夏の日差しが生む「悪玉オゾン」―光化学オキシダントの正体を見抜く
第102回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
光化学オキシダントの主な物質はどれか。
- a.フロン
- b.オゾン
- c.二酸化硫黄
- d.浮遊粒子状物質
- e.ダイオキシン類
対話形式の解説
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ドクターまとめ
光化学オキシダントは、窒素酸化物と揮発性有機化合物が太陽の紫外線で光化学反応を起こして大気中に生じる二次汚染物質であり、その9割以上をオゾンが占め、残りはPANなどの過酸化物です。地表付近のオゾンは強い酸化力で眼・咽頭の刺激や呼吸機能低下を起こし、日差しが強く風の弱い夏の日中に光化学スモッグとして問題になります。フロンは成層圏のオゾン層を破壊する物質、二酸化硫黄は化石燃料の燃焼で直接排出され四日市ぜんそくや酸性雨と結びつく物質、浮遊粒子状物質は粒径10μm以下の粒子、ダイオキシン類はごみ焼却などで生じ食物を介して蓄積する物質として区別します。光化学オキシダントは環境基準の達成率が極めて低く、呼吸器疾患をもつ人や小児・高齢者への影響に注意が必要です。一次汚染物質と二次汚染物質を区別して整理する視点は、大気汚染全般を理解し、患者への生活指導に生かすための基礎になります。
解答・解説
正解はbです
光化学オキシダント(Ox)は、工場や自動車から排出された窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC、炭化水素類)が、太陽光の紫外線を受けて光化学反応を起こすことで大気中で新たに生じる酸化性物質の総称である。発生源から直接排出される物質を一次汚染物質、大気中の反応で二次的に生成される物質を二次汚染物質と呼ぶが、光化学オキシダントは典型的な二次汚染物質である。 その成分の大部分(おおむね9割以上)はオゾン(O3)であり、残りはペルオキシアセチルナイトレート(PAN)などの過酸化物である。したがって「光化学オキシダントの主な物質」はオゾンとなる。 解答にあたっては、各選択肢が(1)大気中の光化学反応でできる二次生成物か、それとも発生源から直接出る物質か、(2)どのような環境問題と結びつく物質か、を整理して考えるとよい。
選択肢考察
- ×a. フロン
フロンはクロロフルオロカーボン(CFC)などの炭素・フッ素・塩素を含む化合物の通称で、冷蔵庫やエアコンの冷媒、スプレーの噴射剤、発泡剤、半導体などの洗浄剤として使われてきた人工物質である。化学的に安定なため分解されずに成層圏まで上昇し、そこで強い紫外線により塩素原子を放出して成層圏のオゾン層を破壊する。また強力な温室効果ガスでもあり地球温暖化にも関与する。地表付近で光化学反応により生成する物質ではなく、光化学オキシダントの成分ではない。「オゾン層を壊す物質」と「光化学オキシダントとして生じるオゾン」を混同しないことが大切である。
- ○b. オゾン
NOxとVOCが紫外線下で反応すると、二酸化窒素の光分解で生じた酸素原子が酸素分子と結合してオゾンが生成し、VOCの存在によりオゾンが分解されずに蓄積していく。こうして地表付近にできるオゾンが光化学オキシダントの大部分を占める。オゾンは強い酸化力をもち、眼や咽頭の粘膜刺激、咳、胸部不快感、呼吸機能低下などを起こす。日差しが強く風の弱い夏の日中に濃度が上がりやすく、光化学スモッグの主因となる。
- ×c. 二酸化硫黄
二酸化硫黄(SO2)は、硫黄分を含む石炭や重油などの化石燃料を燃焼させたときに発生源から直接排出される一次汚染物質である。気道刺激作用があり、四日市ぜんそくの原因物質として知られる。大気中で酸化されて硫酸となり酸性雨の原因にもなる。脱硫装置の普及などで現在の日本では濃度が大きく低下している。光化学反応で生じるオキシダントとは異なる。
- ×d. 浮遊粒子状物質
浮遊粒子状物質(SPM)は大気中に浮遊する粒子のうち粒径10μm以下のものを指す。粒子が小さいため長時間大気中にとどまり、気道や肺に沈着して呼吸器疾患の原因となる。発生源としてはディーゼル車の排出ガス、工場のばい煙、土壌の巻き上げなどがあり、ディーゼル排気微粒子が大きな割合を占める。さらに粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は肺胞などの肺の深部まで到達し、呼吸器・循環器疾患や肺癌との関連が指摘されている。ガスである光化学オキシダントとは別の汚染物質として扱われる。
- ×e. ダイオキシン類
ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーPCBの総称で、塩素を含む物質を低温で不完全燃焼させたとき(ごみ焼却など)に副生成物として発生するほか、たばこの煙や自動車排出ガスにも含まれる。分解されにくく脂肪組織に蓄積しやすく、発癌性、催奇形性、内分泌かく乱作用などが問題となる。主な曝露経路は食物(特に魚介類)である。光化学反応で生じるオキシダントとは無関係である。
一次汚染物質と二次汚染物質
一次汚染物質は発生源から直接大気中に放出される物質で、NOx、炭化水素(VOC)、二酸化硫黄、一酸化炭素、ばいじんなどが該当する。二次汚染物質は一次汚染物質どうし、あるいは大気成分との反応や紫外線による光化学反応によって大気中で新たにできる物質で、オゾン、PAN、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アクロレインなど)、硫酸塩・硝酸塩などの二次生成粒子がある。
光化学スモッグ
光化学オキシダントを高濃度に含み、白くもやがかかったように見える大気の状態を光化学スモッグという。気温が高く日射が強く、風の弱い夏の日中に発生しやすい。症状は眼のチカチカ感・流涙、咽頭痛、咳、頭痛などで、重いと呼吸困難を起こす。濃度が一定以上になると都道府県知事が光化学オキシダント注意報を発令し、屋外活動の自粛などが呼びかけられる。
環境基準の達成状況
大気汚染に係る環境基準が定められている物質のうち、光化学オキシダントは達成率が極めて低い状態が続いている。一方、二酸化硫黄や一酸化炭素はほぼすべての測定局で達成されている。
オゾンの「善玉」と「悪玉」
成層圏のオゾン層は有害な紫外線を吸収して生物を守っており、フロンなどによるその破壊は皮膚癌や白内障の増加につながる。これに対し地表付近で生じるオゾンは光化学オキシダントとして人体や植物に有害である。同じオゾンでも存在する場所により意味が逆になる。
POINT
・光化学オキシダントはNOxと炭化水素(VOC)が紫外線で光化学反応を起こして生じる二次汚染物質である。 ・その主成分(9割以上)はオゾンで、ほかにPANなどを含む。 ・フロンは成層圏オゾン層の破壊物質、二酸化硫黄は化石燃料燃焼による一次汚染物質(四日市ぜんそく・酸性雨)、SPMは粒径10μm以下の浮遊粒子、ダイオキシン類はごみ焼却などで生じる難分解性の蓄積性物質。 ・光化学オキシダントは環境基準の達成率が極めて低い。
