B型肝炎でも「特別扱い」はいらない―標準予防策こそが最強の感染対策
第102回医師国家試験 H問題 第14問
国試問題にチャレンジ
HBs抗原陽性の入院患者を診療する際の感染対策として必ず行うのはどれか。
- a.病室を個室にする。
- b.病室に入るときはガウンを着る。
- c.病室に入るときはスリッパに履き替える。
- d.採血するときは手袋をする。
- e.使用済み注射針はリキャップして廃棄する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染する血液媒介感染であり、飛沫・空気・通常の接触では広がらないため、対策の基本はすべての患者に適用する標準予防策です。採血など血液に触れる可能性のある処置では必ず手袋を着用し、使用済み注射針はリキャップせずに専用廃棄容器へ直ちに捨てます。個室隔離や入室時のガウン着用は空気・飛沫・接触感染に対する感染経路別予防策であり、HBs抗原陽性というだけでは通常不要で、スリッパへの履き替えはどの感染症でも意味がありません。針刺し後の感染率はB型肝炎ウイルスが最も高く、未接種・抗体陰性者には抗HBsヒト免疫グロブリンとワクチンで対応するため、医療者自身の事前のワクチン接種が重要です。「病原体の感染経路」と「処置の内容」で防護策を決める考え方は、あらゆる院内感染対策の土台となります。
解答・解説
正解はdです
HBs抗原陽性とは、B型肝炎ウイルス(HBV)に現在感染していることを示す。HBVの主な感染経路は血液や体液を介した感染(血液媒介感染)であり、医療現場では針刺しや、傷のある皮膚・粘膜への血液の付着によって感染する。一方、咳やくしゃみのしぶき(飛沫)、空気中を漂う微粒子(空気感染)、通常の接触で感染が広がることはない。 院内感染対策は二段構えで考える。 1. 標準予防策(スタンダードプリコーション):感染症の有無にかかわらず、すべての患者の血液・体液(汗を除く)・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜を「感染の可能性があるもの」とみなして扱う。手指衛生、血液などに触れる可能性があるときの手袋着用、しぶきが飛ぶおそれのあるときのガウン・マスク・ゴーグル着用、鋭利器材の安全な取り扱いなどが含まれる。 2. 感染経路別予防策:標準予防策に加えて、病原体の感染経路(接触・飛沫・空気)に応じて追加する対策。個室隔離や入室時のガウン着用などがこれに当たる。 HBVは血液媒介感染であるため、標準予防策をきちんと守ることで対応でき、感染経路別予防策(個室隔離やガウン着用)は通常必要ない。したがって「必ず行う」対策は、標準予防策の中核である「血液に触れるときの手袋着用」であり、採血時の手袋着用が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 病室を個室にする。
個室隔離は、空気感染(結核、麻疹、水痘など)、飛沫感染(インフルエンザなど)、接触感染(MRSAなどの薬剤耐性菌、ノロウイルスなど)の感染経路別予防策として行う。HBVは同じ部屋にいるだけでは感染しないため、HBs抗原陽性というだけで個室にする必要はない。大量の出血があり周囲を汚染するおそれがあるなど、特別な事情があれば個室を考慮することはある。
- ×b. 病室に入るときはガウンを着る。
入室時に一律にガウンを着るのは、接触感染する病原体(MRSA、多剤耐性菌、Clostridioides difficileなど)への接触予防策である。HBVは接触で広がる病原体ではないため、入室のたびにガウンを着る必要はない。ただし標準予防策として、処置中に血液や体液が衣服に飛び散るおそれがあるときには、どの患者でもガウン(エプロン)を着用する。
- ×c. 病室に入るときはスリッパに履き替える。
床には微生物が存在するものの、床に手で直接触れる機会はほとんどなく、床から患者や医療者へ感染が広がることはまずない。そのため、どの感染症であってもスリッパへの履き替えは感染対策として意味がない。かえって履き替えの際に手が汚染されたり、転倒の原因になったりするため、行うべきではない。
- ○d. 採血するときは手袋をする。
採血時の手袋着用は、手指が血液で汚染されることを防ぐ標準予防策の基本であり、HBs抗原陽性患者に限らず、すべての患者に対して必ず行う。手に小さな傷があっても血液の侵入を防げる。さらに、万一針刺しが起きた場合でも、針の外側についた血液の一部が手袋を貫くときにぬぐい取られるため、体内に入る血液量が減り、感染のリスクを下げる効果もある。手袋を外した後も手指衛生を行う。
- ×e. 使用済み注射針はリキャップして廃棄する。
使用済み注射針に両手でキャップをかぶせ直す(リキャップ)ときに、キャップを持つ手を刺してしまう針刺し事故が非常に多い。そのため、使用済みの針はリキャップせず、その場ですぐに貫通しにくい専用の廃棄容器に捨てるのが原則である。リキャップして廃棄することは誤りであり、医療安全上してはならない行為(禁忌)として重要である。
標準予防策の主な内容
・手指衛生:患者に触れる前後、清潔・無菌操作の前、体液に触れた可能性があるとき、患者の周囲の物に触れた後に行う(WHOの「手指衛生の5つのタイミング」)。 ・個人防護具:血液・体液に触れるおそれがあるときは手袋、しぶきが飛ぶおそれがあるときはマスク・ゴーグル・ガウン(エプロン)を着用する。 ・鋭利器材の取り扱い:リキャップ禁止、使用後すぐに専用廃棄容器へ捨てる、安全装置付き器材を使う。 ・呼吸器衛生・咳エチケット、環境整備、リネンの適切な取り扱いなど。
感染経路別予防策の例
・空気予防策:結核、麻疹、水痘。陰圧個室、N95マスク。 ・飛沫予防策:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、マイコプラズマなど。個室または集団隔離、サージカルマスク。 ・接触予防策:MRSA、多剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬など。個室、手袋・ガウン。 ・血液媒介感染(HBV、HCV、HIV)は標準予防策で対応する。
針刺し事故後の感染率の目安と対応
・感染率:HBV(特にHBe抗原陽性の血液)では約30%、HCVは約2%、HIVは約0.3%とされ、HBVが最も感染しやすい。 ・直後の対応:刺した部位を流水と石けんで十分に洗い、速やかに上司・感染対策部門に報告する。 ・HBVの場合:受傷者のHBs抗体の有無を確認する。ワクチンを受けておらずHBs抗体が陰性であれば、なるべく早く(24時間以内が望ましく、遅くとも48時間以内)抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を投与し、あわせてB型肝炎ワクチンの接種を始める。 ・予防の基本は、医療従事者があらかじめB型肝炎ワクチンを接種し、HBs抗体の獲得を確認しておくことである。
POINT
・HBVは血液媒介感染であり、飛沫・空気・通常の接触では感染しない。対策は標準予防策が基本で、個室隔離やガウン着用は通常不要である。 ・標準予防策はすべての患者に適用する。採血など血液に触れる可能性がある処置では必ず手袋を着用する。 ・使用済み注射針はリキャップせず、ただちに専用廃棄容器に捨てる(リキャップは禁忌)。 ・スリッパへの履き替えは、どの感染症でも感染対策として意味がない。 ・針刺しによる感染率はHBV約30% > HCV約2% > HIV約0.3%である。
