StudyMed医師国家試験

夏の日差しが生む「悪玉オゾン」―光化学オキシダントの正体を見抜く

第102回医師国家試験 B問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第30問

光化学オキシダントの主な物質はどれか。

  1. a.フロン
  2. b.オゾン
  3. c.二酸化硫黄
  4. d.浮遊粒子状物質
  5. e.ダイオキシン類

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大気汚染物質の基本、光化学オキシダントが何でできているかを問う問題だ。着眼点は「その物質が発生源から直接出てくるのか、それとも大気中の反応で新たにできるのか」という区別。ここを押さえると選択肢がすっきり整理できるよ。
医学生医学生
光化学スモッグの原因ですよね。小学生のころ、夏に光化学スモッグ注意報が出て外遊びが中止になったのを覚えています。
ドクタードクター
まさにその現象だ。では光化学オキシダントはどうやってできるか、公衆衛生の講義で習ったかな。
医学生医学生
自動車や工場から出る窒素酸化物と炭化水素が、紫外線で反応してできる、と習いました。
ドクタードクター
その通り。窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC)が太陽の紫外線を受けて光化学反応を起こし、大気中で新しく生まれる酸化性物質の総称が光化学オキシダントだ。発生源から直接出るものを一次汚染物質、大気中の反応でできるものを二次汚染物質と呼ぶけれど、光化学オキシダントは典型的な二次汚染物質なんだ。
医学生医学生
その中身で一番多いのは何か、という問題ですね。でも「オゾン」と聞くと、オゾン層を守る良いもののイメージがあって迷います。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけどころだね。答えはオゾンで、光化学オキシダントのおおむね9割以上を占める。残りはペルオキシアセチルナイトレート(PAN)などの過酸化物だ。二酸化窒素が紫外線で分解されて酸素原子ができ、それが酸素分子と結合してオゾンになる。VOCがあるとオゾンが分解されにくくなり、地表付近にどんどん溜まっていくんだ。
医学生医学生
同じオゾンでも、成層圏にあれば紫外線を防いでくれて、地表にあれば有害になるということですか。
ドクタードクター
そう。成層圏のオゾン層は「善玉」、地表付近のオゾンは「悪玉」と考えるとわかりやすい。地表のオゾンは強い酸化力で眼や喉の粘膜を刺激し、咳や胸部不快感、呼吸機能の低下を起こす。日差しが強く風の弱い夏の日中に濃度が上がりやすいのも、光化学反応だから納得できるよね。
医学生医学生
そうするとフロンは、オゾン層を壊す側の物質なので別物ですね。
ドクタードクター
よく整理できている。フロンは冷媒やスプレーの噴射剤に使われた人工物質で、化学的に安定だから分解されずに成層圏まで上がり、そこで塩素原子を放出してオゾン層を破壊する。強力な温室効果ガスでもある。地表で光化学反応によって生じる物質ではないから、光化学オキシダントの成分ではないよ。
医学生医学生
二酸化硫黄は四日市ぜんそくの原因物質でしたよね。社会医学の講義で公害の歴史として習いました。
ドクタードクター
そうだね。二酸化硫黄は硫黄を含む石炭や重油を燃やしたときに直接排出される一次汚染物質で、気道刺激作用があり、大気中で酸化されて硫酸になると酸性雨の原因にもなる。脱硫装置の普及で、今の日本では濃度が大きく下がっている。光化学反応でできるオキシダントとは成り立ちが違うんだ。
医学生医学生
浮遊粒子状物質はどうでしょう。粒子の一部は大気中の反応でできると聞いた気がして、少し引っかかりました。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに浮遊粒子状物質には大気中で生成する二次粒子も含まれる。ただ、浮遊粒子状物質は粒径10μm以下の「粒子」を指す分類で、ディーゼル排気微粒子や工場のばい煙などが主な発生源だ。ガス状の酸化性物質である光化学オキシダントとは別の汚染物質として扱われる。さらに小さい2.5μm以下のPM2.5は肺の深部まで届き、呼吸器・循環器疾患や肺癌との関連が指摘されている。
医学生医学生
ダイオキシン類はごみ焼却で出る物質で、食物連鎖で体に溜まるイメージです。
ドクタードクター
その理解でいい。塩素を含む物質の低温での不完全燃焼で生じ、分解されにくく脂肪組織に蓄積する。発癌性や催奇形性、内分泌かく乱作用が問題で、主な曝露経路は魚介類などの食物だ。光化学反応とは無関係だね。
医学生医学生
成り立ちと、どんな環境問題に結びつくかで分けると、オゾンだけが光化学反応の産物として残るんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識を押さえよう。大気汚染の環境基準が定められている物質の中で、光化学オキシダントは達成率が極めて低い状態が続いている。二酸化硫黄や一酸化炭素はほぼすべての測定局で達成しているのと対照的だ。原因物質の排出は減っても、二次生成という複雑な仕組みのため改善しにくいんだ。
医学生医学生
臨床で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
光化学オキシダント注意報が出るような日には、喘息やCOPDの患者さん、小児や高齢者で症状が悪化しやすい。外来で夏に眼の刺激感や咳、呼吸困難を訴える人が増えたら、大気の状況も頭に置いておくといい。屋外活動を控えるよう助言することも、予防医学としての大切な役割だよ。

まとめ

光化学オキシダントは、窒素酸化物と揮発性有機化合物が太陽の紫外線で光化学反応を起こして大気中に生じる二次汚染物質であり、その9割以上をオゾンが占め、残りはPANなどの過酸化物です。地表付近のオゾンは強い酸化力で眼・咽頭の刺激や呼吸機能低下を起こし、日差しが強く風の弱い夏の日中に光化学スモッグとして問題になります。フロンは成層圏のオゾン層を破壊する物質、二酸化硫黄は化石燃料の燃焼で直接排出され四日市ぜんそくや酸性雨と結びつく物質、浮遊粒子状物質は粒径10μm以下の粒子、ダイオキシン類はごみ焼却などで生じ食物を介して蓄積する物質として区別します。光化学オキシダントは環境基準の達成率が極めて低く、呼吸器疾患をもつ人や小児・高齢者への影響に注意が必要です。一次汚染物質と二次汚染物質を区別して整理する視点は、大気汚染全般を理解し、患者への生活指導に生かすための基礎になります。

解答・解説

正解はbです

光化学オキシダント(Ox)は、工場や自動車から排出された窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC、炭化水素類)が、太陽光の紫外線を受けて光化学反応を起こすことで大気中で新たに生じる酸化性物質の総称である。発生源から直接排出される物質を一次汚染物質、大気中の反応で二次的に生成される物質を二次汚染物質と呼ぶが、光化学オキシダントは典型的な二次汚染物質である。 その成分の大部分(おおむね9割以上)はオゾン(O3)であり、残りはペルオキシアセチルナイトレート(PAN)などの過酸化物である。したがって「光化学オキシダントの主な物質」はオゾンとなる。 解答にあたっては、各選択肢が(1)大気中の光化学反応でできる二次生成物か、それとも発生源から直接出る物質か、(2)どのような環境問題と結びつく物質か、を整理して考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  フロン

    フロンはクロロフルオロカーボン(CFC)などの炭素・フッ素・塩素を含む化合物の通称で、冷蔵庫やエアコンの冷媒、スプレーの噴射剤、発泡剤、半導体などの洗浄剤として使われてきた人工物質である。化学的に安定なため分解されずに成層圏まで上昇し、そこで強い紫外線により塩素原子を放出して成層圏のオゾン層を破壊する。また強力な温室効果ガスでもあり地球温暖化にも関与する。地表付近で光化学反応により生成する物質ではなく、光化学オキシダントの成分ではない。「オゾン層を壊す物質」と「光化学オキシダントとして生じるオゾン」を混同しないことが大切である。

  2. ○b.  オゾン

    NOxとVOCが紫外線下で反応すると、二酸化窒素の光分解で生じた酸素原子が酸素分子と結合してオゾンが生成し、VOCの存在によりオゾンが分解されずに蓄積していく。こうして地表付近にできるオゾンが光化学オキシダントの大部分を占める。オゾンは強い酸化力をもち、眼や咽頭の粘膜刺激、咳、胸部不快感、呼吸機能低下などを起こす。日差しが強く風の弱い夏の日中に濃度が上がりやすく、光化学スモッグの主因となる。

  3. ×c.  二酸化硫黄

    二酸化硫黄(SO2)は、硫黄分を含む石炭や重油などの化石燃料を燃焼させたときに発生源から直接排出される一次汚染物質である。気道刺激作用があり、四日市ぜんそくの原因物質として知られる。大気中で酸化されて硫酸となり酸性雨の原因にもなる。脱硫装置の普及などで現在の日本では濃度が大きく低下している。光化学反応で生じるオキシダントとは異なる。

  4. ×d.  浮遊粒子状物質

    浮遊粒子状物質(SPM)は大気中に浮遊する粒子のうち粒径10μm以下のものを指す。粒子が小さいため長時間大気中にとどまり、気道や肺に沈着して呼吸器疾患の原因となる。発生源としてはディーゼル車の排出ガス、工場のばい煙、土壌の巻き上げなどがあり、ディーゼル排気微粒子が大きな割合を占める。さらに粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は肺胞などの肺の深部まで到達し、呼吸器・循環器疾患や肺癌との関連が指摘されている。ガスである光化学オキシダントとは別の汚染物質として扱われる。

  5. ×e.  ダイオキシン類

    ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーPCBの総称で、塩素を含む物質を低温で不完全燃焼させたとき(ごみ焼却など)に副生成物として発生するほか、たばこの煙や自動車排出ガスにも含まれる。分解されにくく脂肪組織に蓄積しやすく、発癌性、催奇形性、内分泌かく乱作用などが問題となる。主な曝露経路は食物(特に魚介類)である。光化学反応で生じるオキシダントとは無関係である。

一次汚染物質と二次汚染物質

一次汚染物質は発生源から直接大気中に放出される物質で、NOx、炭化水素(VOC)、二酸化硫黄、一酸化炭素、ばいじんなどが該当する。二次汚染物質は一次汚染物質どうし、あるいは大気成分との反応や紫外線による光化学反応によって大気中で新たにできる物質で、オゾン、PAN、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アクロレインなど)、硫酸塩・硝酸塩などの二次生成粒子がある。

光化学スモッグ

光化学オキシダントを高濃度に含み、白くもやがかかったように見える大気の状態を光化学スモッグという。気温が高く日射が強く、風の弱い夏の日中に発生しやすい。症状は眼のチカチカ感・流涙、咽頭痛、咳、頭痛などで、重いと呼吸困難を起こす。濃度が一定以上になると都道府県知事が光化学オキシダント注意報を発令し、屋外活動の自粛などが呼びかけられる。

環境基準の達成状況

大気汚染に係る環境基準が定められている物質のうち、光化学オキシダントは達成率が極めて低い状態が続いている。一方、二酸化硫黄や一酸化炭素はほぼすべての測定局で達成されている。

オゾンの「善玉」と「悪玉」

成層圏のオゾン層は有害な紫外線を吸収して生物を守っており、フロンなどによるその破壊は皮膚癌や白内障の増加につながる。これに対し地表付近で生じるオゾンは光化学オキシダントとして人体や植物に有害である。同じオゾンでも存在する場所により意味が逆になる。

POINT

・光化学オキシダントはNOxと炭化水素(VOC)が紫外線で光化学反応を起こして生じる二次汚染物質である。 ・その主成分(9割以上)はオゾンで、ほかにPANなどを含む。 ・フロンは成層圏オゾン層の破壊物質、二酸化硫黄は化石燃料燃焼による一次汚染物質(四日市ぜんそく・酸性雨)、SPMは粒径10μm以下の浮遊粒子、ダイオキシン類はごみ焼却などで生じる難分解性の蓄積性物質。 ・光化学オキシダントは環境基準の達成率が極めて低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。