母から子へ、祖父から母へ―カフェオレ斑が描く常染色体優性遺伝の家系図
第105回医師国家試験 E問題 第50問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。出生時からある色素斑を心配した母親に伴われて来院した。体幹と四肢とに多数の褐色斑を認める。母親を診察したところ同様の褐色斑があり,母指頭大までの軟らかい皮膚腫瘤を多数認める。亡くなった母方の祖父にも同様の褐色斑と腫瘤とがあったという。 この患者の家系図と考えられるのはどれか。

- a.
- b.
- c.
- d.
- e.
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
多発するカフェオレ斑と軟らかい皮膚腫瘤(神経線維腫)は神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)を示し、17番染色体のNF1遺伝子異常による常染色体優性遺伝の疾患です。家系図問題では、発端者の性別、罹患者の続柄(父方か母方か、祖父か祖母か)、生存か死亡かを記号に置き換え、さらに遺伝形式と矛盾しないかを順に照合します。本問では、亡くなった母方の祖父から母親、男児へと罹患者が世代を飛ばさずに連続する家系図が該当し、遺伝形式は合っていても続柄や生死が食い違う図が引っかけになっています。NF1は浸透率がほぼ100%でも表現度に差があり、約半数は新生突然変異であるため、家族歴の有無だけで判断しないことが重要です。疾患の推定から遺伝形式、家系図の読解までを一続きで行う力は、遺伝カウンセリングや家族への説明の基礎にもなります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・5歳男児。出生時から、体幹と四肢に多数の褐色斑(カフェオレ斑)がある ・母親にも同様の褐色斑と、母指頭大までの軟らかい皮膚腫瘤(皮膚の神経線維腫)が多数ある ・母方の祖父(すでに死亡)にも、同様の褐色斑と腫瘤があった
診断
多発するカフェオレ斑と皮膚の神経線維腫の組み合わせから、神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)と考えられる。小児期にはカフェオレ斑が先に現れ、皮膚の神経線維腫は思春期頃から増えてくるため、5歳の本児に腫瘤がなく、成人の母親に腫瘤が多発していることも自然な経過である。NF1は常染色体優性遺伝(AD)の形式をとる。
家系図の読み方
家系図では、□が男性、○が女性、塗りつぶしが罹患者、斜線が死亡者、矢印が発端者(本問では受診した患者本人)を表す。問題文から、家系図は次の条件をすべて満たす必要がある。 ①発端者は男児で、罹患している ②母親が罹患している ③母方の祖父が罹患しており、死亡している ④常染色体優性遺伝として矛盾がない(罹患者の少なくとも一方の親が罹患者であり、世代を飛ばさずに現れる。男女ともに罹患し、父から子にも母から子にも伝わる) この条件を各選択肢の家系図に当てはめて、すべてを満たすものを選ぶ。
選択肢考察
- ×a.
発端者が女児(塗りつぶされた○)になっており、患者は男児という設定に合わない。また、この家系図で罹患している親は父親であり、その上の罹患者は父方の祖母である。一方、母方では、死亡の斜線が付いている祖父は塗りつぶされておらず非罹患で、母親も非罹患として描かれている。したがって、母親と、亡くなった母方の祖父が罹患しているという問題文の内容とも一致しない。家系内の伝わり方(祖母→父→子)は常染色体優性遺伝と矛盾しないが、本症例の家系図ではない。
- ×b.
罹患した男児の両親が、いずれも非罹患者として描かれている。母方の祖父(死亡)とその子である伯母・叔父は罹患しているが、男児の母親は非罹患である。常染色体優性遺伝では、非罹患の両親(ともに正常アレルのみをもつ)から罹患児は生まれない(新生突然変異を除く)。問題文の「母親に同様の褐色斑と腫瘤がある」という記述とも矛盾する。
- ×c.
母方の祖父(死亡)は罹患しているが、男児の母親が非罹患になっている。両親がともに非罹患のまま、男児とその姉妹が罹患しており、世代を飛ばして現れる常染色体劣性遺伝のような描き方である。常染色体優性遺伝としても、母親が罹患しているという問題文の内容としても合わない。
- ○d.
発端者は罹患した男児であり、その母親が罹患している。さらに、母方の祖父が罹患しており、死亡の斜線も付いている。父方の祖父母、父親、母親のきょうだいのうち非罹患の者はそれぞれ非罹患として描かれ、罹患者は祖父→母親→男児と各世代に連続して現れている。問題文の条件と常染色体優性遺伝の形式をすべて満たす家系図である。
- ×e.
罹患した男児の母親が罹患しており、常染色体優性遺伝の形式とは矛盾しない。しかし、母方の罹患者は存命の祖母であり、死亡している母方の祖父は非罹患として描かれている。「亡くなった母方の祖父に同様の褐色斑と腫瘤があった」という問題文の記述と一致しない。
神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)
・原因:17番染色体長腕(17q11.2)にあるNF1遺伝子の異常。この遺伝子がつくるニューロフィブロミンは、細胞増殖のシグナルを伝えるRasタンパクを不活性化する腫瘍抑制因子である。 ・遺伝形式:常染色体優性遺伝。浸透率はほぼ100%だが、症状の程度は同じ家系内でも大きく異なる(表現度の差)。患者の約半数は家族歴のない新生突然変異による。 ・頻度:約3,000人に1人。
主な症状
・カフェオレ斑:出生時からみられ、乳幼児期に数が増える。NF1の診断に最も重要な所見である。 ・皮膚の神経線維腫:思春期頃から出現して増え、軟らかい腫瘤として触れる。 ・びまん性(叢状)神経線維腫:神経に沿って広がる大きな腫瘍で、悪性末梢神経鞘腫瘍に変化することがある。 ・雀卵斑様色素斑(腋窩や鼠径部の小さな色素斑) ・虹彩小結節(Lisch結節) ・視神経膠腫 ・骨病変:脊柱側弯、四肢骨の変形(偽関節など)、頭蓋骨・顔面骨の欠損 ・その他:学習障害、注意欠如・多動症、褐色細胞腫、消化管間質腫瘍(GIST)などの合併
診断のめやす
6個以上のカフェオレ斑(大きさが思春期前は5mm以上、思春期以降は15mm以上)、2個以上の神経線維腫または1個のびまん性(叢状)神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、視神経膠腫、2個以上のLisch結節、特徴的な骨病変、NF1の親がいることなどのうち2項目以上を満たせば、NF1と診断する。
治療
根治療法はなく、皮膚腫瘍の切除など対症的な治療が中心である。症状のあるびまん性(叢状)神経線維腫に対しては、MEK阻害薬のセルメチニブが使えるようになった。
遺伝形式ごとの家系図の特徴
・常染色体優性:各世代に罹患者が現れ(垂直伝播)、男女ともに罹患する。罹患者の子は1/2の確率で罹患し、父から息子への伝達もある。 ・常染色体劣性:罹患者の両親は通常は非罹患の保因者で、同胞に罹患者が出る(水平伝播)。近親婚で多くなる。 ・X連鎖劣性:主に男性が罹患し、母方を通じて伝わる。父から息子へは伝わらない。
神経線維腫症2型(NF2)との違い
NF2は22番染色体上の遺伝子(NF2、マーリンをコードする)の異常で、両側の聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)が特徴である。これも常染色体優性遺伝で、カフェオレ斑は少ない。
POINT
・多発するカフェオレ斑と皮膚の神経線維腫をみたら、神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)を考える。 ・NF1は常染色体優性遺伝(17q11.2、NF1遺伝子)で、患者の約半数は新生突然変異による。 ・家系図の問題では、発端者の性別、罹患している血縁者の続柄(父方か母方か、祖父か祖母か)、生存か死亡かなど、問題文の条件を一つずつ照らし合わせる。 ・常染色体優性遺伝では、罹患者の親の少なくとも一方が罹患しており、世代を飛ばさずに現れる。
