空気は「内向き」に流せ―結核患者を守る部屋と守られる部屋の違い
第103回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
肺結核で入院中の患者に対する医療従事者の対応で誤っているのはどれか。
- a.陽圧病室での診療
- b.診察前後の手洗い
- c.採血時の手袋着用
- d.入室の際のN 95マスク着用
- e.室外に出る患者へのサージカルマスク着用指示
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
結核は直径5μm以下の飛沫核による空気感染で、麻疹・水痘とともに空気予防策の対象となります。空気予防策では患者を陰圧個室に収容し、医療従事者は入室時にN95マスクを着用、患者が室外に出るときはサージカルマスクを着用させます。陽圧室は造血幹細胞移植後など易感染患者を外部の病原体から守るための部屋であり、結核患者を入れると菌を含む空気が病室外へ流出するため誤りです。手指衛生や採血時の手袋は疾患を問わず行う標準予防策で、感染経路別予防策はこれに上乗せして実施します。「誰を何から守るのか」と空気の流れを結びつけて理解しておくことは、院内感染対策を実践するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はaです
【テーマ】肺結核の感染経路と、それに応じた院内感染対策を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。
結核の感染経路
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は、排菌している肺結核患者が咳・くしゃみ・会話をしたときに出る飛沫が乾燥してできる、直径5μm以下の飛沫核に含まれて空気中を漂う。飛沫核は長時間浮遊し、気流に乗って遠くまで運ばれ、吸入されると肺胞まで到達して感染を起こす。これを空気感染(飛沫核感染)という。空気感染する代表的な疾患は結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)である。
必要な感染対策
①すべての患者に共通して行う標準予防策(スタンダードプリコーション):血液・体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜を感染の可能性があるものとして扱い、手指衛生や手袋などの個人防護具を用いる。 ②感染経路別予防策のうち空気予防策:患者を陰圧に保たれた個室(空気感染隔離室)に収容し、医療従事者は入室時にN95マスクを着用する。患者が室外に出る必要があるときは、患者にサージカルマスクを着用させる。
考え方
選択肢を標準予防策と空気予防策のどちらに当たるか整理すると、b・cは標準予防策、d・eは空気予防策として正しい。aの「陽圧」は空気の流れが逆であり、これが誤りである。
選択肢考察
- ○a. 陽圧病室での診療
誤った対応であり、これが正解である。陽圧病室は室内の気圧を周囲より高くし、室内の空気が外へ流れ出るようにした部屋で、外からの病原体の侵入を防ぐ目的(造血幹細胞移植後など高度な免疫不全患者の防護環境)に用いる。排菌している結核患者を陽圧室に入れると、結核菌を含む空気が廊下など病室外へ流出し、院内に感染を広げてしまう。肺結核患者は、室内の気圧を周囲より低くして空気が廊下から病室内へ流れ込むようにした陰圧個室に収容する。陰圧室では室内の空気を1時間あたり十分な回数(新設では12回以上が推奨)換気し、排気は屋外へ直接出すか、HEPAフィルター(高性能微粒子フィルター)を通して排出する。扉は常に閉めておく。
- ×b. 診察前後の手洗い
正しい対応である。手指衛生(流水と石けんによる手洗い、または擦式アルコール製剤による手指消毒)は、あらゆる患者に対して行う標準予防策の基本である。結核は主に空気感染するため手指を介した伝播は重要ではないが、他の病原体(MRSAなど)の交差感染を防ぐためにも、患者に触れる前後には必ず行う。
- ×c. 採血時の手袋着用
正しい対応である。血液は感染性があるものとして扱うのが標準予防策の原則であり、結核の有無にかかわらず採血時には手袋を着用する。B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVなど血液媒介感染症の曝露予防が主な目的である。
- ×d. 入室の際のN 95マスク着用
正しい対応である。N95マスクは、米国の規格で0.3μm程度の微粒子を95%以上捕集できる性能をもつ医療用の呼吸器防護具で、顔に密着させて使うことで飛沫核の吸入を防ぐ。空気予防策として、医療従事者は結核患者の病室に入る前に装着する。顔との隙間があると効果が失われるため、着用のたびにシールチェック(ユーザーシールチェック)を行い、自分に合うサイズや形を定期的なフィットテストで確認しておく。サージカルマスクは顔との隙間が大きく、飛沫核の吸入防止には不十分である。
- ×e. 室外に出る患者へのサージカルマスク着用指示
正しい対応である。患者が検査などでやむを得ず病室外へ出るときは、患者本人にサージカルマスクを着用させる。サージカルマスクは吸入の防御には不十分だが、咳などで出る飛沫を発生源で捕らえ、飛沫核になって周囲に拡散するのを減らす効果がある。なお、患者にN95マスクを着用させるのは呼吸が苦しくなるため適切でなく、患者にはサージカルマスクを用いる。
感染経路別予防策の整理
・空気予防策(結核、麻疹、水痘・播種性帯状疱疹):陰圧個室、医療従事者はN95マスク、患者移動時は患者にサージカルマスク。麻疹・水痘では免疫のある職員が担当する。 ・飛沫予防策(インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症など):飛沫(5μmより大きく、1〜2m程度で落下)による感染。個室または集団隔離、医療従事者は患者に近づく際にサージカルマスクを着用。陰圧室は不要。 ・接触予防策(MRSAなどの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬など):個室または集団隔離、手袋・ガウンの着用、聴診器などの器具の専用化。C. difficileの芽胞はアルコールが効きにくいため流水・石けんでの手洗いを行う。 いずれの予防策も、標準予防策に上乗せして行う。
陰圧室と陽圧室の違い
・陰圧室:室内の空気を外に出さない。感染源となる患者(空気感染症)を収容する。 ・陽圧室(防護環境):外の空気を室内に入れない。感染を受けやすい患者(同種造血幹細胞移植後など)を守る。
結核患者の入院と管理
感染症法で結核は二類感染症に分類され、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る。喀痰塗抹検査で抗酸菌が陽性などの感染性の高い肺結核患者は、結核病床などへの入院勧告の対象となる。退院は、適切な治療により咳などの症状が消失し、異なる日の喀痰検査(塗抹または培養)で連続3回陰性となることなどが目安とされる。接触者に対しては、インターフェロンγ遊離試験(IGRA:QFTやT-SPOT)による接触者健診が行われる。
POINT
・結核は空気感染(飛沫核感染)。空気感染するのは結核・麻疹・水痘の3つ。 ・空気予防策:陰圧個室に収容、医療従事者はN95マスク、室外に出る患者にはサージカルマスク。 ・陽圧室は易感染患者を守るための部屋であり、感染源となる患者を入れてはならない。 ・手指衛生や採血時の手袋は、疾患にかかわらず行う標準予防策である。
