流産を繰り返す理由は一つとは限らない―転座保因者の「次の妊娠」に備える2つの準備
第100回医師国家試験 H問題 第3問
国試問題にチャレンジ
27歳の女性。反復する流産を主訴に来院した。妊娠6週,10週および15週で自然流産の既往がある。染色体検査の結果,13番と18番との染色体に相互転座が認められた。 次の妊娠に向けて必要なのはどれか。2つ選べ。
- a.遺伝カウンセリング
- b.母体血清マーカー測定
- c.間接Coombs試験
- d.子宮卵管造影
- e.夫リンパ球輸血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠22週未満の流産を3回以上連続して繰り返す習慣流産では、夫婦の染色体、子宮形態、抗リン脂質抗体、内分泌・凝固異常などを系統的に検索します。均衡型相互転座の保因者は本人は健常でも、減数分裂時の不均衡な分離により流産や不均衡型染色体異常児の出生につながりうるため、遺伝カウンセリングで次回妊娠のリスクと、出生前診断や着床前遺伝学的検査などの選択肢を説明し、自己決定を支援します。また原因が一つ見つかっても他の原因の併存を否定する必要があり、子宮卵管造影で中隔子宮などの子宮形態異常を評価します。母体血清マーカーは妊娠成立後の検査であり、間接Coombs試験は血液型不適合妊娠の評価、夫リンパ球輸血は有効性が否定的で現在は推奨されません。不育症診療では「原因を系統的に探すこと」と「患者の意思決定と心理を支えること」の両方が求められます。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・27歳女性、妊娠6週・10週・15週と3回連続の自然流産 ・染色体検査で13番と18番染色体の相互転座を認める
診断
妊娠22週未満の流産を3回以上連続して繰り返す状態を習慣流産(反復流産は2回以上)といい、妊娠は成立するが生児が得られない状態を広く不育症と呼ぶ。本例は3回連続の流産であり習慣流産に該当する。さらに染色体検査で均衡型相互転座が見つかっており、転座保因者であることが流産を繰り返す主な原因と考えられる。 均衡型相互転座の保因者自身は、遺伝子の過不足がないため通常は表現型に異常がない。しかし減数分裂の際に転座染色体と正常染色体の分配が偏ると、配偶子に染色体の部分的な過剰(部分トリソミー)や欠失(部分モノソミー)が生じ、そのような受精卵の多くは早期に流産となる。一方で、正常核型あるいは均衡型の配偶子由来の妊娠は継続し、生児を得ることも十分可能である。
次の妊娠に向けて考えるべきこと
1. 転座保因者であることの意味、次回妊娠での流産や不均衡型染色体異常児のリスク、出生前診断や着床前検査の選択肢などを本人(とパートナー)が理解し、自らの意思で選択できるよう支援する必要がある。これが遺伝カウンセリングである。 2. 習慣流産の原因は一つとは限らない。染色体異常が見つかっても、他の原因(子宮形態異常、抗リン脂質抗体症候群、内分泌異常など)が併存していないかを評価するのが不育症診療の基本である。本例は妊娠15週という比較的遅い時期の流産も含んでおり、子宮奇形などの子宮因子を否定しておくことは重要である。子宮形態の評価として子宮卵管造影が挙げられる。 選択肢のうち、妊娠してから行う検査や、本例の病態と関連の乏しい検査・治療を除外すると、遺伝カウンセリングと子宮卵管造影が残る。
選択肢考察
- ○a. 遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングとは、遺伝性疾患の患者やその可能性のある人・家族に対し、遺伝学的な情報を医学的根拠に基づいてわかりやすく提供し、本人が生活設計上の選択を自らの意思で決定できるよう支援する診療行為である。本例は均衡型相互転座の保因者であり、次回妊娠でも流産や不均衡型転座をもつ児の出生の可能性があること、一方で健常児を得られる可能性も十分あることを説明する必要がある。あわせて、絨毛検査・羊水検査などの出生前診断や、着床前遺伝学的検査(PGT)などの選択肢についても情報提供する。家系内の他の血縁者も保因者である可能性があり、その扱いについても相談の対象となる。次の妊娠に向けて必須の対応である。
- ×b. 母体血清マーカー測定
母体血清マーカー検査は、妊娠中の母体血中のα-フェトプロテイン(AFP)、hCG、非抱合型エストリオール(uE3)、インヒビンAなどを測定し、胎児の21トリソミー、18トリソミー、開放性神経管奇形などの確率を推定する非確定的な出生前検査である(通常は妊娠15〜18週頃に行う)。妊娠が成立して初めて意味をもつ検査であり、妊娠前に行う意義はない。また確率を算出するにすぎないため、転座保因者の胎児の染色体を確定することもできない。妊娠前の準備として必要なものではない。
- ×c. 間接Coombs試験
間接Coombs試験は、血清中に赤血球に対する不規則抗体(抗D抗体など)が存在するかを調べる検査で、Rh(D)不適合妊娠などの血液型不適合妊娠の評価に用いられる。血液型不適合による胎児障害は胎児溶血性貧血・胎児水腫として主に妊娠中期以降に問題となり、また通常は初回妊娠よりも感作後の妊娠で起こる。本例のような妊娠初期中心の流産の反復とは病態が合わず、しかも原因として染色体転座が判明しているため、次の妊娠に向けて必要な検査とはいえない。
- ○d. 子宮卵管造影
子宮卵管造影(HSG)は、子宮頸管から造影剤を注入してX線撮影し、子宮内腔の形態と卵管の通過性を評価する検査である。習慣流産・不育症の検査では、中隔子宮・双角子宮・単角子宮・重複子宮などの子宮形態異常や、粘膜下筋腫、子宮内腔癒着などの子宮因子の検索が基本項目となる。特に中隔子宮は流産との関連が強く、手術(子宮鏡下中隔切除)で改善が期待できる。染色体転座が見つかったからといって他の原因がないとは限らず、本例は妊娠15週の流産も含むため、子宮因子の評価を行っておく意義がある。なお子宮形態の評価には、経腟超音波(3D超音波を含む)、ソノヒステログラフィ、MRIなども用いられる。
- ×e. 夫リンパ球輸血
夫リンパ球輸血(夫リンパ球免疫療法)は、夫婦間のHLA(ヒト白血球抗原)の類似性が高いために母体が胎児を異物として認識する免疫反応(遮断抗体産生)が十分に起こらず流産するという仮説に基づき、原因不明の習慣流産に対して行われた時期があった。しかしその後の比較試験で有効性が否定的とされ、輸血に伴う感染や移植片対宿主病(GVHD)などのリスクもあるため、現在は推奨されていない。また本例は染色体転座という原因が明らかであり、免疫学的治療の対象ではない。
流産・不育症の用語
・流産:妊娠22週未満の妊娠の終結 ・反復流産:2回以上連続する流産 ・習慣流産:3回以上連続する流産 ・不育症:妊娠は成立するが、流産・死産を繰り返して生児が得られない状態
不育症の主な原因と検査
・夫婦の染色体異常(均衡型転座など):夫婦の染色体検査(G分染法) ・子宮形態異常(中隔子宮、双角子宮など):経腟超音波、子宮卵管造影、子宮鏡、MRI ・抗リン脂質抗体症候群:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体 ・内分泌異常:甲状腺機能異常、糖尿病など ・凝固異常:プロテインS・プロテインC・第XII因子欠乏など 実際には検査を尽くしても原因が特定できない例が半数以上を占め、その多くは胎児側の偶発的な染色体異常によると考えられる。原因不明例でも、次回妊娠で生児を得られる確率は比較的高い。
均衡型相互転座と生殖
2本の異なる染色体の一部が互いに入れ替わった状態を相互転座という。遺伝情報の過不足がない均衡型では保因者本人は通常健常であるが、配偶子形成時の分離によって不均衡型の配偶子が生じ、流産や不均衡型染色体異常児の出生につながりうる。流産を繰り返す夫婦の数%にこのような構造異常が見つかる。保因者であっても、自然妊娠で最終的に生児を得る割合は比較的高いとされる。対応としては、遺伝カウンセリングのうえで、自然妊娠を試みる、出生前診断(絨毛検査・羊水検査)を行う、体外受精で胚の染色体を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-SR)を検討する、などの選択肢がある。
出生前検査の分類
・非確定的検査:母体血清マーカー検査、NIPT(母体血を用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査)、超音波によるNT計測など ・確定的検査:絨毛検査(妊娠11〜14週頃)、羊水検査(妊娠15〜16週以降) いずれも妊娠成立後に行う検査である。
POINT
・3回以上連続する流産は習慣流産。夫婦の染色体、子宮形態、抗リン脂質抗体、内分泌異常などを系統的に検索する。 ・均衡型転座保因者には遺伝カウンセリングを行い、次回妊娠のリスクと出生前診断・着床前検査などの選択肢を説明する。 ・一つの原因が見つかっても、他の原因(子宮形態異常など)の評価は怠らない。子宮卵管造影で子宮奇形を確認する。 ・母体血清マーカーは妊娠成立後に行う検査で、妊娠前には意味がない。 ・夫リンパ球輸血は有効性が否定的で、現在は推奨されない。
