「熱が出たら実質臓器」―会陰部の違和感が指し示す急性前立腺炎
第103回医師国家試験 A問題 第54問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。昨夜からの悪寒戦慄を伴う39℃台の発熱,会陰部不快感および排尿困難を主訴に来院した。5日前から頻尿と排尿時痛とがみられたが放置していた。 最も考えられるのはどれか。
- a.急性腎盂腎炎
- b.膀胱炎
- c.尿道炎
- d.前立腺炎
- e.精巣炎
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
膀胱炎や尿道炎のように管腔臓器の粘膜にとどまる感染では通常高熱は出ず、悪寒戦慄を伴う高熱があれば腎盂腎炎・前立腺炎・精巣上体炎など実質臓器の感染を考えます。そのうえで、腰背部痛や肋骨脊柱角叩打痛なら腎盂腎炎、陰嚢内容の腫脹・疼痛なら精巣上体炎や精巣炎、会陰部痛と排尿困難に膀胱刺激症状を伴えば急性前立腺炎と、症状の部位で臓器を絞り込みます。急性細菌性前立腺炎は大腸菌などのグラム陰性桿菌による逆行性感染が多く、前立腺肥大症による残尿や尿路操作が誘因となります。直腸診では愛護的な触診にとどめ、前立腺マッサージは菌血症を誘発するため禁忌であり、血液培養の提出と前立腺移行性のよい抗菌薬の長期投与が治療の基本です。「発熱」と「部位」の2軸で考える習慣は、尿路性器感染症全般の鑑別に応用できます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・65歳男性(前立腺肥大症を背景にもちやすい年齢)。 ・5日前から頻尿・排尿時痛 → 下部尿路の感染(膀胱炎・尿道炎様の症状)が先行している。 ・昨夜から悪寒戦慄を伴う39℃台の高熱 → 実質臓器への感染波及と菌血症の可能性を示す全身症状。 ・会陰部不快感 → 会陰部(陰嚢と肛門の間)の深部にある前立腺の炎症を示唆する局所症状。 ・排尿困難 → 炎症で腫大した前立腺が尿道を圧迫して生じる排出障害。
診断へのプロセス
尿路性器感染症は、「発熱の有無」と「痛みや症状の部位」で整理すると鑑別しやすい。膀胱や尿道といった管腔臓器の粘膜にとどまる感染では通常高熱は出ず、腎・前立腺・精巣上体などの実質臓器に及ぶと高熱と悪寒戦慄をきたす。本例は高熱があるので実質臓器の感染であり、そのうち会陰部不快感と排尿困難(尿の出にくさ)を伴うものは急性前立腺炎である。急性腎盂腎炎なら腰背部痛や肋骨脊柱角(CVA)叩打痛、精巣炎・精巣上体炎なら陰嚢内容の腫脹・疼痛が前面に出るはずである。以上から急性(細菌性)前立腺炎が最も考えられる。
補足
急性前立腺炎が疑われる場合、直腸診では圧痛・熱感を伴う腫大した軟らかい前立腺を触れるが、強い前立腺マッサージは菌血症を誘発するおそれがあるため禁忌であり、愛護的な触診にとどめる。
選択肢考察
- ×a. 急性腎盂腎炎
誤り。急性腎盂腎炎も悪寒戦慄を伴う高熱をきたし、先行する膀胱炎症状を伴うことはあるが、局所症状は患側の腰背部痛やCVA叩打痛である。会陰部不快感や排尿困難(前立腺腫大による尿道の圧迫症状)は説明できない。
- ×b. 膀胱炎
誤り。急性膀胱炎は頻尿・排尿時痛・残尿感・恥骨上部の不快感を示すが、炎症が膀胱粘膜に限局するため通常は発熱しない。5日前からの症状は膀胱炎様であったとしても、悪寒戦慄を伴う高熱と会陰部不快感・排尿困難が加わった現在の病像は膀胱炎単独では説明できない。
- ×c. 尿道炎
誤り。尿道炎は淋菌やクラミジアなどによる性感染症として若年男性に多く、排尿時痛と尿道分泌物(膿性・漿液性)が主症状で、通常高熱は伴わない。高熱と会陰部不快感・排尿困難を示す本例には合わない。
- ○d. 前立腺炎
正解。急性細菌性前立腺炎は、大腸菌などのグラム陰性桿菌が尿道から逆行性に前立腺に感染して起こる。悪寒戦慄を伴う高熱、会陰部の痛み・不快感、頻尿・排尿時痛などの膀胱刺激症状、前立腺腫脹による排尿困難(ときに尿閉)を示し、本例の症状がすべて説明できる。高齢男性では前立腺肥大症や残尿が感染の背景になりやすい。
- ×e. 精巣炎
誤り。精巣炎は多くがムンプスウイルス感染(流行性耳下腺炎)に伴い、耳下腺腫脹に続いて発熱と陰嚢の腫脹・疼痛をきたす。頻尿・排尿時痛・排尿困難といった排尿症状は伴わない。なお、尿路感染から波及する陰嚢内の細菌感染は精巣炎より急性精巣上体炎の形をとることが多く、その場合も陰嚢内容の腫脹・圧痛が主体となる。本例には陰嚢所見の記載がない。
尿路性器感染症の鑑別:発熱と症状部位
・急性膀胱炎:頻尿・排尿時痛・残尿感・恥骨上部痛。発熱なし。若年~中年女性に多い。 ・尿道炎:排尿時痛・尿道分泌物。発熱なし。性感染症(淋菌、クラミジア)が多い。 ・急性腎盂腎炎:高熱、悪寒戦慄、腰背部痛、CVA叩打痛。膀胱炎症状が先行することがある。 ・急性前立腺炎:高熱、悪寒戦慄、会陰部痛、膀胱刺激症状、排尿困難・尿閉。直腸診で圧痛を伴う腫大した前立腺。 ・急性精巣上体炎:発熱、陰嚢内容(精巣上体)の腫脹・疼痛。若年では性感染症、高齢では尿路感染由来の大腸菌などが多い。 ・精巣炎:ムンプス罹患後(耳下腺腫脹の数日後)に多い。陰嚢の腫脹・疼痛。思春期以降の両側罹患では男性不妊の原因となりうる。
急性細菌性前立腺炎の要点
・起炎菌:大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌が大半。 ・誘因:前立腺肥大症による残尿、尿道カテーテル留置、経直腸的前立腺生検などの尿路操作。 ・検査:尿検査で膿尿・細菌尿、血液検査で白血球増多・CRP上昇、血清PSA(前立腺特異抗原)の一過性上昇がみられることがある。菌血症を伴いやすく血液培養も行う。 ・直腸診:前立腺は腫大・軟化し、強い圧痛・熱感を伴う。前立腺マッサージは菌血症を誘発するため禁忌。 ・治療:前立腺組織への移行性がよい抗菌薬(ニューキノロン系など)や、重症例ではセフェム系などの注射薬を用い、比較的長期(数週間)投与する。尿閉を伴えば導尿や膀胱瘻で尿路を確保する。膿瘍形成時はドレナージを考慮する。
前立腺炎の分類(NIH分類)
Ⅰ型:急性細菌性前立腺炎、Ⅱ型:慢性細菌性前立腺炎、Ⅲ型:慢性非細菌性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群、Ⅳ型:無症候性炎症性前立腺炎。
POINT
・膀胱炎・尿道炎は原則として発熱しない。高熱なら腎盂腎炎・前立腺炎・精巣上体炎など実質臓器の感染を考える。 ・高熱+会陰部痛+排尿困難+膀胱刺激症状 → 急性前立腺炎。 ・腎盂腎炎は腰背部痛・CVA叩打痛、精巣炎・精巣上体炎は陰嚢内容の腫脹・疼痛が手がかり。 ・急性前立腺炎では前立腺マッサージは禁忌。
