StudyMed医師国家試験

胎盤を越える薬、越えない薬―ワルファリンが胎児の脳を出血させる理由

第104回医師国家試験 A問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第17問

母体に投与した薬物と児への影響の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.インドメタシン ―― 呼吸抑制
  2. b.塩酸リトドリン ―― 動脈管収縮
  3. c.副腎皮質ステロイド ―― 新生児けいれん
  4. d.硫酸マグネシウム ―― 心筋肥厚
  5. e.ワルファリン ―― 脳出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊婦に投与した薬物が胎盤を通過して児にどんな影響を及ぼすかを問う問題だ。産科で使う薬は「何のために使うか」と「児に何が起こるか」をセットで覚えておくことが大切。実はこの選択肢、正しい影響が別の薬にすり替えられているものが多いんだ。まずはインドメタシンから考えよう。
医学生医学生
インドメタシンはNSAIDsですよね。呼吸抑制は……鎮痛薬だから、なんとなくありそうな気もします。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。インドメタシンはCOXを阻害してプロスタグランジンの産生を抑える。胎児の動脈管はプロスタグランジンEで開いた状態が保たれているから、インドメタシンが胎盤を通過すると動脈管が収縮・早期閉鎖して、胎児の肺高血圧や右心不全を招くおそれがある。さらに胎児の腎血流が落ちて尿が減り、羊水過少も起こすんだ。
医学生医学生
小児科の講義で、未熟児の動脈管開存症にインドメタシンを使って閉じると習いました。それが胎内で起きてしまうということですね。
ドクタードクター
まさにその裏返しだ。だから添付文書上、妊婦には禁忌とされている。新生児の呼吸抑制を起こす代表は硫酸マグネシウムや、分娩前に投与したオピオイド・ベンゾジアゼピン系薬だね。次は塩酸リトドリン。動脈管収縮との組合せはどうかな。
医学生医学生
リトドリンはβ2刺激薬で、切迫早産の点滴に使う薬です。産婦人科の実習で、妊婦さんが動悸を訴えていました。動脈管収縮はインドメタシンの特徴なので、これも入れ替えだと思います。
ドクタードクター
その通り。β刺激作用は胎児にも及ぶから胎児頻脈がみられるし、母体の高血糖に反応して胎児のインスリン分泌が増えることなどから、出生後に新生児低血糖を起こすことがある。母体側では頻脈、振戦、高血糖、低カリウム血症、肺水腫などに注意が必要だ。では副腎皮質ステロイドと新生児けいれんは?
医学生医学生
早産が差し迫ったときに、肺を成熟させるために母体に打つステロイドですよね。児にとってはむしろ良いことのはずです。
ドクタードクター
そうだね。ベタメタゾンなどを母体に投与すると、胎児肺でサーファクタントの産生が促されて、新生児呼吸窮迫症候群が減る。脳室内出血や壊死性腸炎、新生児死亡を減らす効果も示されている。新生児けいれんを起こす薬として知られているものではないよ。ただ、長期大量投与では胎児発育や新生児の副腎機能抑制に注意が必要だ。
医学生医学生
硫酸マグネシウムと心筋肥厚も、なんだか結びつきません。心筋肥厚というと、母体の糖尿病で見られる所見じゃなかったでしょうか。
ドクタードクター
よく覚えているね。児の心室中隔肥厚の代表的な原因は、母体の高血糖を受けた胎児の高インスリン血症だ。硫酸マグネシウムは子癇の予防・治療や子宮収縮抑制に使い、胎盤を通過するので新生児は高マグネシウム血症になって、筋緊張低下や呼吸抑制、哺乳不良をきたすことがある。さっきのインドメタシンの「呼吸抑制」は、本来こちらの特徴だったわけだ。
医学生医学生
そうすると、残るワルファリンと脳出血が正しい組合せですね。ワルファリンは催奇形性のイメージが強かったです。
ドクタードクター
正解。ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子の産生を抑える抗凝固薬で、分子量が小さいので容易に胎盤を通過する。胎児の肝臓はもともと凝固因子をつくる力が未熟だから、抗凝固作用を強く受けて、脳出血などの出血を起こしうる。分娩時に産道で頭が圧迫されることも、頭蓋内出血の危険を高めるんだ。そして君の言う通り、器官形成期に曝露すると、鼻の低形成や骨端の点状石灰化を特徴とするワルファリン胎芽病を起こす。
医学生医学生
だから妊娠中の抗凝固療法はヘパリンに切り替えるんですね。CBTの勉強で、ヘパリンは胎盤を通過しないと覚えました。
ドクタードクター
その通り。ヘパリンは分子量が大きいので胎盤をほとんど通過しない。同じ理由で、妊娠中の血糖管理には経口血糖降下薬ではなくインスリンを使うのが基本だ。胎盤通過性は分子量、脂溶性、蛋白結合率、イオン化の程度で決まる、と覚えておこう。
医学生医学生
妊娠のどの時期に飲んだかでも、影響の出方は変わりますよね。
ドクタードクター
大事なポイントだね。受精から約2週まではall or noneの時期で、影響を受ければ流産し、生き残れば奇形は残さないとされる。妊娠4〜7週頃は主要臓器が形成される絶対過敏期で、催奇形性に最も注意が必要だ。妊娠16週以降になると、奇形よりも動脈管の閉鎖や腎障害による羊水過少、出血といった機能障害が問題になる。臨床では、妊娠の可能性がある女性に薬を処方するとき、そして内科で抗凝固薬を飲んでいる女性が妊娠を希望したときに、こうした知識が直接役立つよ。
医学生医学生
ACE阻害薬で羊水過少、バルプロ酸で神経管閉鎖障害、というのも合わせて整理しておきます。
ドクタードクター
いいね。薬ごとに「作用機序から影響を予測する」習慣をつけると、入れ替え型の選択肢にも惑わされなくなるよ。

まとめ

母体に投与した薬物の多くは胎盤を通過し、胎児・新生児に影響を及ぼします。ワルファリンは分子量が小さく胎盤を通過し、凝固因子産生能が未熟な胎児で脳出血などの出血を起こすほか、器官形成期の曝露でワルファリン胎芽病をきたすため、妊娠中の抗凝固療法は胎盤を通過しないヘパリンで行います。インドメタシンは動脈管収縮・羊水過少、リトドリンは胎児頻脈・新生児低血糖、硫酸マグネシウムは新生児の筋緊張低下・呼吸抑制を起こし、母体へのステロイドは胎児肺成熟を促す有益な治療で、児の心筋肥厚は母体糖尿病の特徴です。薬物ごとに作用機序と胎児への影響を結びつけ、妊娠時期による影響の違いも合わせて理解しておくことが、安全な周産期の薬物治療につながります。

解答・解説

正解はeです

妊婦に投与した薬物が、胎盤を通過して胎児・新生児にどのような影響を及ぼすかを問う一般問題である。 産科で頻用される薬物について、「何のために使うか(適応)」と「児にどのような影響が出るか(副作用)」をセットで覚えておくことが重要である。本問の選択肢に並ぶ薬物を整理すると次のようになる。 ・インドメタシン:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。プロスタグランジン合成を阻害する。児では動脈管収縮・早期閉鎖、羊水過少が問題となる。 ・塩酸リトドリン:β2刺激薬で子宮収縮抑制薬。児では頻脈、新生児低血糖などが問題となる。 ・副腎皮質ステロイド:早産が予想されるときの胎児肺成熟促進を目的に母体へ投与する。児にとっては呼吸窮迫症候群などを減らす有益な治療である。 ・硫酸マグネシウム:子癇の予防・治療、子宮収縮抑制に用いる。児では高マグネシウム血症による筋緊張低下・呼吸抑制が問題となる。 ・ワルファリン:経口抗凝固薬。胎盤を通過し、器官形成期の催奇形性(ワルファリン胎芽病)や、胎児の出血(脳出血など)を起こす。 選択肢はいずれも、正しい影響が別の薬物の特徴にすり替えられた形になっている(例:動脈管収縮はリトドリンではなくインドメタシン、呼吸抑制はインドメタシンではなく硫酸マグネシウム)。薬物と影響の正しい対応を一つずつ確認すれば、ワルファリンと脳出血の組合せのみが正しいとわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  インドメタシン ―― 呼吸抑制

    誤った組合せである。インドメタシンはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジンの産生を抑えるNSAIDsで、かつては子宮収縮抑制や羊水過多の治療に用いられたことがある。胎児の動脈管はプロスタグランジンE(PGE)によって開存が保たれているため、インドメタシンが胎盤を通過すると動脈管が収縮・早期閉鎖し、胎児の肺高血圧、右心不全、胎児水腫を招くおそれがある。また胎児の腎血流が低下して尿量が減り、羊水過少を起こす。新生児では壊死性腸炎や頭蓋内出血との関連も指摘されている。これらの理由から、わが国の添付文書では妊婦への投与は禁忌とされている。新生児の呼吸抑制を起こす代表的な薬物は硫酸マグネシウムや、分娩前に投与されたオピオイド・ベンゾジアゼピン系薬などであり、インドメタシンの典型的な影響ではない。

  2. ×b.  塩酸リトドリン ―― 動脈管収縮

    誤った組合せである。塩酸リトドリンはβ2受容体刺激薬で、子宮平滑筋を弛緩させる作用により切迫流早産の治療に用いられる子宮収縮抑制薬である。β受容体刺激作用は胎盤を越えて胎児にも及ぶため、胎児頻脈がみられる。また母体の高血糖に反応して胎児のインスリン分泌が増えることなどから、出生後に新生児低血糖を起こすことがある。そのほか新生児の腸閉塞(麻痺性イレウス)の報告もある。母体側では頻脈・動悸、振戦、高血糖、低カリウム血症、肺水腫、横紋筋融解症、無顆粒球症などに注意が必要である。動脈管の収縮はプロスタグランジン合成を阻害するインドメタシンなどのNSAIDsの特徴であり、リトドリンの影響ではない。

  3. ×c.  副腎皮質ステロイド ―― 新生児けいれん

    誤った組合せである。早産が差し迫っている場合(主に妊娠34週未満)や早産期の前期破水などで児の娩出が避けられない場合、胎児の肺成熟を促す目的で母体に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与する。ステロイドは胎児肺でのサーファクタント(肺胞の表面張力を下げ、虚脱を防ぐ物質)の産生を促し、新生児呼吸窮迫症候群を減らすほか、脳室内出血や壊死性腸炎、新生児死亡を減少させることが示されている。このように児にとって有益な治療であり、新生児けいれんを引き起こす薬物として知られているものではない。なお、母体への長期大量投与では胎児発育への影響や新生児の副腎機能抑制に注意が必要である。

  4. ×d.  硫酸マグネシウム ―― 心筋肥厚

    誤った組合せである。硫酸マグネシウムは、妊娠高血圧症候群における子癇発作の予防・治療や、子宮収縮抑制に用いられる。マグネシウムは胎盤を通過するため、新生児は高マグネシウム血症となり、筋緊張低下、呼吸抑制、哺乳不良、腸管運動の低下などをきたすことがある。また長期間(おおむね1週間程度以上)の投与では、胎児・新生児の低カルシウム血症や骨の異常(骨の脱灰など)が報告されている。一方で、妊娠32週未満の早産が差し迫った場合の短期投与は、児の脳性麻痺を減らす(胎児脳保護)効果が示されている。心筋肥厚(心室中隔肥厚)を児にきたす代表的な要因は、母体の糖尿病による胎児の高インスリン血症であり、硫酸マグネシウムとは関係しない。母体側では血中濃度の上昇に伴い、膝蓋腱反射の消失、呼吸抑制、心停止に至るマグネシウム中毒を起こすため、血中濃度や腱反射、呼吸数、尿量を監視しながら投与する。

  5. ○e.  ワルファリン ―― 脳出血

    正しい組合せである。ワルファリンはビタミンKの働きを阻害し、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(第II・VII・IX・X因子)の産生を抑える経口抗凝固薬である。分子量が小さいため容易に胎盤を通過し、胎児の凝固能も低下させる。胎児の肝臓は凝固因子の産生能がもともと未熟であるため、特に強く抗凝固作用を受け、脳出血をはじめとする胎児・新生児の出血を起こしうる。分娩時の産道通過による頭部への圧迫も頭蓋内出血の危険を高める。さらに妊娠初期(おおむね6〜12週)の器官形成期に曝露すると、鼻の低形成や骨端の点状石灰化(点状軟骨異形成)などを特徴とするワルファリン胎芽病を起こし、妊娠中期以降の曝露でも中枢神経系の異常が報告されている。わが国の添付文書では妊婦への投与は禁忌とされ、妊娠中に抗凝固療法が必要な場合には、分子量が大きく胎盤を通過しないヘパリン(未分画ヘパリンや低分子ヘパリン)を用いるのが原則である。

胎盤通過性の考え方

薬物が胎盤を通過するかどうかは、主に分子量、脂溶性、蛋白結合率、イオン化の程度で決まる。分子量が小さく脂溶性の高い薬物は通過しやすく、分子量の大きいヘパリン(数千〜数万)やインスリンはほとんど通過しない。そのため、妊娠中の抗凝固療法にはワルファリンではなくヘパリンを、血糖管理には経口血糖降下薬ではなくインスリンを用いるのが基本である。

妊娠時期と薬物の影響

・受精から約2週(妊娠3週末まで):all or noneの時期。影響を受ければ流産し、生き残れば奇形は残さないとされる。 ・妊娠4〜7週頃(絶対過敏期):主要臓器の形成期で、催奇形性に最も注意すべき時期。 ・妊娠8〜15週頃:口蓋・外性器など一部の器官の形成が続く。 ・妊娠16週以降:奇形よりも、胎児の機能障害(動脈管閉鎖、腎障害による羊水過少、出血など)が問題となる。

産科で用いる主な薬物と児への影響

・NSAIDs(インドメタシンなど):動脈管収縮・早期閉鎖、羊水過少、新生児肺高血圧。 ・β2刺激薬(リトドリン):胎児頻脈、新生児低血糖。 ・硫酸マグネシウム:新生児の高マグネシウム血症(筋緊張低下、呼吸抑制)、長期投与で骨の異常。32週未満の早産では胎児脳保護。 ・副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン):胎児肺成熟の促進、新生児呼吸窮迫症候群・脳室内出血の減少。 ・ワルファリン:ワルファリン胎芽病、胎児出血。

その他の代表的な催奇形性・胎児毒性薬物

・ACE阻害薬・ARB:胎児の腎障害、羊水過少、頭蓋骨低形成。 ・バルプロ酸:神経管閉鎖障害。 ・テトラサイクリン系:歯の着色、骨発育障害。 ・アミノグリコシド系:第8脳神経障害(難聴)。 ・チアマゾール:頭皮欠損、臍腸管の異常など。 ・レチノイド(ビタミンA誘導体):顔面・心臓・中枢神経の奇形。 ・サリドマイド:アザラシ肢症。

POINT

・ワルファリンは胎盤を通過し、ワルファリン胎芽病(鼻低形成、点状軟骨異形成)と胎児出血(脳出血)を起こす。妊娠中の抗凝固療法はヘパリンで行う。 ・インドメタシン(NSAIDs)は胎児動脈管の収縮・早期閉鎖、羊水過少をきたす。 ・リトドリン(β2刺激薬)は胎児頻脈、新生児低血糖をきたす。 ・硫酸マグネシウムは新生児の筋緊張低下・呼吸抑制をきたす。 ・母体へのステロイド投与は胎児肺成熟を促し、児に有益である。 ・母体糖尿病では児の心筋(心室中隔)肥厚がみられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。