にやってくる鼻の三重苦―スギ花粉症の薬は「どの症状をどのメディエーターが起こすか」で選ぶ
第105回医師国家試験 I問題 第76問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。くしゃみ,鼻汁および鼻閉を主訴に来院した。3年前から,毎年2月から4月にかけて同様の症状を繰り返していた。症状は外出時に増強し流涙を伴う。体温36.4℃。眼球結膜は軽度発赤している。咽頭扁桃に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見:赤血球410万,Hb 14.0 g/dL,Ht 39%,白血球4,800(桿状核好中球2%,分葉核好中球41%,好酸球13%,好塩基球2%,単球5%,リンパ球37%),血小板21万。免疫学所見:CRP 0.3 mg/dL,IgE 260 IU/mL(基準250未満),IgE RASTスコア:スギ3(基準0)。 治療薬として適切なのはどれか。3つ選べ。
- a.β刺激薬
- b.抗コリン薬
- c.抗ヒスタミン薬
- d.副腎皮質ステロイド点鼻薬
- e.ロイコトリエン受容体拮抗薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
毎年同じ季節に繰り返すくしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉に、結膜症状、好酸球増多、スギ特異的IgE陽性がそろえばスギ花粉症と診断できます。花粉症はⅠ型アレルギーで、ヒスタミンがくしゃみ・鼻汁・かゆみを、ロイコトリエンなどが粘膜浮腫による鼻閉を起こすため、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、そして三主徴すべてに効き全身性副作用の少ない鼻噴霧用ステロイドが治療の柱となります。β刺激薬は気管支拡張薬で鼻炎には用いず、鼻閉に一時的に使う血管収縮薬はα刺激薬である点、抗コリン薬は鼻汁以外に効きにくく副作用も多い点に注意が必要です。抗原回避や初期療法、根本治療としての舌下免疫療法まで含めて理解しておくと、日常診療で非常に多い花粉症の患者さんに適切な治療を提案できるようになります。
解答・解説
正解はc, d, eです
所見の整理
・32歳女性。主訴はくしゃみ、鼻汁(水様性)、鼻閉である。これはアレルギー性鼻炎の三主徴にあたる。 ・3年前から毎年2月〜4月に同じ症状を繰り返している。この時期はスギ花粉が飛ぶ季節と重なる。 ・外出して花粉を浴びると症状が強くなり、流涙を伴う。眼球結膜も軽く発赤しており、アレルギー性結膜炎を合併していると考えられる。 ・体温は36.4℃で平熱、CRP(C反応性蛋白)0.3 mg/dLとほぼ正常であり、咽頭にも異常がない。感染症(かぜ症候群、急性副鼻腔炎)らしさはない。 ・末梢血の好酸球は13%(白血球4,800のうち約620/μL)に増えており、アレルギー性の病態に合う。 ・総IgEは260 IU/mLと軽く上昇し、スギに対する特異的IgE(RAST法)がスコア3と陽性である。
診断へのプロセス
症状が特定の季節に限って毎年繰り返されること、発熱や炎症反応がないこと、結膜症状を伴うこと、スギ特異的IgEが陽性であることから、スギ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎+アレルギー性結膜炎)と診断できる。 かぜ症候群との違いは次の点にある。かぜは経過が1〜2週間程度で自然に治まり、咽頭痛や発熱を伴い、鼻汁が次第に粘性・膿性に変わる。これに対し花粉症は飛散期の間ずっと続き、発熱がなく、眼のかゆみを伴うことが多い。
設問の考え方
花粉症はⅠ型(即時型)アレルギーである。鼻粘膜の肥満細胞の表面にはスギ特異的IgEが結合しており、そこへ花粉抗原が結合すると、肥満細胞から化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出される。主な化学伝達物質はヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンD2、トロンボキサンA2である。 ・ヒスタミンは、知覚神経を刺激してくしゃみを起こし、さらに鼻腺の分泌を促して鼻汁を起こす。 ・ロイコトリエンなどは、血管の拡張と透過性亢進によって粘膜を腫らし、鼻閉を起こす。 ・その後、好酸球などが集まる遅発相反応が起こり、特に鼻閉が長引く。 治療薬は、これらの過程のどこを抑えるかで選ぶ。くしゃみ・鼻汁には抗ヒスタミン薬、鼻閉にはロイコトリエン受容体拮抗薬、全体の炎症には鼻噴霧用ステロイドが中心となる。
選択肢考察
- ×a. β刺激薬
β2刺激薬は気管支平滑筋を弛緩させて気道を広げる薬である。気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)に用いられる。鼻粘膜の腫れや分泌を抑える作用はなく、アレルギー性鼻炎の治療には使わない。なお鼻閉に対して一時的に用いられるのは、血管を収縮させるα刺激薬(α交感神経刺激薬)の点鼻薬である。α刺激薬も長く連用すると反跳性の鼻閉(薬剤性鼻炎)を起こすため、短期間に限って使う。β刺激薬と取り違えないよう注意する。
- ×b. 抗コリン薬
抗コリン薬は副交感神経による鼻腺の分泌を抑えるため、理論上は鼻汁を減らす効果がある。しかし、くしゃみや鼻閉にはほとんど効かない。内服では口渇、便秘、排尿障害、眼圧上昇(閉塞隅角緑内障の悪化)などの全身性副作用が問題になる。点鼻薬も作用時間が短く、使いにくい。このため花粉症の標準的な治療薬とはいえず、本例の治療薬としては適切でない。
- ○c. 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)は、ヒスタミンが受容体に結合するのを防ぐ。これにより、くしゃみ、水様性鼻汁、眼のかゆみを速やかに抑える。花粉症で最も広く使われる基本的な薬である。一方、鼻閉への効果はやや弱い。現在は、中枢に移行しにくく眠気や抗コリン作用の少ない第2世代抗ヒスタミン薬が主に用いられる(フェキソフェナジン、ロラタジン、ビラスチンなど)。第1世代は眠気や口渇、緑内障・前立腺肥大症の悪化に注意が必要である。点眼薬の抗ヒスタミン薬は結膜症状の軽減にも有用である。
- ○d. 副腎皮質ステロイド点鼻薬
鼻噴霧用ステロイドは、鼻粘膜に直接作用する。化学伝達物質やサイトカインの産生を抑え、肥満細胞・好酸球の浸潤を減らして、アレルギー炎症そのものを鎮める。くしゃみ、鼻汁、鼻閉のすべてに効き、効果は強い。現在の製剤(フルチカゾン、モメタゾンなど)は全身への吸収がごくわずかで、全身性の副作用はほとんどない。効果が出るまで1〜2日かかるため、飛散期は毎日続けて使う。中等症以上の花粉症や鼻閉の強い例で特に重要な薬である。なお、ステロイドの全身投与(内服・注射)は副作用のため原則として避け、使う場合も重症例にごく短期間に限る。
- ○e. ロイコトリエン受容体拮抗薬
システイニルロイコトリエンは、鼻粘膜の血管を拡張させ透過性を高めて浮腫を起こし、好酸球を呼び寄せる。これが鼻閉の主要な原因である。ロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカスト、プランルカストなど)はこの作用を遮り、特に鼻閉を改善する。本例は鼻閉も主訴に含むため適している。抗ヒスタミン薬と組み合わせて使うことも多い。気管支喘息を合併する患者では、喘息のコントロールにも役立つ。
アレルギー性鼻炎の分類と病型
・通年性(ダニ、ハウスダスト、ペットなど)と季節性(花粉症:スギ、ヒノキ、イネ科、ブタクサなど)に分けられる。 ・症状によって「くしゃみ・鼻漏型」と「鼻閉型」、両者の「充全型」に分類し、重症度と病型に応じて薬を選ぶ。 ・スギ花粉はおおむね2〜4月、ヒノキ花粉は3〜5月に飛ぶ。わが国ではスギ花粉症の有病率が非常に高い。
検査
・鼻汁好酸球検査:陽性ならアレルギー性鼻炎を示唆する。 ・鼻鏡所見:下鼻甲介粘膜が蒼白で浮腫状になり、水様性の分泌物がみられる。 ・血清総IgE・特異的IgE(RAST等)、皮膚テスト(スクラッチ・プリックテスト)、鼻誘発テストで原因抗原を特定する。
治療の全体像
①抗原の除去・回避:マスク・眼鏡の着用、帰宅時に衣服の花粉を払う、洗顔・うがい、飛散の多い日は外出を控える。 ②薬物療法: ・第2世代抗ヒスタミン薬 ・ロイコトリエン受容体拮抗薬 ・プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬 ・ケミカルメディエーター遊離抑制薬 ・Th2サイトカイン阻害薬 ・鼻噴霧用ステロイド ・点眼薬(抗ヒスタミン薬、遊離抑制薬) スギ花粉症では、飛散開始前または症状が少し出た時点から使い始める「初期療法」が有効である。重症例では、抗IgE抗体(オマリズマブ)が使われることもある。 ③アレルゲン免疫療法:原因抗原を少量から長期間投与して体質の改善を目指す。唯一、根本的な治癒を期待できる治療である。スギ花粉症では舌下免疫療法が保険適用されている。開始は花粉の飛散していない時期に限られ、3〜5年継続する。 ④手術療法:鼻閉が強く薬が効かない例では、下鼻甲介粘膜のレーザー焼灼、粘膜下下鼻甲介切除術、後鼻神経切断術などを行う。
Ⅰ型アレルギーの化学伝達物質と症状
・ヒスタミン → くしゃみ、鼻汁、かゆみ ・ロイコトリエン、トロンボキサンA2、PGD2 → 鼻閉(粘膜浮腫)、好酸球の誘導
POINT
・季節性の反復(2〜4月)+くしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉+結膜炎+好酸球増多+スギ特異的IgE陽性 → スギ花粉症。 ・くしゃみ・鼻汁には抗ヒスタミン薬(第2世代)。 ・鼻閉にはロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻噴霧用ステロイド。 ・鼻噴霧用ステロイドは三主徴すべてに有効で、全身性副作用が少ない。 ・β刺激薬は気管支拡張薬であり、鼻炎には用いない。鼻閉に一時的に使う血管収縮薬はα刺激薬である。 ・根本治療はアレルゲン免疫療法(スギでは舌下免疫療法)。
