妊婦に抗菌薬、どれなら安心?―「耳」と「歯」で覚える胎児毒性
第102回医師国家試験 G問題 第25問
国試問題にチャレンジ
妊婦への使用を避けた方がよい抗菌薬はどれか。2つ選べ。
- a.セフェム系
- b.ペニシリン系
- c.マクロライド系
- d.アミノグリコシド系
- e.テトラサイクリン系
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
妊婦への薬剤投与では、胎盤を通過した薬が胎児に及ぼす影響を時期ごとに考える必要があり、器官形成期には催奇形性、それ以降は胎児毒性が主な問題となります。抗菌薬のうちペニシリン系・セフェム系・マクロライド系は使用実績が豊富で、妊婦の感染症治療ではまずこれらから選びます。一方、アミノグリコシド系は胎児の第Ⅷ脳神経障害(先天性難聴)、テトラサイクリン系は歯牙着色・エナメル質形成不全・骨発育障害を起こしうるため避けます。ニューキノロン系、ST合剤、クロラムフェニコール(グレイ症候群)も妊婦では避ける薬として併せて整理しておくと、実際の処方場面で迷わず安全な選択ができます。
解答・解説
正解はd, eです
妊婦に薬剤を投与するときは、母体への効果だけでなく、胎盤を通過して胎児に及ぶ影響を考える必要がある。胎児への影響は時期によって性質が異なり、器官が作られる妊娠4週〜12週頃(特に4週〜7週の絶対過敏期)は形態異常(催奇形性)が、それ以降の時期は臓器の機能障害や発育障害(胎児毒性)が主な問題となる。 抗菌薬については、長年の使用実績から胎児への安全性が比較的確立している系統と、胎児に特有の障害を起こすことが知られている系統とに分けて覚えるとよい。前者の代表がβ-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)とマクロライド系であり、妊婦の感染症治療ではまずこれらから選ぶ。後者の代表がアミノグリコシド系(胎児の第Ⅷ脳神経障害=難聴・平衡障害)とテトラサイクリン系(歯・骨への沈着による歯牙着色、エナメル質形成不全、骨発育障害)である。 本問は「避けた方がよい」ものを2つ選ぶ問題であり、胎児毒性がはっきりしているアミノグリコシド系とテトラサイクリン系が該当する。
選択肢考察
- ×a. セフェム系
セフェム系はペニシリン系と同じβ-ラクタム系抗菌薬で、細菌の細胞壁合成を阻害する。ヒトの細胞には細胞壁がないため選択毒性が高く、妊娠中の使用経験も豊富で、催奇形性や胎児毒性を示す明確な根拠はない。妊婦の尿路感染症(腎盂腎炎を含む)や絨毛膜羊膜炎などで頻用されており、避ける必要はない。
- ×b. ペニシリン系
ペニシリン系は妊婦に最も安全に使える抗菌薬の一つである。梅毒の治療ではペニシリンが第一選択であり、先天梅毒を防ぐ目的で妊婦にも積極的に用いる。また、B群溶血性レンサ球菌(GBS)保菌妊婦に対する分娩時の母子感染予防にもペニシリン系(アンピシリンなど)が使われる。避けるべき薬剤ではない。
- ×c. マクロライド系
マクロライド系(エリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害する。妊婦での使用実績があり、β-ラクタム系にアレルギーがある場合の代替薬や、妊婦のクラミジア・トラコマティス感染症の治療(アジスロマイシン)に用いられる。一部の薬剤(クラリスロマイシンなど)は動物実験の結果から慎重投与とされるが、系統としては妊婦に使用可能な抗菌薬に分類され、避けるべきものとはされない。
- ○d. アミノグリコシド系
アミノグリコシド系(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシンなど)は胎盤を通過し、胎児の内耳に障害を与えるおそれがある。特にストレプトマイシンやカナマイシンでは、妊娠中の投与により児に第Ⅷ脳神経(内耳神経)障害、すなわち先天性の難聴や前庭機能障害が生じた報告がある。成人でも耳毒性・腎毒性が問題となる系統であり、妊婦への使用は原則として避ける。したがって正しい。
- ○e. テトラサイクリン系
テトラサイクリン系(テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンなど)はカルシウムと結合(キレート形成)しやすく、石灰化が進行している胎児の歯や骨に沈着する。その結果、乳歯の黄色〜褐色の着色やエナメル質形成不全、一過性の骨発育障害を起こすおそれがある。歯の石灰化が始まる妊娠中期以降の投与で特に問題となる。また妊婦自身に重い肝障害を起こした報告もある。同じ理由で8歳未満の小児にも原則として使用しない。したがって正しい。
妊娠時期と薬剤の影響
・受精〜妊娠3週末(無影響期):影響を受けた胚は流産するか、完全に修復されるかのどちらかとなる(all or none)。 ・妊娠4週〜7週末(絶対過敏期):中枢神経・心臓・四肢など主要器官が形成される時期で、催奇形性が最も問題となる。 ・妊娠8週〜15週末:口蓋や外性器など一部の器官の形成が続き、催奇形性への注意がなお必要である。 ・妊娠16週以降:催奇形性はほぼ問題とならず、胎児の機能障害・発育障害(胎児毒性)や、新生児への影響が問題となる。
妊婦に避けるべき、または注意が必要な主な抗菌薬
・アミノグリコシド系:胎児の第Ⅷ脳神経障害(難聴)。 ・テトラサイクリン系:歯牙着色、エナメル質形成不全、骨発育障害。 ・ニューキノロン系:動物実験で関節軟骨障害が報告されており、妊婦には原則禁忌とされるものが多い。 ・ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム):トリメトプリムの葉酸拮抗作用が妊娠初期に問題となり、分娩直前のサルファ剤投与は新生児の高ビリルビン血症(核黄疸)のリスクとなる。 ・クロラムフェニコール:分娩前後の投与で新生児にグレイ症候群(循環不全・チアノーゼ)を起こす。
妊婦に比較的安全に使える抗菌薬
・ペニシリン系、セフェム系(β-ラクタム系) ・マクロライド系(エリスロマイシン、アジスロマイシンなど)
POINT
・妊婦に比較的安全に使える抗菌薬は「ペニシリン系・セフェム系・マクロライド系」。 ・アミノグリコシド系は胎児の第Ⅷ脳神経障害(先天性難聴)を起こしうるため避ける。 ・テトラサイクリン系は歯牙着色・エナメル質形成不全・骨発育障害を起こしうるため、妊婦と8歳未満の小児には避ける。 ・ニューキノロン系、ST合剤(妊娠初期・分娩直前)、クロラムフェニコール(グレイ症候群)も妊婦では避ける薬剤として整理しておく。
