StudyMed医師国家試験

2.5マイクロメートルの侵入者―PM2.5はなぜ肺の奥まで届くのか

第110回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第8問

微小粒子状物質のうちPM 2.5について正しいのはどれか。

  1. a.肺胞まで到達する。
  2. b.炎症を起こさない。
  3. c.2.5 ng以下の物質をいう。
  4. d.たばこの煙には含まれない。
  5. e.大気中濃度の季節変動は小さい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大気汚染物質のPM2.5についての問題だ。ポイントは4つ。「2.5」が何の数字なのか、体のどこまで届いて何を起こすのか、どこから発生するのか、そして濃度がどう変動するのか。この観点で選択肢を見ていけば迷わないよ。
医学生医学生
ニュースではよく聞きますが、改めて聞かれると「小さい粒」くらいの理解しかありません。
ドクタードクター
それが出発点で大丈夫。PM2.5は大気中に浮遊する粒子のうち、粒径がおおむね2.5μm以下のものを指す。日本では粒径10μm以下の粒子を浮遊粒子状物質、SPMと呼んでいて、PM2.5はその中でも特に細かい成分なんだ。
医学生医学生
2.5は大きさなんですね。選択肢に2.5 ng以下とありましたが、ngは重さの単位なので違いますね。
ドクタードクター
その通り。単位をすり替えたひっかけだね。ちなみに大気中濃度は質量濃度のμg/m³で表すから、重さの単位が出てくるのはそちらの話。日本の環境基準は1年平均値15μg/m³以下かつ1日平均値35μg/m³以下だ。
医学生医学生
長さと濃度の単位が混ざっていると、確かに引っかかりそうです。
ドクタードクター
では次に、粒子がどこまで入り込むか。生理学で習った気道の防御機構を思い出してみよう。
医学生医学生
鼻毛や鼻腔の粘膜で大きな粒子を捕まえて、気管支では粘液と線毛運動で外に運び出すんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。数μm以上の粒子はそうした場所で捕まって、線毛運動や咳で排出されやすい。でも2.5μm以下の粒子はその網をすり抜けて、呼吸細気管支から肺胞の深部まで到達して沈着するんだ。
医学生医学生
だから肺胞まで到達する、が正解なんですね。小さいほど奥まで入るというのは直感的にもわかります。
ドクタードクター
そう。しかも肺胞には線毛がないから、沈着した粒子は除去されにくい。そこで次の選択肢、炎症を起こさないというのはどうだろう。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、PM2.5の多い日に喘息の患者さんの外来が増えると聞きました。炎症は起こすと思います。
ドクタードクター
良い臨床感覚だ。肺胞に沈着した粒子は肺胞マクロファージなどを刺激して、炎症性サイトカインの産生や酸化ストレスを引き起こす。喘息やCOPDの増悪、長期的には肺癌のリスク上昇との関連が疫学的に示されている。さらにごく小さな粒子は血中へ移行するとも考えられていて、全身性の炎症を介して虚血性心疾患や脳卒中など循環器疾患の増加にも関わるとされているんだ。
医学生医学生
呼吸器だけでなく循環器にも影響するのは意外でした。たばこの煙はどうでしょう。煙は気体のイメージですが。
ドクタードクター
煙は燃焼で生じた微小粒子の集まりで、たばこの煙はPM2.5を多量に含む。喫煙が許された屋内では、PM2.5濃度が屋外の環境基準を大きく上回ることが知られていて、受動喫煙対策の根拠の一つにもなっている。だから含まれないという記述は誤りだ。
医学生医学生
そう考えると、受動喫煙は屋内でPM2.5を吸い込むのと同じことなんですね。最後の季節変動はどうですか。
ドクタードクター
これも誤り。PM2.5の濃度は季節や地域で大きく変わる。日本では春に黄砂や大陸からの越境大気汚染の影響で上がりやすく、特に西日本や日本海側で目立つ。夏には光化学反応でできる二次生成粒子が増えることもあるし、風向きや逆転層など気象条件でも日々変動する。
医学生医学生
二次生成というのは、排出されたあとで粒子になるということですか。
ドクタードクター
そう。工場のばい煙や自動車排ガス、たばこの煙のように直接出てくる一次生成粒子に対して、硫黄酸化物や窒素酸化物、揮発性有機化合物といったガスが大気中で化学反応して粒子化したものを二次生成粒子と呼ぶ。発生源が多様だからこそ、濃度は一定にならないんだ。臨床では、環境省がPM2.5の日平均値が70μg/m³を超えると予測される日に、不要不急の外出や屋外での激しい運動を控えるよう注意喚起する暫定指針を出していることも覚えておくといい。喘息やCOPD、心疾患の患者さんへの生活指導に使える知識だよ。
医学生医学生
粒の大きさが届く場所を決めて、届く場所が健康影響を決める、という流れで整理できました。

まとめ

PM2.5は大気中に浮遊する粒径2.5μm以下の微小粒子で、「2.5」は質量ではなく粒子の大きさを表し、濃度はμg/m³で示されます(環境基準は1年平均値15μg/m³以下かつ1日平均値35μg/m³以下)。粒径が小さいため鼻腔や気管支の粘液線毛クリアランスをすり抜けて肺胞まで到達・沈着し、炎症や酸化ストレスを介して喘息・COPDの増悪、肺癌、さらには循環器疾患のリスク上昇に関わります。発生源は工場や自動車などの燃焼、ガスからの二次生成、黄砂などと多様で、たばこの煙にも多く含まれ、濃度は春の越境汚染・黄砂や気象条件によって季節・地域で大きく変動します。粒径が到達部位を決め、到達部位が健康影響を決めるという考え方は、大気汚染物質全般の理解や、呼吸器・循環器疾患患者への生活指導の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

PM2.5(微小粒子状物質)とは、大気中に浮遊する粒子のうち、空気動力学的な粒径がおおむね2.5μm(マイクロメートル)以下のものを指す。より大きな粒子を含む浮遊粒子状物質〈SPM:suspended particulate matter、粒径10μm以下〉の中でも、とくに細かい成分にあたる。 粒子が気道のどこまで入り込むかは、粒径によっておおよそ決まる。数μm以上の粒子は鼻腔・咽頭や太い気管支の粘膜に捕らえられ、線毛運動や咳で排出されやすい。これに対し、2.5μm以下の粒子は上気道や気管支での捕捉を逃れ、末梢の細気管支から肺胞領域まで到達・沈着する。肺胞に沈着した粒子は除去されにくく、局所の炎症や酸化ストレスを引き起こし、さらにごく小さな粒子は血中へ移行して全身にも影響すると考えられている。 本問では、①粒径の単位(μmであり質量の単位ngではない)、②到達部位と健康影響(肺胞まで届き炎症を起こす)、③発生源(喫煙を含む燃焼由来)、④濃度の変動(季節・地域で大きく変動する)という4つの観点から各選択肢を検討すればよい。

選択肢考察

  1. ○a.  肺胞まで到達する。

    粒径が2.5μm以下と非常に小さいため、鼻腔や気管支の粘膜による捕捉・粘液線毛クリアランスをすり抜け、呼吸細気管支から肺胞の深部にまで入り込んで沈着する。このため、より粗い粒子に比べて呼吸器への影響が大きい。

  2. ×b.  炎症を起こさない。

    誤り。肺胞に沈着したPM2.5は肺胞マクロファージなどを刺激して炎症性サイトカインの産生や酸化ストレスを招き、気道・肺の炎症を引き起こす。疫学研究では、喘息や慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の増悪、肺癌、さらに全身性炎症を介した虚血性心疾患・脳卒中などの循環器疾患の増加や死亡リスクの上昇との関連が示されている。

  3. ×c.  2.5 ng以下の物質をいう。

    誤り。PM2.5の「2.5」は粒子の大きさ(粒径)を示しており、2.5μm以下の粒子をいう。ng(ナノグラム)は質量の単位であり定義として誤っている。なお、大気中濃度は質量濃度μg/m³で表され、日本の環境基準は1年平均値15μg/m³以下かつ1日平均値35μg/m³以下である。

  4. ×d.  たばこの煙には含まれない。

    誤り。たばこの煙は燃焼によって生じる微小粒子の集まりであり、PM2.5を多量に含む。喫煙が許された屋内では、PM2.5濃度が屋外の環境基準を大きく上回ることが知られており、受動喫煙対策の根拠の一つにもなっている。

  5. ×e.  大気中濃度の季節変動は小さい。

    誤り。PM2.5の大気中濃度は季節や地域によって大きく変動する。わが国では、春季に黄砂や大陸からの越境大気汚染の影響で上昇しやすく、とくに西日本や日本海側で影響が目立つ。夏季には光化学反応による二次生成粒子が増えることもあり、気象条件(風向き・逆転層など)によっても日々変動する。

PM2.5の発生源と成分

・一次生成粒子:ボイラーや焼却炉などのばい煙発生施設、粉じん発生施設、自動車排ガス(とくにディーゼル車)、船舶、航空機、たばこの煙、調理などから直接排出される粒子。土壌粒子、海塩、火山などの自然由来のものもある。 ・二次生成粒子:硫黄酸化物〈SOx〉、窒素酸化物〈NOx〉、揮発性有機化合物〈VOC〉などのガス状物質が、大気中で光化学反応などにより粒子化したもの。 ・主な成分は硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、炭素成分(元素状炭素・有機炭素)、金属などである。

浮遊粒子状物質〈SPM〉との関係

・SPMは粒径10μm以下の粒子(日本の定義)で、PM2.5はそのうち粒径2.5μm以下の部分にあたる。 ・粒径が小さいほど肺の深部に到達しやすく、健康影響が大きいことから、2009年にPM2.5の環境基準が新たに設定された。

大気汚染に係る環境基準

環境基本法に基づく大気の環境基準は、二酸化硫黄〈SO2〉、一酸化炭素〈CO〉、浮遊粒子状物質〈SPM〉、二酸化窒素〈NO2〉、光化学オキシダント、微小粒子状物質〈PM2.5〉の6物質と、有害大気汚染物質であるベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンの4物質に設定されている。これにダイオキシン類対策特別措置法に基づくダイオキシン類を加えると11物質となる。

健康影響と対応

・短期曝露:呼吸器症状の悪化、喘息発作、COPD増悪、循環器疾患による入院の増加。 ・長期曝露:肺癌、循環器疾患による死亡の増加。 ・環境省は、日平均値が70μg/m³を超えると予測される日に不要不急の外出や屋外での激しい運動を控えるよう注意喚起する暫定的な指針を示している。

POINT

・PM2.5は粒径2.5μm以下の微小粒子(単位は長さのμm)。 ・小さいため肺胞まで到達し、炎症を起こして呼吸器・循環器疾患や肺癌のリスクを高める。 ・発生源は工場・自動車などの燃焼、二次生成、黄砂など。たばこの煙にも多く含まれる。 ・濃度は季節・地域で大きく変動し、春季は越境汚染・黄砂で上昇しやすい。 ・環境基準:1年平均値15μg/m³以下かつ1日平均値35μg/m³以下。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。