移植後の皮膚に現れる「膠原病の影」―慢性GVHDは扁平苔癬様皮疹で見抜く
第105回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
慢性GVHDの皮膚症状はどれか。
- a.扁平苔癬
- b.結節性紅斑
- c.尋常性乾癬
- d.中毒性表皮壊死症
- e.Stevens-Johnson症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
GVHDはドナー由来のT細胞が宿主の組織を攻撃する病態で、現在は発症時期ではなく臨床像によって急性と慢性に分けられます。急性GVHDは皮膚・肝臓・消化管が主な標的で、皮膚では斑状丘疹状紅斑から始まり、重症例ではTENに似た表皮剝離を来すことがあります。慢性GVHDは膠原病に似た多臓器病変を呈し、皮膚では扁平苔癬様皮疹、多形皮膚萎縮、強皮症様硬化が代表的で、扁平苔癬様皮疹はNIH基準の診断的所見です。結節性紅斑はBehçet病やサルコイドーシスなどに伴う反応性病変、尋常性乾癬は炎症性角化症、SJS・TENは主に薬剤による重症薬疹であり、それぞれ背景となる病態が異なります。皮膚所見から病態を推定する力は、移植後患者の長期管理や薬疹との鑑別に直結します。
解答・解説
正解はaです
テーマ
GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)は、造血幹細胞移植などで移植されたドナー由来のT細胞が、患者(宿主)の組織を異物として攻撃することで起こる病態である。発症時期と臨床像によって急性GVHDと慢性GVHDに分けられ、両者は皮膚症状の性質が大きく異なる。
急性GVHDと慢性GVHDの皮膚症状の違い
・急性GVHD:主に皮膚・肝臓・消化管が標的となる。皮膚では手掌・足底や耳介、体幹に斑状丘疹状の紅斑が出現し、重症化すると水疱形成や表皮剝離を伴い、中毒性表皮壊死症に似た外観になることがある。 ・慢性GVHD:自己免疫疾患に似た多臓器の病態を示す。皮膚では扁平苔癬様皮疹、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ:色素沈着・色素脱失・毛細血管拡張・萎縮が混在した状態)、強皮症様の皮膚硬化、斑状強皮症(モルフェア)様病変、硬化性苔癬様病変などが特徴的である。ほかに脱毛、爪の変形、汗腺障害なども見られる。
正解を導く考え方
慢性GVHDの皮膚病変は、扁平苔癬や強皮症といった「自己免疫的・慢性炎症性の皮膚疾患に似た病変」になる、と押さえておくとよい。選択肢の中でこれに該当するのは扁平苔癬(扁平苔癬様皮疹)である。その他の選択肢は、感染症・全身疾患に伴う反応性病変や、薬疹の重症型など、慢性GVHDとは別の病態で典型的に見られる皮膚疾患である。
選択肢考察
- ○a. 扁平苔癬
扁平苔癬様皮疹は慢性GVHDの代表的な皮膚症状で、国際的な慢性GVHDの診断基準(NIH基準)でも、それだけで慢性GVHDと診断できる「診断的所見」の一つに挙げられている。紫紅色〜褐色の扁平に隆起した丘疹が特徴で、病理学的にも表皮基底層の液状変性やリンパ球の帯状浸潤など、扁平苔癬に類似した所見を示す。口腔粘膜にもレース状の白色線条(扁平苔癬様変化)を生じることがある。
- ×b. 結節性紅斑
結節性紅斑は、主に下腿伸側に圧痛を伴う紅色の皮下結節が多発する疾患で、皮下脂肪組織の炎症(脂肪織炎)である。Behçet病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、結核、Hansen病、溶連菌感染症などの感染症、薬剤(経口避妊薬など)などに伴って生じる反応性の病変であり、慢性GVHDの典型的な皮膚症状ではない。
- ×c. 尋常性乾癬
尋常性乾癬は、境界明瞭な紅斑の上に銀白色の厚い鱗屑を伴う局面が、肘・膝・頭部・腰部など外的刺激を受けやすい部位に生じる慢性炎症性角化症である。IL-23/IL-17経路が病態に関与する。β遮断薬、リチウム、インターフェロンなどの薬剤で誘発・増悪することが知られ、逆説的にTNF-α阻害薬で乾癬や掌蹠膿疱症様皮疹が誘発されることも報告されている。慢性GVHDの皮膚症状としては挙げられない。
- ×d. 中毒性表皮壊死症
中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)は、表皮の広範な壊死により全身の皮膚が熱傷のように剝離する、薬疹の最重症型である。原因の多くは薬剤である。表皮剝離の範囲による定義は基準によって異なり、国際的に広く用いられるBastuji-Garinらの分類では体表面積の30%以上をTEN(10〜30%はSJS/TENオーバーラップ)とする。一方、本邦の診断基準(重症多形滲出性紅斑診療ガイドライン)ではオーバーラップの区分を設けず、10%以上をTENとしている。重症の急性GVHDではTEN類似の表皮剝離を来すことがあり鑑別が問題となるが、慢性GVHDの皮膚症状ではない。
- ×e. Stevens-Johnson症候群
Stevens-Johnson症候群(SJS)は、発熱とともに皮膚の紅斑・水疱・びらんと、口唇・眼・外陰部などの粘膜に重篤な病変を生じる疾患である。多くは薬剤が原因の重症薬疹で、マイコプラズマやウイルスなどの感染症に伴うこともある。表皮剝離が体表面積の10%未満のものをSJSとする点は国際分類・本邦の基準で共通している。国際的なBastuji-Garinらの分類では10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%以上をTENとする3区分であり、本邦の基準では10%以上をTENとする。慢性GVHDの皮膚症状ではない。
GVHDの概要
・発症の条件:ドナー移植片に免疫担当細胞(T細胞)が含まれること、宿主と組織適合抗原(HLAなど)が異なること、宿主がドナー細胞を拒絶できない免疫状態にあること。 ・同種造血幹細胞移植のほか、輸血後GVHD(放射線照射していない血液製剤の輸血による。発症すると致死率が極めて高く、予防のため血液製剤に放射線照射を行う)もある。
急性GVHDと慢性GVHDの区別
かつては移植後100日以内の発症を急性、それ以降を慢性と時期で区別していたが、現在の国際基準(NIH基準)では発症時期ではなく臨床症状の特徴によって区別する。 ・急性GVHD:皮膚(紅斑・丘疹、重症例で水疱・表皮剝離)、肝臓(胆汁うっ滞による黄疸)、消化管(下痢・腹痛)。 ・慢性GVHD:皮膚(扁平苔癬様皮疹、多形皮膚萎縮、強皮症様硬化など)、口腔(扁平苔癬様変化、口腔乾燥)、眼(乾燥性角結膜炎)、肺(閉塞性細気管支炎)、筋膜炎・関節拘縮、肝障害、食道狭窄などを来し、Sjögren症候群や全身性強皮症などの膠原病に似た像を呈する。
慢性GVHDの皮膚所見の特徴
色素沈着・色素脱失、毛細血管拡張、萎縮が混在する多形皮膚萎縮や、皮膚硬化による関節拘縮は不可逆的となることが多く、広範囲に及ぶとQOL(生活の質)を大きく損なう。治療はステロイドやカルシニューリン阻害薬などの免疫抑制療法が中心となる。
重症薬疹の整理
SJSとTENは一連のスペクトラムと考えられ、表皮剝離面積で区別される。国際的なBastuji-Garinらの分類では、体表面積の10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%以上をTENとする。本邦の診断基準では、10%未満をSJS、10%以上をTENとしている。原因薬としては抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)、アロプリノール、抗菌薬、NSAIDsなどが多い。
POINT
・慢性GVHDの皮膚症状:扁平苔癬様皮疹、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ)、強皮症様皮膚硬化が代表的で、膠原病に似た像を示す。 ・急性GVHDの皮膚症状:斑状丘疹状紅斑で始まり、重症例では水疱・表皮剝離を伴いTEN類似となる。 ・結節性紅斑はBehçet病、サルコイドーシス、結核などに伴う反応性病変である。 ・SJSとTENは主に薬剤による重症薬疹で、表皮剝離面積で区別する(国際分類:10%未満SJS、10〜30%オーバーラップ、30%以上TEN/本邦基準:10%以上をTEN)。
