StudyMed医師国家試験

献血バッグの中で血が固まらない理由―カルシウムを捕まえるクエン酸の仕事

第104回医師国家試験 B問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第37問

輸血用赤血球製剤に使われている抗凝固薬はどれか。

  1. a.t-PA
  2. b.ワルファリン
  3. c.ヘパリンナトリウム
  4. d.クエン酸ナトリウム
  5. e.エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、輸血用の赤血球製剤にどんな抗凝固薬が入っているかを問う問題だ。ポイントは「体の外に取り出した血液をどうやって固まらせないか」という視点で、選択肢の薬を作用の仕方と使われる場面で仕分けること。まず、血液が固まる仕組みで外せないイオンは何だったかな。
医学生医学生
カルシウムイオンです。生理学の講義で、凝固因子の第Ⅳ因子はCa2+だと習いました。
ドクタードクター
その通り。凝固カスケードの多くの段階でCa2+が必要になる。だから試験管やバッグの中の血液を固まらせないいちばん簡単な方法は、Ca2+をキレート、つまり捕まえて働けなくしてしまうことなんだ。
医学生医学生
Ca2+を捕まえる薬というと、EDTAとクエン酸ナトリウムの2つが候補になりますね。どちらも検査の採血管で見た覚えがあります。
ドクタードクター
よく気づいたね。どちらもキレート作用で凝固を止める点は同じ。でも輸血用製剤に使われているのはクエン酸ナトリウムだ。献血の血液は、採血バッグの中でクエン酸・リン酸・ブドウ糖を含むCPD液などの保存液と混ぜられ、赤血球製剤はそこからさらに赤血球保存用の添加液を加えて作られる。ブドウ糖は保存中の赤血球のエネルギー源、リン酸はpHの維持に役立っているんだ。
医学生医学生
EDTAのほうが使われないのはなぜですか。キレート作用が強いほうが確実に固まらなさそうに思えます。
ドクタードクター
そこがまさに理由なんだ。EDTAはキレート作用が強すぎて、体内に入ると重い低カルシウム血症を起こしうる。一方クエン酸は輸血後に主に肝臓で速やかに代謝されて重炭酸に変わるから、通常の輸血量なら問題にならない。「体に戻すことが前提」の製剤では、この安全性が決め手になるんだ。EDTAは血球の形をよく保つので、血算や血液像の採血管で活躍している。
医学生医学生
臨床実習の検査部見学で、血小板が低いと思ったらEDTAで血小板が凝集していただけ、という話を聞きました。
ドクタードクター
EDTA依存性偽性血小板減少症だね。塗抹標本で血小板凝集を確認して、クエン酸採血などで測り直す。覚えておくと病棟で役立つよ。では、ヘパリンナトリウムはどうだろう。
医学生医学生
ヘパリンも採血管に入っていますし、透析回路にも使うので、輸血製剤に入っていてもおかしくない気がしてしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。ヘパリンはCa2+を捕まえるのではなく、アンチトロンビンに結合してその働きを強め、トロンビンや活性化第Ⅹ因子を阻害する薬だ。血栓症の治療や人工心肺・透析の回路内凝固の防止、検査では血液ガス分析や染色体検査の採血に使われるけれど、輸血用赤血球製剤の抗凝固薬としては使われていない。
医学生医学生
ワルファリンは、そもそも採った血液に入れても効かないですよね。薬理学で、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子の産生を抑える薬だと習いました。
ドクタードクター
正確だね。ワルファリンは第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子のγ-カルボキシル化を妨げる薬で、作用の場は生体内の肝臓。すでに体外にある血液には効果がない。効果はPT-INRでモニタリングする。最後のt-PAはどうかな。
医学生医学生
脳梗塞の急性期に使う血栓溶解薬なので、固まるのを防ぐというより、できた血栓を溶かす薬ですね。
ドクタードクター
その通り。プラスミノゲンをプラスミンに変えてフィブリンを分解する薬で、抗凝固薬とは働きが違う。こうして並べると、「Ca2+キレート」「アンチトロンビン増強」「ビタミンK拮抗」「血栓溶解」と、作用機序がすべて違うのがわかるね。
医学生医学生
輸血製剤はクエン酸、血算はEDTA、血液ガスはヘパリン、と用途で整理しておけばよさそうです。凝固検査や赤沈もクエン酸でしたよね。
ドクタードクター
いい整理だ。凝固検査は血液と抗凝固薬が9対1、赤沈は4対1と比率が違う点もCBTや国試で問われやすい。ついでに、血糖測定の採血管には解糖を止めるフッ化ナトリウムが入っていることも押さえておこう。
医学生医学生
クエン酸が安全といっても、たくさん輸血したら代謝が追いつかなくなりませんか。
ドクタードクター
鋭いね。大量輸血や急速輸血、肝機能障害のある患者、成分採血のドナーでは、クエン酸が処理しきれずイオン化カルシウムが下がる「クエン酸中毒」が起こりうる。口唇や手指のしびれ、テタニー、QT延長や不整脈、血圧低下が出たら疑い、輸血速度の調整やカルシウム製剤の投与で対応する。
医学生医学生
大量輸血のときに注意する合併症は、ほかにもありますか。
ドクタードクター
保存中に赤血球からカリウムが漏れ出るための高カリウム血症、冷たい製剤による低体温、凝固因子や血小板の希釈による出血傾向、そしてクエン酸が重炭酸に変わることによる代謝性アルカローシスなどだ。救急や手術室で大量輸血をするときは、カルシウムやカリウムをこまめに確認する習慣をつけておこう。

まとめ

輸血用赤血球製剤の抗凝固薬はクエン酸ナトリウムであり、血液凝固に欠かせないCa2+をキレートして凝固を防ぎます。クエン酸は輸血後に肝臓で速やかに代謝されるため安全性が高い一方、同じキレート剤でも作用の強いEDTAは体内で重い低カルシウム血症を起こしうるため、血算用の採血管に用途が限られます。ヘパリンはアンチトロンビンを介する抗凝固薬で治療や体外循環、血液ガス採血に、ワルファリンは肝臓で働くビタミンK拮抗薬、t-PAは血栓溶解薬であり、いずれも輸血製剤には使われません。大量・急速輸血や肝機能障害ではクエン酸中毒による低カルシウム血症に注意が必要です。抗凝固薬を「作用機序」と「使われる場面」で整理しておくことは、検査の解釈や輸血の安全管理の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

血液が凝固するには、凝固因子の連鎖反応(凝固カスケード)の多くの段階でカルシウムイオン(Ca2+、凝固第Ⅳ因子)が必要である。そのため、体外に取り出した血液の凝固を防ぐ方法として、Ca2+をキレート(結合して不活化)する物質を加える方法が広く用いられている。 輸血用の血液製剤は、献血で採取した血液を採血バッグ内の抗凝固保存液と混和して作られる。この保存液の主成分がクエン酸ナトリウム(およびクエン酸)であり、クエン酸がCa2+をキレートして凝固を防ぐ。保存液にはブドウ糖(デキストロース)やリン酸なども含まれ、赤血球のエネルギー源の補給やpHの維持によって保存中の赤血球の機能を保つ役割を担う。代表的な保存液にCPD液(クエン酸・リン酸・ブドウ糖)やACD-A液(クエン酸・クエン酸ナトリウム・ブドウ糖)がある。 クエン酸は輸血後に主に肝臓で速やかに代謝されるため、通常の輸血では問題とならず、安全性の面からも血液製剤の抗凝固薬として適している。一方、選択肢のうち、ヘパリンやEDTAは主に検査用採血管で用いられる抗凝固薬、ワルファリンは生体内で作用する経口抗凝固薬、t-PAは血栓溶解薬であり、用途と作用機序を区別して覚えることが本問のポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  t-PA

    t-PA(組織型プラスミノゲンアクチベータ)は主に血管内皮細胞で産生されるセリンプロテアーゼで、フィブリン上でプラスミノゲンを活性型のプラスミンに変換し、フィブリンを分解する。すなわち抗凝固薬ではなく血栓溶解薬であり、遺伝子組換え製剤(アルテプラーゼなど)が発症早期の脳梗塞(発症4.5時間以内の急性期虚血性脳卒中)や急性心筋梗塞の血栓溶解療法に用いられる。血液製剤の凝固防止には使われない。

  2. ×b.  ワルファリン

    ワルファリンはビタミンKの作用に拮抗する経口抗凝固薬である。肝臓でビタミンK依存性凝固因子(第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子)が活性型になるために必要なγ-カルボキシル化を妨げることで効果を発揮する。すなわち生体内で凝固因子の産生を抑える薬であり、すでに採取された血液に加えても凝固を防ぐことはできない。心房細動の塞栓予防や深部静脈血栓症の治療・予防などに用いられ、効果はPT-INRでモニタリングする。

  3. ×c.  ヘパリンナトリウム

    ヘパリンは硫酸化ムコ多糖(グリコサミノグリカン)で、アンチトロンビン(AT)に結合してその作用を著しく増強し、トロンビンや活性化第Ⅹ因子を阻害する。臨床では血栓症の治療・予防、体外循環(人工心肺、血液透析)の回路内凝固防止に静注・持続投与で用いられ、効果はAPTTでモニタリングする。検査用としては、血液ガス分析や染色体検査などの採血に用いられる。輸血用赤血球製剤の抗凝固薬としては用いられていない。重要な副作用にヘパリン起因性血小板減少症(HIT)があり、血小板減少とともに逆説的に血栓症を生じる。

  4. ○d.  クエン酸ナトリウム

    クエン酸ナトリウムは、血液中のイオン化カルシウムをキレートして凝固反応を止める抗凝固薬であり、輸血用血液製剤の抗凝固保存液(CPD液、ACD-A液など)の主成分である。輸血用赤血球製剤も、採血時にこうしたクエン酸を含む保存液と混和されて作られる。クエン酸は輸血後に肝臓で代謝され重炭酸に変わるため、通常量の輸血では問題とならない。ただし、大量輸血・急速輸血や肝機能障害では代謝が追いつかず、低カルシウム血症(クエン酸中毒)による口唇のしびれ、テタニー、不整脈などを起こすことがある。検査領域でも、凝固検査(PT、APTTなど)や赤血球沈降速度(赤沈)の採血管にクエン酸ナトリウムが用いられる。

  5. ×e.  エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉

    EDTAは2価の金属イオンを強力にキレートする物質で、Ca2+を結合することにより凝固を阻止する。血球形態の保存に優れるため、血算(血球数算定)や血液像の検査用採血管にEDTA塩(EDTA-2Kなど)が用いられる。ただし、キレート作用が強く体内に入ると重篤な低カルシウム血症を起こしうるため、輸血用製剤には使われない。検査上の注意点として、EDTA存在下で血小板が凝集して見かけ上血小板数が低値となるEDTA依存性偽性血小板減少症がある(塗抹標本で血小板凝集を確認し、クエン酸採血などで再検する)。

抗凝固薬の種類と用途の整理

・クエン酸ナトリウム: Ca2+キレート。輸血用血液製剤の保存液、凝固検査(血液:抗凝固薬=9:1)、赤沈(4:1) ・EDTA塩: Ca2+キレート。血算・血液像の検査。EDTA依存性偽性血小板減少症に注意 ・ヘパリン: アンチトロンビンを介してトロンビン・Xaを阻害。治療(静注・皮下注)、体外循環、血液ガス分析・染色体検査の採血 ・ワルファリン: ビタミンK拮抗。経口で生体内でのみ作用 ・参考: 血糖測定の採血管にはフッ化ナトリウム(解糖阻止)が加えられる

輸血用血液製剤と保存液

・全血採血はCPD液などを含むバッグで行われ、赤血球製剤はそこから血漿の大部分を除き、赤血球保存用添加液(MAP液: マンニトール・アデニン・リン酸・クエン酸ナトリウム・クエン酸・ブドウ糖・塩化ナトリウムを含む)を加えて調製される。日本では白血球除去(LR)処理が行われている。 ・赤血球製剤は2〜6℃で保存する。 ・成分採血による血小板製剤などではACD-A液が用いられる。

クエン酸中毒(低カルシウム血症)

・大量輸血、急速輸血、新鮮凍結血漿の大量投与、肝機能障害時、成分採血(アフェレーシス)のドナーに起こりやすい。 ・症状: 口唇・手指のしびれ、テタニー、QT延長、不整脈、血圧低下。 ・対応: 輸血速度の調整、カルシウム製剤の投与。

大量輸血時のその他の合併症

・高カリウム血症(保存中に赤血球からKが漏出)、低体温、希釈性凝固障害・血小板減少、代謝性アルカローシス(クエン酸代謝による重炭酸の産生)など。

POINT

・輸血用血液製剤の抗凝固薬はクエン酸(CPD液、ACD-A液など)で、Ca2+をキレートして凝固を防ぐ。 ・大量・急速輸血ではクエン酸中毒による低カルシウム血症に注意する。 ・採血管の抗凝固薬: 凝固・赤沈=クエン酸Na、血算=EDTA、血液ガス・染色体検査=ヘパリン。 ・t-PAは血栓溶解薬、ワルファリンは生体内で作用するビタミンK拮抗薬であり、体外の血液の凝固防止には使えない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。