シックハウスを防ぐ化学物質の規制―建材に基準があるのはどれか
第105回医師国家試験 E問題 第14問
国試問題にチャレンジ
居住環境を守る観点から建築材料に法定基準があるのはどれか。
- a.アセトン
- b.塩化ビニル
- c.エチルアルコール
- d.ホルムアルデヒド
- e.シアン化ナトリウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
シックハウス症候群は、住宅の高気密化と新建材の普及を背景に、室内に放散された化学物質によって目・鼻・のどの刺激症状、頭痛、倦怠感などが起こる健康障害です。2003年施行の改正建築基準法では、クロルピリホスの使用禁止とともに、ホルムアルデヒドについて放散量に応じた建材の等級区分(F☆☆☆☆は制限なし)と使用面積の制限、機械換気設備の設置義務が定められました。塩化ビニルやアセトンは労働衛生の規則、シアン化ナトリウムは毒物及び劇物取締法や水質基準で規制される物質であり、建材の法定基準の対象ではありません。ホルムアルデヒドの室内濃度指針値は100 μg/m³(約0.08 ppm)です。同じ有害物質でも、誰を何から守るための規制かという視点で法律を整理すると、公衆衛生の知識が確実に身につきます。
解答・解説
正解はdです
本問は、住宅の室内空気汚染による健康障害であるシックハウス症候群と、その対策として整備された法規制を問うている。 1990年代以降、住宅の高気密化と、接着剤・塗料などを含む新建材の普及によって、建材や家具から放散される化学物質が室内にこもり、目・鼻・のどの刺激症状、頭痛、倦怠感、皮膚症状などを起こす例が社会問題となった。これをシックハウス症候群と呼ぶ。 これを受けて建築基準法が改正され(2003年7月1日施行)、シックハウス対策として二つの化学物質が規制対象となった。一つは防蟻剤(シロアリ駆除剤)として使われていた有機リン系殺虫剤のクロルピリホスで、居室を有する建築物への使用が禁止された。もう一つが合板・パーティクルボード・壁紙用接着剤などから放散されるホルムアルデヒドで、内装仕上げに用いる建材の放散量に応じた等級区分と使用面積の制限、さらに原則としてすべての建築物への機械換気設備(24時間換気)の設置義務づけが定められた。 したがって、選択肢の中で「居住環境を守る観点から建築材料に法定基準がある」物質はホルムアルデヒドである。他の物質は、職場の労働衛生や毒物管理、環境・水質などの別の枠組みで規制されることはあっても、建築材料に関する法定基準の対象ではない。
選択肢考察
- ×a. アセトン
アセトンは揮発性の有機溶剤で、マニキュア除去液や工業用洗浄剤などに用いられる。労働現場では有機溶剤中毒予防規則の対象として作業環境管理が求められるが、建築材料からの放散を規制する法定基準は設けられていない。
- ×b. 塩化ビニル
塩化ビニル(モノマー)はポリ塩化ビニル(PVC)の原料となる気体で、ヒトに対する発がん性(肝血管肉腫)が知られている。そのため労働安全衛生法の特定化学物質障害予防規則による職業曝露の管理や、環境基準(地下水など)の対象になっているが、建築基準法に基づく建材の規制物質ではない。PVC製の床材や壁紙自体は広く建材として使われている。
- ×c. エチルアルコール
エチルアルコール(エタノール)は飲料・消毒薬・溶剤として日常的に用いられる。揮発性ではあるが、居住環境保護の観点から建築材料に含有・放散の法定基準が設けられている物質ではない。
- ○d. ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドは刺激臭のある無色の気体で、合板やパーティクルボードの接着剤(ユリア樹脂・メラミン樹脂・フェノール樹脂など)、壁紙の接着剤などから室内へ放散し、シックハウス症候群の代表的な原因物質とされる。目や上気道の粘膜刺激を起こし、発がん性も指摘されている。2003年施行の改正建築基準法により、ホルムアルデヒド発散建築材料は放散量に応じて区分され、居室の内装仕上げへの使用が制限されている(放散量が最も少ない等級はF☆☆☆☆と表示され、面積制限を受けない)。あわせて機械換気設備の設置が義務づけられた。
- ×e. シアン化ナトリウム
シアン化ナトリウム(青酸ソーダ)は、めっきや金属精錬に用いられる猛毒物質で、ミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼを阻害して細胞呼吸を障害する。毒物及び劇物取締法の毒物に指定され、水道水質基準などでシアン化物として規制されているが、建築材料についての法定基準の対象ではない。
シックハウス症候群
住宅の室内空気中の化学物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物〈VOC〉)やダニ・カビなどへの曝露によって生じる健康障害の総称である。症状は目・鼻・のどの刺激感、頭痛、めまい、倦怠感、皮膚炎など多彩で、原因となる住居を離れると軽快することが多い。高気密・高断熱化により換気量が減ったことが背景にある。
建築基準法によるシックハウス対策(2003年7月施行)
・クロルピリホス(有機リン系防蟻剤):居室を有する建築物への使用禁止。 ・ホルムアルデヒド: ① 内装仕上げ材の制限(放散量による等級区分。F☆☆☆☆は制限なし、F☆☆☆・F☆☆は使用面積を制限、それ以下は使用禁止) ② 換気設備の設置義務(住宅の居室では換気回数0.5回/時以上の機械換気設備〈いわゆる24時間換気〉) ③ 天井裏などの下地材からの流入防止措置
室内濃度指針値
厚生労働省は、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンなど十数種類の化学物質について室内濃度指針値を定めている。ホルムアルデヒドの指針値は100 μg/m³(約0.08 ppm)である。また、学校環境衛生基準でも教室内のホルムアルデヒドなどの濃度基準が定められている。
混同しやすい関連法規
・有機溶剤中毒予防規則:アセトン、トルエンなど(労働者保護)。 ・特定化学物質障害予防規則:塩化ビニル、ホルムアルデヒドなど(労働者保護)。 ・毒物及び劇物取締法:シアン化ナトリウムなど。 ホルムアルデヒドは労働衛生でも特定化学物質として管理されるが、「居住環境」「建築材料」という観点で法定基準があるのはホルムアルデヒドである点がポイントである。
POINT
・シックハウス症候群の代表的原因物質はホルムアルデヒドである。 ・2003年施行の改正建築基準法で、クロルピリホスは使用禁止、ホルムアルデヒドは建材の使用制限と機械換気設備の設置義務が定められた。 ・ホルムアルデヒドの室内濃度指針値は100 μg/m³(約0.08 ppm)である。
