「治まったからもう大丈夫」ではない―発作の合間にこそ始める喘息の長期管理
第104回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。発作性の呼吸困難を主訴に来院した。6か月前から朝になると胸苦しさを時々自覚していた。3か月前に息苦しさが生じ横になるとより苦しくなったため時間外の外来を受診した。両側全肺野にwheezesを聴取し,点滴とβ2刺激薬の吸入とを行うと改善した。病院から家に戻ると症状は全くなくなっていた。毎日ではないが週に1回以上同じ発作を繰り返すので,何か治療をしてもらいたいという。来院時に自覚症状はない。既往歴とアレルギー歴とに特記すべきことはない。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿,血液および胸部エックス線写真に異常を認めない。 対応で最も適切なのはどれか。
- a.入院
- b.発作時のみの外来受診
- c.β2刺激薬の吸入による自己管理
- d.外来での点滴とβ2刺激薬の吸入
- e.副腎皮質ステロイド吸入薬による長期管理
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発作性の呼吸困難、発作時の広範なwheezes、β2刺激薬による速やかな改善、間欠期の無症状・検査正常という経過は、可逆性の気流制限を示す気管支喘息の典型です。症状が週1回以上だが毎日ではない場合は軽症持続型に当たり、本態である気道の慢性炎症を抑えるため、副腎皮質ステロイド吸入薬(ICS)による長期管理を開始します。短時間作用性β2刺激薬は発作治療薬にすぎず、単独に頼る管理や発作時のみの受診は炎症とリモデリングを放置し、重症発作や喘息死のリスクを高めます。LABAはICSと併用し、吸入手技の確認と吸入後のうがい、自己中断しないための説明が治療成功の鍵です。リリーバーとコントローラーを区別する考え方は、喘息診療のあらゆる場面の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
42歳の男性で、発作性の呼吸困難を主訴とする。 ・6か月前から、朝方に胸苦しさを時々自覚している(喘息症状は夜間から早朝に悪化しやすい)。 ・3か月前には、息苦しく横になると増悪する発作があり、両側全肺野にwheezes(笛様音。狭くなった気道を空気が通るときに生じる高調性の連続性ラ音)を聴取した。点滴とβ2刺激薬の吸入で改善し、帰宅後には症状が完全に消失した。 ・毎日ではないが、週1回以上同様の発作を繰り返している。 ・発作のない来院時には自覚症状がなく、心音・呼吸音、尿・血液検査、胸部エックス線写真に異常はない。
診断へのプロセス
反復する発作性の呼吸困難、発作時の広範なwheezes、β2刺激薬による速やかな改善、発作間欠期にはまったく症状も所見もない、という経過は、気道狭窄が自然に、または治療によって元に戻る(可逆性の気流制限)ことを示しており、気管支喘息に典型的である。胸部エックス線写真や血液検査に異常がないことから、肺炎や心不全(心臓喘息)、間質性肺疾患などは考えにくい。なお、横になると苦しくなる起坐呼吸は心不全でもみられるが、心音やエックス線所見が正常であり、喘息発作でも臥位より坐位のほうが呼吸は楽である。確定のためには、呼吸機能検査での気道可逆性(β2刺激薬吸入後の1秒量の改善)、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)や喀痰好酸球による気道炎症の評価などを行う。
設問の考え方
発作の頻度は週1回以上だが毎日ではなく、日本のガイドラインの重症度分類では軽症持続型に相当する。現在は無症状であるが、症状が持続的に出現しており、発作時の対症療法だけでなく長期管理が必要な段階である。喘息の本態は気道の慢性炎症であり、長期管理の基本は、その炎症を抑える副腎皮質ステロイド吸入薬(ICS:inhaled corticosteroid)を毎日規則的に使用することである。
選択肢考察
- ×a. 入院
来院時は無症状で、呼吸音・胸部エックス線写真・血液検査にも異常がない。入院が必要なのは、発作が重く外来治療で改善しない場合や、低酸素血症、会話困難などの重症発作の場合である。現状は外来での長期管理で十分対応でき、入院の適応はない。
- ×b. 発作時のみの外来受診
週1回以上発作を繰り返す持続型の喘息では、発作時に受診して症状を抑えるだけでは気道の慢性炎症が放置される。炎症が続くと気道が過敏な状態のまま発作を繰り返し、やがて気道壁が厚く硬くなる気道リモデリングが進み、気流制限が元に戻りにくくなる。発作を起こさないための長期管理を開始すべきである。
- ×c. β2刺激薬の吸入による自己管理
短時間作用性β2刺激薬(SABA)は気管支を速やかに広げて発作を和らげる発作治療薬(リリーバー)であり、気道の炎症を抑える作用はない。SABAだけに頼ると炎症が進行したまま症状が隠され、重症発作や喘息死のリスクが高まる。過去には、β2刺激薬の過剰使用と喘息死の増加との関連が報告されている。SABAは発作時の頓用として携帯させるものであり、長期管理薬の代わりにはならない。
- ×d. 外来での点滴とβ2刺激薬の吸入
点滴(ステロイドやアミノフィリンなど)とβ2刺激薬の吸入は、発作が起きたときの急性期の治療である。来院時は無症状であり、これを定期的に行っても発作の予防にはならない。求められているのは、発作そのものを起こさないための長期管理である。
- ○e. 副腎皮質ステロイド吸入薬による長期管理
気管支喘息の本態は、好酸球やリンパ球などが関与する気道の慢性炎症である。副腎皮質ステロイド吸入薬は、この炎症を直接抑えて気道過敏性を低下させ、発作の頻度と重症度を減らし、喘息死を減少させることが示されている長期管理薬の中心である。吸入薬は気道に直接作用するため少量で効果があり、全身性の副作用が少ない。軽症持続型の本症例では、低用量(〜中用量)のICSから開始し、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)などを追加する。副作用として口腔カンジダ症や嗄声があるため、吸入後のうがいを指導する。
気管支喘息の概念
気管支喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、気道過敏性の亢進と可逆性の気道狭窄により、発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽を繰り返す疾患である。症状は夜間から早朝に出現・悪化しやすい。アトピー型(ダニ、ハウスダストなどに対するIgE抗体が陽性)と非アトピー型があり、成人発症では非アトピー型の割合が高い。
診断の目安
・発作性の呼吸困難、喘鳴、咳の反復 ・可逆性の気流制限:β2刺激薬吸入前後で1秒量(FEV1)が12%以上かつ200 mL以上改善すれば可逆性ありと判断する ・気道過敏性の亢進(アセチルコリン、メタコリンによる誘発試験) ・気道炎症の存在(喀痰中好酸球、呼気一酸化窒素濃度〈FeNO〉の上昇) ・他疾患(COPD、心不全、上気道狭窄など)の除外
未治療時の重症度分類(日本のガイドライン)
・軽症間欠型:症状は週1回未満で、軽く短い ・軽症持続型:症状は週1回以上だが毎日ではない ・中等症持続型:症状が毎日ある ・重症持続型:治療下でもしばしば増悪し、症状が毎日持続する 本症例は週1回以上だが毎日ではないため軽症持続型に該当する。
長期管理薬(コントローラー)と発作治療薬(リリーバー)
・長期管理薬:吸入ステロイド(ICS、中心的薬剤)、長時間作用性β2刺激薬(LABA。単独では用いずICSと併用する)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、重症例では抗IgE抗体・抗IL-5抗体などの生物学的製剤や経口ステロイド ・発作治療薬:短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が第一選択。中等度以上の発作では全身性ステロイド、酸素投与、アミノフィリンなどを用いる 治療はステップ1〜4の段階的治療で行い、コントロール良好が続けば減量(ステップダウン)を試みる。近年は、ICSとホルモテロール(速効性のあるLABA)の配合剤を長期管理と発作時の頓用の両方に用いる方法も普及している。
ICS使用時の注意
吸入手技の指導が重要であり、正しく吸入できていないと効果が得られない。吸入後はうがいを行い、口腔カンジダ症や嗄声を予防する。症状がなくなっても自己判断で中止しないよう指導する。
POINT
・発作性呼吸困難、発作時のwheezes、β2刺激薬での改善、間欠期は無症状・検査正常 → 気管支喘息。 ・喘息の本態は気道の慢性炎症であり、長期管理の中心は吸入ステロイド(ICS)である。 ・SABAは発作治療薬であり、SABA単独に頼る管理は喘息死のリスクを高める。 ・週1回以上だが毎日ではない症状 → 軽症持続型で、低用量ICSから長期管理を開始する。 ・LABAは単独で使用せず、ICSと併用する。
